第2話第2ステージ

●2.第2ステージ

 ゲーム画面は、総理官邸のシーンになり、官房長官の顔がアップになった。

「総理、反日民族ハラスメント対策をいかが対処しましょうか」

「根も葉もない貶め行為をゲーム上でもしているのか」

桐島はヘッドセットをかけ直しながら言っている。

「北鮮人民国、南鮮民国、中華共和国は反日枢軸三国同盟とも言うべき密約を交わしているようです」

「それではその反日枢軸三国同盟をどう分断するかだな」

桐島はゲームを一時停止させて考え込んだ。隣に座っている美優も一緒に考えていた。

「一つ一つ丁寧に説明していくしかないかしらね」

「ゲームでもデタラメな歴史認識をしている設定なんだろうな。中華共和国の歴史を引き合いに出すか」

桐島はゲームを再開させた。

「中華共和国では古代高句麗国は地方政権という立場を取っているのに、南北鮮国では自分たちの民族の政権としているから、そこを突くこう」

桐島の言葉に、ゲームは『思考中』になった。

 「どうかしらね。本物の歴史がゲームにも反映されているかしら」

美優は、一時停止している思考中の画面を見つめていた。


 思考終了と表示された。

「官房長官、どうだ」

「具体的にどのようにするのですか」

「まず、日の本国と中華共和国の民間共同で高句麗歴史調査団を発足させよう。中国の地方政権が極東半島に進出した立場でな」

「わかりました」

「それと当たり前だが、漢字の起源も古代中国にあることを明確にしよう」

桐島が言うと、ゲームはシミュレーション思考を開始する。


 ゲーム画面では、日中の高句麗歴史調査団が編成され、中華共和国東北部にある集安の高句麗遺跡を訪ねている映像が流れていた。

「それで、兄さんの消息はつかめたかい」

「一応、警察には届けを出して置いたけど、どうもね」

「そうか。それで今日は俺に会いたくて来た、なんてことはないよな」

桐島は一旦、ゲームを中断させた。

「まぁね。今度『アンタが総理』の大会があるから、二人で参加しないかと思って」

「そんな大会があるのか。優勝賞金は」

「300万円だって」

「それじゃ、ステージをちまちまクリアさせて仮想通貨を集めるよりも稼げるな。乗ったぜ」

「ただ、大会期間中は、各チーム個室に閉じ込められるらしいわ。スマホも使えずにね」

「外部との接触なしにゲームに没頭しろってことだな」

「俺もだいぶ、腕が上がってきたから」

「それじゃエントリーしておくわね。今日は、実家に行って兄さんのこと説明しないといけないから、失礼するわ」

美優は、素っ気なく部屋を出て行った。桐島は、なんとなく、良い雰囲気になった気がしていた。


 桐島は、ゲームを再開した。画面上には官房長官がアップになる。

「総理、高句麗歴史調査団の方は、順調に進んでいます」

「20世紀前半の歴史を使われると、奴らが仲良くなれるんもしれないが、古代の歴史なら、中華共和国をおだてることができる。これが仲違いのきっかけになることを願っているよ」

「他にすることはありますか」

「日の本における高句麗渡来人の遺跡の骨とかがDNA鑑定ができると決定的な証拠になるが、できるかな。埼玉県日高市の高句麗王族の末裔とされている人々のDNA鑑定も興味深いものになるだろう」

「なるほど」

官房長官は、感心している表情になった。バージョンアップ以前では、見られなかった表現だった。

「それと宋書、南斉書、梁書、後漢書などの古代文献を冷静に中立的に判断する必要がある。後は、高句麗のほぼ同時代のこととして、任那日本府や南鮮民国の南部に見られる前方後円墳についての見解を中華共和国と共通のものにすれば、派手に仲違いをするはずだ」

