アンタが総理大臣
@qunino
第1話本格PSG(ポリティカル・シミュレーション・ゲーム)
●1.本格PSG
桐島のスマホの画面にはリアルな国会の映像が流れていた。
「政治活動費で、掛け蕎麦を50名分、注文したのですか」
女性野党議員の顔がアップになり、漢字が少なめの字幕が出ている。
「あれは政治パーティの一環としてと、聞き及んでいます」
老練の男性与党議員の顔に切り替わりと字幕も出ている。
「正直に答えてください。掛け蕎麦を食べんたんですか。食べなかったんですか」
「掛け蕎麦を食べたかどうかと聞かれれば、食べてますが、それが政治活動費の不正には、あたらないと考えています」
野党議員と与党議員の顔が交互にアップなっていた。
「50名分ですよ。あなたが一人で掛け蕎麦を全部食べたというのですか」
「この掛け蕎麦問題は、今、この防衛予算委員会で、お答えしなければいけないのでしょうか。差し迫った極東半島状況もありますし」
「そうやってね、あなたは逃げるのですか。国民は、掛け蕎麦問題を一番気にしているのですよ」
野党議員が喋り終わると、官房長官が目の前に現われた。
「総理、Jアラート発令です。現在我が国に駐留している北米合衆国の基地にミサイルが向かっています。着弾は3分後です」
国会は騒然となっていた。
「嘉手納基地、佐世保基地、横須賀基地は迎撃失敗。横田基地、厚木基地は迎撃成功です」
官房長官が報告する。
「総理、いかがいたしますか」
官房長官の顔がアップになる。
画面の下方に選択肢が出て『直ちに報復』『国連を通じて制裁』『降伏』が反転していた。桐島は、報復を選択した。
画面には『その選択肢は準備が整っていません』と表示された。
桐島は次に制裁を選択した。
『その選択肢は、手遅れです』と表示。
桐島はしぶしぶ降伏を選ぶと、ゲームオーバーになった。
「桐島、お前、下手くそだな。こうなるまで自前で武器を調達していなかったのか」
桐島のスマホをのぞき見していた島田は、歯がゆそうにしていた。
「だって、日の本国の制約パラメーターには、憲法による制約があったから」
「そんなの馬鹿正直に従わないで、改正すれば良かったのに。それが本格PSGの醍醐味じゃないか」
島田は自分のスマホにあるやりかけの『アンタが総理大臣』を起動させていた。
「島田のお手並み拝見だな。俺はちょっとコンビニでおやつを買ってくるよ」
「桐島、ポテチはのり塩味な」
「あるかどうか、わからんぞ」
「あぁ、それとここのテレビ画面を使わしてくれるか。大画面でゲームをやると迫力があるからな」
「裏の端子ソケットでスマホとつなげば、使えるよ」
「わかった。埃が凄そうだな」
桐島は、部屋を出ていく。島田は、テレビの後ろに手を回していた。
桐島がコンビニから帰ってくると、島田は日の本国の国内世論を変えようとしていた。
「おぉ、どうだ。武器とかは購入しないのか」
「桐島、のり塩買ってきたか」
桐島はは島田の目の前にポテトチップスの袋を置く。島田は袋を開けて、一つつまむとティッシュで手を拭いていた。
「桐島、このゲームはまず国内世論をまとめないと、まともな手が打ていないんだ」
「どうすればいいんだ」
桐島は、島田の横に座り込んだ。
「この場合、偏向報道をしているマスコミをつぶすために、野放しのテレビ局に規制をかける」
「そんな簡単にできるのか」
「まず、所轄官庁の経産省の大臣に働きかける」
島田は、スマホをキーボード・モードにした。
「キーボードを使わないと、迅速にコマンドを送れないからな」
「そうか。このゲームは本格と銘打っている分、現実の政治の状況にも関心を持っていないとダメだな」
「まぁ、見てくれよ」
島田は、コマンドを打ち込みながら、日ごとに高くなっていく世論支持率のパラメーターを見ていた。
「うまく、行ってるな、お前、ゲームのプロとしてやっていけるんじゃないか」
「俺もそのつもりだけど」
「おい、島田、あの赤い点滅はなんだ」
「国内でテロだな」
島田は、ゲーム上の総理官邸の画面に切り替えた。
首相執務室には官房長官がいた。
「総理、偏向報道の締め付けを不服とした左翼勢力が新宿で暴動を起こしました」
音声とともに字幕も表示されていた。
「島田、暴動だってさ、どうするんだ」
「強制的に抑えないでおこう。なりふりかまわぬ左翼の行動を国民に見せよう」
「暴動を鎮圧しないのか」
「左翼のやり口を知らしめないとダメなんだ。それと俺が設置した反日対策庁のエージェントの動きを確認しないとな。何か報告があるかもしれない」
「そんなもの設置したのか」
