第4話全国大会2日目
●4.全国大会2日目
大会2日目。個室には窓がないため、翌日という感覚はなく、ただ小休止後といった感じだった。先に起きた桐島。美優は仮眠用ソファで寝ていた。 桐島は、一人でゲームを再開させた。しばらくすると美優も目を覚ました。
総理執務室の画面。
「憲法は無理して改正はしなくても、一時休止で乗り切れることがわかった。このまま行こう」
「しかし総理、次は米中の関係が悪化の一途をたどっています。日の本国として、北米合衆国側に付くしかなのでは」
「戦争にはならないだろう」
「今、防衛省から連絡がありました。先ほど米中の空母が南シナ海で、戦闘状態に入ったようです」
官房長官は、総理執務室のテレビをつけた。そのテレビが画面には、米中の空母から発進する戦闘機の映像が流れていた。
桐島はヘッドセットをオフにした。
「美優、全国大会は、これだからな」
「戦争になっちゃったの、どうしたものかしらね」
「様子を見るしかないだろう」
桐島はヘッドセットをオンにし、時間を進めて見た。
総理執務室のテレビを総理目線で見ている画面になっていた。
ニュースには、戦闘機が飛んでいく映像が流れている。
『「北米合衆国の空母は1隻撃沈1隻大破、中華共和国の空母は2隻中破となっています。しかし米側のメディアによると双方とも大破2隻としています」』
「総理、互角のようですが」
官房長官の声がする。
「いや、これは北米合衆国がおされているだろう。完全な負けになる前に手を打ちたいはずだ」
「北米合衆国に負けてもらうと、日の本国として、窮地に立たされてしまいます」
「米中双方とも、行きかがり上、引っ込みがつかなくなっているようだ。官房長官、ここは一つ、我が国が米中の和平交渉の仲介をしよう」
「米中に劣る軍事力しかないのに可能ですか」
「双方が手を打つか知れない手があるんだ」
画面が切り替わり、国家安全保障会議室になった。
「日の本国駐留の米軍の撤退させ、日の本国を米中の緩衝地帯とする。日の本国の中立を維持するために米中双方に核武装を黙認させる。これで北米合衆国は、負け戦の体面が取り繕えるし、中華共和国は、日の本国いる駐留米軍がいなくなることになる。しかしここでネックになるのは、釜山民国の駐留米軍だが、ここも撤退させ、
我が国と同じ緩衝中立地帯にするしかないだろう」
桐島が言うと、ゲームプログラムは『思考中』になり、画面が一時停止していた。
「ちょっと長い説明だったかな」
「会話AIは世界最高レベルを謳っているから大丈夫よ」
一時停止が解除された。
「総理、この釜山民国は日の本国の核の傘に入るのですか。いくら親日の南鮮人でも、これには抵抗感があるのではないでしょうか」
副総理が言った。
「南北鮮国は北の核の傘に入るのだから、仕方ないのではないですか」
防衛大臣が発言した。
「条文には載せずに、ただ中立とすればいいでしょう。それに釜山民国と言えども、同じ南北鮮人ですから、核攻撃をすることはないはずです」
「まぁ、確かに」
副総理はしぶしぶ同意していた。
「それではこれを米中に打診しましょう」
桐島は言い放った。その後は自動シミュレーションにしておいた。
桐島たちはブランチを食べていた。
「なんか、優勝できそうな気がしてきたよ」
桐島はナシゴレンを食べていた。
「そんな、油断こいていると、また窮地に立たされるんじゃない」
「それもそうだが、しかしここの料理はみんなうまいな」
「あのぉ、このゲームなんだけど、どこか兄貴の思念のようなものが感じられるのよね」
「思念。どういうこと」
「よくわからないけど、このゲームに何らかの形で携わっている気がするの」
「わかった。大会が終わったら、その件について考えよう」
桐島たちは、1時間程かけて食べていた。
ゲーム画面は、総理執務室になっていた。
「官房長官、和平仲介の件は、進んでいるか」
「それが、難航しています。中華共和国側がどうも乗ってこないのです」
「わかった。特使を送ろう」
桐島は、画面上に日の本国特使リストを表示させた。一通り目を通すと、与党議員で中国通とされる人物があった。
「官房長官、特使には、田村久二を起用しよう」
「総理、田村は確かに中国とのパイプが太いのですが、問題がありまして」
「なんだ」
「田村は、女性スキャンダルと失言が多いのです」
「過去のことだろう。これからは改めてもらおう」
「念書でも書かせますか」
「あまり意味はないかもしれないが、書かすだけ書かしておこう。それと失言をしなければ、大臣のポストを約束すると付け加えておいてくれ」
「わかりました。さっそく田村を特使として派遣しましょう」