「わかりました」

官房長官は、総理執務室を出て行った。


 桐島はゲーム上の時間を早送りし、総理官邸のシーンにした。官房長官がアップになる。

「南鮮民国の世論が狂乱的になり、中華共和国と日の本国に謝罪を求めてきています」

「民間組織がしていることだし、揺るがない歴史的事実なのにか」

「さらに埼玉県日高市の高麗家に放火する南鮮民国人まで現れました」

「ちょうど良い機会だ。ビザ発給を停止させよう」

「閣議決定ですか」

「審議する必要はないだろう」

「わかりました」


 桐島は、昼食を取った後、ゲームを再開した。

「総理、おめでとうございます。反日枢軸三国同盟から中華共和国が離脱しました」

官房長官が言い、その横には総理秘書の女性が微笑んでいた。

「しかし、総理これで終わりではありません。まだまだ民族ハラスメント行為は続いています」

「任せてくれ、次の秘策は環日の本海経済圏構想だ。これに参加するなら、北鮮人民国に何らかの援助することを臭わせる」

「その参加国は」

「日の本国、露連邦国、北鮮人民国、南鮮民国だ」

「まさに日の本海を囲む国々ですな」

「露連邦国は何も気にすることなく乗って来るだろう。しかし北米合衆国には内々に言っておかないと裏切り行為と見なされるからな」

「それで…南北の鮮国は呼称に異を唱えるのではないですか」

「それが狙い目なんだ。経済圏の呼称は変えないが参加すれば援助をするとし、北鮮人民国と南鮮民国の関係に揺さぶりをかける」

「実際に援助をするつもりですか」

「鼻からその気はないが、それらしくしようと思う。もしかすると北鮮人民国と通じている野党が同意したりしてな」

「さっそく外務省を通じて手配いたしましょう」

官房長官が言うと、ゲームはシミュレーション思考を開始した。


 桐島は、ゲームがシミュレートしている時間経過の映像を眺めていた。

画面が自動的に切り替わり、総理女性秘書の顔がアップになった。

「総理、茨城県農政会長とのゴルフコンペの準備はお済みですか。お車が参りました」

桐島は、総理スケジュール・メニューを呼び出して確認すると確かに予定が入っていた。桐島はヘッドセットをオンにした。

「あぁ、すぐに行く」

桐島が言うと、ゲーム画面上は車が移動するカーナビのような映像になった。

 画面が切り替わり、ゴルフコース上になった。

画面が2分割になり総理目線の画面も現れ、クラブが振られ、玉が青い空に吸い込まれていく。

「ナイスショット」

茨城県農政会長の声が聞こえてくる。総理目線の画面の方が茨城県農政会長の顔がアップになった。

「次は私の番ですな。総理には負けませんよ」

画面が引き、茨城県農政会長がクラブを構える姿になる。茨城県農政会長がクラブを振った瞬間、銃声がする。総理目線の画面が揺れて、倒れ、芝生がだけが見える。

「総理、どうしました」

茨城県農政会長の声。私服警護のSPたちが走り回る映像が、ちらりと見えていた。

『総理暗殺未遂事件が発生』と画面上に表示された。


 画面が切り替わり、病室の映像となった。男性総理秘書官が立っていた。

「総理、暗殺未遂事件の犯人は南鮮民国籍の男でした」

『総理コメント・する・しない』と画面上に出た。

桐島は『する』を選択した。

「南鮮民国の関与はあるのか」

「単独犯だと主張しいるとのことです」

「俺の入院期間はどれくらいなのだ」

「既に1週間が経過し、退院は2ヶ月後になっています」

「そんなにか」

桐島は、ゲームの時間経過を進め2ヶ月後にした。


 臨時国会の画面になっていた。衆議院議長の顔がアップになる。

「桐島総理は総理の任にあたり2ヶ月間の滞りがありその責は重く不適任とされ、内閣不信任が可決されました」

与党、野党議員たちが一斉に万歳を斉唱していた。

『ゲームオーバー』と表示された。

 「何だよ、途中まで上手く行ってたのに」

桐島は、PCのキーボード放り投げていた。ゲーム画面には、桐島のゲーム評価が表示されていた。

「そうか。セキュリティー度を高めていないのが行けなかったか」

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