「あぁ、あったぞ、左翼勢力が北鮮人民国の工作員と手を組んで柏崎原子力発電所を襲う計画があるそうだ」
島田は、スマホのボタンを手早く操作し、全国の原発の位置を把握していた。
「このゲームは、いろいろな動きがあるから、むずかしいな」
「桐島、今何時だ」
「もうすぐ5時なる」
「いっけねぇ。明日のオーディションの練習しなきゃならなかった」
「なんのオーディションだ」
「プロゲーマーのオーディションだよ。悪ぃな、このゲームの続きは、お前のスマホにダウンロードしておくよ。
お前がやってくれ。俺は帰る」
島田は、手早くダウンロードさせながら、上着を羽織っていた。
島田は慌ただしく部屋から出て行った。桐島は、いきなり引き継ぐことになった。
突然画面が総理官邸の執務室に切り替わる。
「総理、北鮮人民国の武装難民らしき船舶が新潟沖に現れました」
官房長官が喋り、字幕がタイプされた。桐島はスマホの音声認識装置をオンにした。
「自衛隊を出動させ殲滅させる」
官房長官の顔がアップになる。
「まだ領海侵犯の状態なので、警告を発し、手続きを踏まないと武器の使用は認められません」
「官房長官、何を言っているんだ。上陸するのは間違いないだろう。自衛隊を出動させろ」
「総理、柏崎原発がテロリストに占拠されました」
官房長官は淡々と言っている。
「新潟沖の船はどうした」
「まだ動きはありません」
「テロリストには武器は使えるよな」
「テロリストが声明を発表しました。降伏しなければ、ここで核爆発を起こすとのことです」
「こんな時に総理になったら、大変だな。そうだ俺は島田総理じゃない。内閣総辞職でりセットだ」
「総理の都合で総辞職は難しくなっています」
「あぁ、面倒くさい。ゲームオーバーにしてくれ」
桐島が言うと画面が切り替わった。
画面には『今すぐゲームを終了しますか。「はい」「いいえ」』と表示された。
「はい、はい、はいで、セーブなしだ」
桐島は、スマホとつながっている端子を外そうとする。ゲームが終了する寸前、ネットにつながっているので、このゲームソフト会社のCMが流れる。『本格PSG「アンタが総理大臣」では、ゲームの獲得ポイントごとに仮想通貨を発行。仮想通貨・1(souly)ソウリー=0.12円』とあった。
桐島は、同僚2人と共に昼食を食べていた。
「うちの会社、いよいよ危ないらしいぜ。桐島は、転職先を決めたのか」
同僚の須賀は、真剣な顔をしていた。
「まだ大丈夫だろう。転職サイトに登録はしておいたが」
「須賀、俺には聞かないのか」
「だって鈴木は、外食チェーンのエリアマネージャーの口が決まっているのだろう」
「もう広まっていたのか」
「大方、自分で吹聴していたんだろう」
「何を失礼な」
3人が食べている席にもう一人の同僚が近寄ってきた。
「お、みんなお揃いだな。俺もそこに座っていいか」
田中がトレーを持って座る。
「今日、午後一に重大発表があるってさ。たぶん終りってことだろう」
田中は、呆れかけているようだった。桐島たちは、顔を見合わせていた。
「そうか。ついにか。俺は仮想通貨で稼ぐしかないか」
桐島が言うと、一同は、桐島の方をじっと見る。
「お前、仮想通貨の投資なんてやってたのか」
田中は、早口になっていた。
「まぁ、ゲームのポイントが10円分ぐらいかな」
「あぁ、例のゲームか。そんなんじゃ生活の足しにはならんぞ」
須賀は鼻で笑っていた。
「桐島、離婚した妻の慰謝料とかなかったか」
鈴木は心配そうにしていた。
「ある」
桐島は、愕然としていた。
桐島は『アンタが総理』の攻略本をダウンロードし、研究し始めた。それと同時に転職活動をしていたが、会社が閉鎖となるその日もまだ決まっていなかった。桐島は帰宅すると、島田にメールと電話をしたが、全く応答がなかった。
桐島は、島田の妹がバイトをしているコンビニに行ってたみた。
「あぁ、桐島さんでしたっけ、うちの兄、どこに行ったか知りませんか」
妹の美優に逆にたずねられてしまった。
「ええ、聞こうと思ってたんだが、妹さんも知らないのか」
「なんかプロゲーマーのオーディションに行くって言ったけど、本当ですか」
美優はレジ袋にポテトチップと牛乳の紙パックを入れ終えていた。
「俺も、そう聞かされていたが、多分本当だと思う」
「桐島さんも『アンタが総理』やるんですか」
「最近、本格的に始めようと思っているけど、君の兄さんには及ばないよ」
お釣りももらって、レジ袋を手にしたままレジの前で話しをしていると、後ろの主婦が迷惑そうに咳ばらいをしていた。
「あぁ、あたしも本格的にやろうと思ってまして、バイトの帰りに寄ってもいいですか」