その後、一週間ゲーム上の時間経過を進めても、和平仲介は滞ったままで、米中は小競り合いを続けていた。しかしさらに3日、時間を進めると、米中の和平交渉の場は京都と決まった。田村は特使として充分に役割を果たしてくれた。その12日後には、桐島の条件も含まれた米中の和平交渉が成立した。
「美優、上手く行ったよ」
「でもこの田村って男は、曲者なんでしょう。気は抜けないわね」
「ちょうど15時だから、ティータイムにでもするか」
「あたしは、紅茶じゃなくて、デラックス・パフェを注文するわ」
「俺は、特製モンブランのケーキセットだ。注文しておいてくれ」
桐島が言うと、美優は素早くインターホンで注文をした。桐島は、自動シミュレーション画面を映画でも見るように見ていた。程なく、注文の品が来ると、ゲームを楽観視し始めた桐島と美優は、夢中で食べ始めた。
桐島はゲームを再開した。総理執務室にいる官房長官の顔がアップになった。
「総理、困ったことになりました」
「やっぱり来たか」
「女性は劣っているから、昔から天皇になれる方が少なかった。彼のこの発言がネットに取り上げられ炎上し、野党の耳にも入り、天皇家の後継者問題を検討しろという声が上がっています」
「今時、劣っているとは…、わかった。田村を災害対策担当大臣から更迭し、後継者問題を検討することにしよう」
桐島は、そう言うとゲームの時間を進めた。
国会内の天皇家後継者問題推進委員会のシーンに画面が切り替わった。この委員会はネットで一部始終が中継されている設定になっていた。
「それでは、女系にするかしないかは、公正を期するためにも国民投票で決めたら良いと思います」
野党の息のかかった委員の一人。
「陛下は国民の象徴ですし、総理も、これなら、ご納得いただけるのではないですか」
別の委員が付け加えていた。
ゲーム上とは言え、桐島は、若干苛立って来た。
「皇統や伝統を大切にしている天皇家に対して、庶民の価値観を押し付けるのは失礼にあたるのではないでしょうか。ご本人たちの意思を尊重する必要があるので、国民投票で決めるのは、もってのほかと言えます。先例のある女性天皇は認めても、女系天皇は認めないのがあるべき姿です。現代においては人工的な医療方法もあるので、ここで貴重な皇統を断絶させるのは、心苦しいことになります。後々の人々から責め立てられても申し開きようがないでしょう。またこれを右翼的な思想に結びつけるのも全くのナンセンスと言えます」
桐島が言い放つと『思考中』となった。
「桐島さん、正論かもしれないけど、このゲームで理解されるかしら」
「議論をする場を提供したのだから、言うことは言う必要があるよ」
画面の『思考中』が解除された。
「確かに。ご本人たちの意思を尊重しましょう」
別の委員が言い出した。
「ご意思は決まっているじゃないですか。男女平等の世の中ですよ」
野党寄りの委員が発言していた。
「本当に男女平等だけが目的ですか、皇統の根拠をなくしたいのでは。共存党は天皇家廃絶を党是としていますよね」
与党寄りの委員が言っていた。
その後、ゲーム上では、天皇家後継者問題に関する国民投票は行われず、慎重に議論が進められて行った。
自動シミレーション画面を見ている桐島と美優。
「見てよ。これで、総理の支持率が上がったみたい」
「支持率58.9%か。ゲーム上の時間は、後2年あるな」
「このまま、穏便に進めれば、総辞職もなく、ゴールにたどり着けそうね」
「大会のリアルタイムは、後、2時間少々か」
桐島は掛け時計を見ていた。
「田村を更迭したし、駐留軍もいなくなったし、このまま行っても優勝できるんじゃない」
「いゃぁー、もう一手、やっておこう」
桐島は思い立ったように総理執務室のシーンに切り替えた。
「総理、いかがいたしましたか」
官房長官が現われた。
「レールガンは、1年以内に実用化できるか」
桐島が言うと『思考中』となった。
数秒後『思考中』が解除され、官房長官が動き出した。
「防衛担当者によりますと、2年弱で実用化できるとのことです」
「もう半年ぐらい早くできないか。無理を言ってやってくれ」
「わかりました」
「それと、静止軌道上に、宇宙船を3つ並べた程度の防衛ステーションを作りたい。これはどのくらいでできる」
ゲーム画面は再び『思考中』となる。
「桐島さん、何をするつもりなの」
「まぁ、見ててくれ、」
『思考中』が解除され、官房長官が動き出した。
「宇宙開発機構によると、こちらは技術的にはすぐなのですが、予算的には2年ぐらいは必要とのことです」
「1年と10ヶ月後に、レールガンを搭載した防衛ステーション完成させたい」