「いいけど」
美優は、軽くうなずくと、桐島の後ろの主婦に声をかけていた。
桐島はバージョンアップさせた『アンタが総理』を自宅のPCと大画面テレビでやっていた。紛糾している国会の画面に切り替わる。
「総理、あなたは、唯一の被爆の日の本国が核を持つなんて、正気の沙汰とは思えません」
女性野党議員が言った。
「対話もせずに軍事力で圧力をかけるとは、どういうことですか」
別の男性野党議員。
桐島は『総理の答弁』のボタンを選択する。ヘッドセットのマイクをオンにした。
「あなた方は、根本が見えていない。核を持つことで対等な話ができると確信している連中に、核もない我が国と対等な話し合いのテーブルにつくと思いますか。馬鹿にして見下すだけです。対等に話し合うためにも、核武装は必要なのです」
桐島の答弁にゲームのプログラムは『内容分析中』と表示し10数秒沈黙した。
「総理、北鮮人民国の挑発に乗り、限りない軍拡競争になります。近隣諸国に配慮して日の本国としては武器を持たずに交渉するべきです」
女性や党議員は、いきり立っている。
「近隣諸国に配慮したから、このような結果になったわけでして。中華共和国、露連邦国、北鮮人民国それに併合される可能性が高い南鮮民国、この統一国が核を持つとしたら、日の本国だけが核武装していないことになります。バカにされて、とんでもない要求をつきつけてくることは目に見えています」
桐島は総理のコメント終了にした。
「そんな理屈は通りませんよ」
と女性や党議員。
「総理の横暴だ」
と男性野党議員。
「戦争反対」
野党席から声が上がっていた。ゲーム上の国会は野党議員たちが暴れ出して与党議員たちに飛びかかっていく。応戦する与党議員たちは、血まみれになっていた。
インターホンが鳴ったので、桐島は画面を切り替えた。桐島はドア口まで出迎えて、美優を大画面テレビの前に座らせた。
「桐島さんは大画面でやっているの。兄が桐島さんの所に行きたがるわけだわ」
「でも、島田の奴、いや兄さんはどこに行ったんだろうな」
「あたしが、ここに来たのも、何か兄の痕跡がないものかと思って」
美優は、桐島のマンションの一室を見回していた。
「島田が残したものは何もないぜ」
「あたし、信じてもらえないかも知れないけど、時たま人やモノに宿る思念を読み取ることができるんです」
「あぁ、そんなようなことを聞いたことがある」
「兄が、ちょっとイカレていると言ってたでしょう。普通じゃないかもしれないわね」
「いろんな人がいるからな。それで、なんかわかったの」
「ダメだわ。でも桐島さんは『アンタが総理』で稼ぐしか道がないと思っているでしょう」
「えぇっ、そんなのわかるの」
「今日は調子いいわ。あたしもコンビニのバイト辞めて『アンタが総理』で稼ぐつもりなんだけど」
「店長がいやらしい奴とか」
「桐島さんも、思念が読めるわけ」
美優は突然鋭い目で桐島を見た。
「あてずっぽうに言っただけだけど。気にしないでくれ。それでどう稼ぐつもりなんだ。あのゲーム、結構難しいぜ」
「…本当は兄に教えてもらって、稼ごうと思ってたんだけど、行方不明じゃね」
「奴のだから、ひょっこり現れる気がするけど」
「今、『アンタが総理』やってたんでしょう。続けて見せて」
ゲーム上の官房長官の顔がアップになる。
「総理、日の本国の核武装について北米合衆国が承認しました。国連安保理では英連合王国と仏共和国が保有やむなしとしたのですが、中華共和国と露連邦国が拒否権を発動して、国連の承認は得られていません」
「そうか。それで駐留北米合衆国軍の撤退の件は、どうなった。大統領は議会と相談しないとわからないと言っていたが」
桐島はヘッドセットをしている。
「核を保有するなら、駐留する意味がないとして全面撤退することになりました」
官房長官が言った直後、桐島はゲームを一時停止させた。
美優は、大画面で停止している官房長官の顔を見てから桐島の方を見た。
「どうしたの」
「このまま途中経過を見るよりも、結果を早く見たくないか」
「時間を早めることができるの」
「昨日ダウンロードした最新バージョンは、音声認識機能が充実したし、早送りができるようになったんだよ」
「そう、それじゃやってみて」
桐島はH2ロケットのミサイル転用や、核爆弾の開発を防衛省に指示した。ゲーム上の4ヶ月後に北米合衆国の核実験施設で初の地下核実験が行われ成功した。この結果、南鮮民国が条約を破ることはなくなり、北鮮人民国の動きも慎重になったが、国内に問題を抱えるようになってしまった。連日のように国会周辺で、左翼による軍国化反対のデモが行われ、国旗や桐島総理の顔写真が焼かれる騒ぎになっていた。