「それは無人ですか」
「できたら有人にしたいのだが、無人でも着実な遠隔操作ができるなら良しとする」
「わかりました。さっそく手配しましょう」
桐島は、ゲーム上の時間を半年後に進めた。
国会の次年度予算委員会が始まっていた。
「総理、防衛費と宇宙開発予算が、多めになっていませんか」
野党議員が質問してきた。
「現在、自力防衛で中立を維持しています。費用が掛かるのは当然のことです」
桐島は、ヘッドセットで応えていた。
「それでは、宇宙開発の方はどうですか」
別の野党議員。
「新たな日の本国独自の宇宙ステーションを建造しているので、仕方ありません」
「独自のステーションを持つ必要があるのですか」
女性野党議員。
「米・中が既に持っています。宇宙立国を目指す日の本国が持って何がいけないのですか」
「これは航宙自衛隊の創設、強いては軍事大国化の兆しとなりはしませんかね」
共存党の女性議員。
「何でも軍事大国化とか言いますが、平和は天から降ってくるものではありません」
桐島の発言に与党席から拍手が上がっていた。これで次年度の防衛ステーション建造開発費は、捻出することができた。
ゲーム画面は自動シミュレーションになっていた。ゲーム上の時間も、ゲーム大会の時間も残り少なくなってきた。
「何か政策をやりかけている段階でゲームが終了すると、減点になるらしいけど、大丈夫」
「途中だと減点されるのか」
桐島は、個室の掛け時計を見てから、時間を進めて総理執務室のシーンに切り替えた。
「もう、1年と8ヶ月が過ぎたが、防衛ステーションの方はどうなった」
官房長官が総理のデスクに近寄ってくる。
「もうまもなくです。来月からステーションの各パーツが打ち上げられます。組立ても含めると、予定よりも一ヶ月遅れのトータルで1年11ヶ月で完成となります」
「ギリギリだな」
桐島は、ゲームを自動シミュレーションにした。
「
「桐島さん、リアルタイムの方だけど、後10分ぐらいしかないけど」
美優は、そわそわしていた。
「わかっている。この最後のひと手間は、何としてでも終わらせるよ」
桐島は、自動シミュレーションのタイムスケールを見ている。そのタイムスケールが残り20日となった所で、ゲーム画面を総理執務室に切り替えた。
「総理、無人の防衛ステーションは、無事完成いたしました。これより2週間かけて試射をして、不具合など調整します」
「14日だな。それじゃ15日後に内外のメディアを集めて、デモンストレーションを兼ねた会見をするから、予定を組んでくれ」
「本物のミサイル打ち上げて、デモンストレーションをするのですか」
「防衛ステーションの威力を公表するために」
「国際的な航空航宙各社などに連絡して破片が落下する地域に注意を促す必要があります」
「破壊したミサイルの破片は燃え尽きるのだろう」
「それでも、正式な手続きを踏む必要があります。ならず者国家ではないので」
「わかった。それでいつになる」
「20日後になります」
桐島は、美優に急かされたので、ゲーム上の時間を20日後に進めた。
総理会見室には、内外のメディアの記者たちが詰めかけていた。会見室の大型スクリーンには、防衛ステーションからの中継映像が映っていた。
日の本国各地の基地から太平洋上の宇宙空間に向けて核弾頭ミサイルが次々に発射された。防衛ステーションのレールガンが小刻みに動き、目標を捉えて弾丸を発射し次々にミサイルを破壊していく。発射されて数分以内に12発全てのミサイルは撃ち落とされた。
「核弾頭を全て廃棄した日の本国は、ここに非核化を宣言し、今後は世界各国の核兵器削減に寄与したいと思います」
桐島がそう言い切り、ヘッドセットをオフにすると、ほぼ同時にゲーム大会の終了時間となった。
「これで全国大会終了となります。プレーヤーの皆さんお疲れ様です。結果発表は明日になります」
個室のスピーカーから開催者の声が聞こえてきた。
美優は桐島の顔を見ていた。
「最後の一押しが吉と出るか凶と出るかね」
「わからない。君の兄さんがいたら、なんて言うかな」
「本当に10年間が過ぎたみたいに疲れたわ」
「まぁ、今日のところは、家に帰ってゆっくりとするか」
個室をノックする音がし、開催係員が入ってきた。
「桐島さんのチームは、明日、結果発表の際は、少し早めにお越しいただけませんか」
「なんでですか」
「表彰式の手筈がありますので」
「ええっ」
桐島と美優は、ニヤニヤしながらハイタッチしていた。
桐島真一
島田美優
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