ゲーム上のニュース番組。
『「このように日本の世論は完全に核保有反対に傾いています」
国会の周辺の映像が流れる。
「国会周辺では、空前絶後の12万人規模のデモが連日行われ、軍国化反対の叫び声がこだましています」
と女性キャスター。
「いゃー、このままだと徴兵制が復活して、他国を侵略することになります。なんとしてでも阻止しないと」
とコメンテーター』
桐島は総理官邸の場面に切り替えた。
「官房長官、デモ隊は12万人もいるのか」
桐島は官房長官にヘッドセットで呼びかけた。
「いえ、総理、あれは主催者発表でかなり誇張しています。実際の所、1200人というところでしょう」
「そうか。テレビ局の所轄官庁の経産大臣に偏向報道の規制しよう」
「国会で審議するのですか」
「いや閣議決定だ」
ここで桐島はまた時間を早送りにした。
偏向報道規制後、さらに左翼の暴動が激化した。大阪梅田で過激派と右翼が激突して暴動に発展。東京では池袋と渋谷で、与党議員の選挙事務所が焼き討ちされた。沖縄では、基地存続を求める団体が那覇で座り込みをし、核保有に反対する団体が沖縄市で集会を開いていた。
ゲームがシミュレーションする状況に対して、桐島はいろいろな手を打つが、事態の収拾ははかれなかった。しかし、かろうじて内閣不信任案は否決されていた。
桐島は『総理の会見』を選択した。
「日の本国が革新及びリベラルと呼ばれる方々に、ここまで乗っ取られていることを知らなくて申し訳ありませんでした。今までの政策を全て撤回いたします。ですから核は放棄しますし、偏向報道は今まで通りにします。それに護憲を貫きましょう」
桐島が会見を終了させようとエンターキーに手をかけた時、ゲーム上の会見場は大騒ぎになった。
「革新勢力に乗っ取られているとは、どういうことですか」
記者の一人が叫ぶ。
「そのままズバリですよ。何もできないってことです」
桐島は、ゲームのキャラクターに対して、腹が立ってきていた。
「職務放棄ですか」
別の記者の声。
「違います。話し合いが必要と言うことです」
「総理、一連の責任はどう取るのですか」
「北鮮人民国の動向を見つつ、国連と連携して対処するつもりです。これが責任を全うすることです「暴動などが起き、社会が不安定になりましたが、これはどう責任を取るのですか」
「暴動は起こした者の責任ですから、厳しく追及します」
「自ら内閣総辞職するつもりはありますか」
女性記者が静かに言う。
「この状況下では、かえって混乱を増すばかりです。余計な選挙費用は使わないため、任期を全うします」
桐島はそう言い終えると、会見のシーンを終了させた。
桐島は総理官邸の画面に切り替えた。官房長官の驚き顔がアップになっている。
「総理、あんなことを言って、これからどうするおつもりですか」
「国内では、このまま穏便に済ませる。しかし北米合衆国に日の本国の亡命新政府を樹立させる」
桐島の発言にゲームの思考プログラムは『内容分析中』と表示し、しばらく沈黙した。
「亡命新政府の首班は誰ですか」
「この私が兼任する」
「通常亡命政府は、現政府に反している組織なので、あり得ないことですが」
「堅っ苦しいこと言うなよ。今までやってきたことを亡命政府が引き継ぐだけなんだから」
「それでは撤回というのは、嘘ですか」
「ダミーってところかな。暴動ばっかりじゃかなわんからな。必要な時に新政府を入れ替えるつもりだけど」
「クーデターを起こすのですか」
「自分がやるんだからクーデターとはちょっと違うが、似たようなものかな。こんな制約パラメーターの中で、北鮮人民国の危機を回避するには、これしかないだろう」
「うまく行くでしょうか。それで核保有の件は」
官房長官との会話はAIの学習機能によって、しっかりと成立していた。
「もちろん核保有するし、ミサイル開発やレールガンの開発は北米合衆国と共同で続行する。亡命政府は北米合衆国と利害が一致しているから、つぶされることはないだろう」
桐島はヘッドセットをオフにした。
「今日の所は、この辺でセーブして終りにしよう。家まで送っていくよ。友人の妹だからな」
「何か複雑だし、桐島さんの奇想天外な発想に驚いたわ」
「兄さんに、匹敵するゲーマーかな」
「それは、わからないけど、ポイントが稼げそうだからお金にはなるんじゃない」
美優は、ゲームを続きをやりたそうにしながら帰って行った。
桐島は、意外に近所だった美優の自宅まで送り、自室に戻りゲームを再開した。桐島はゲーム上の閣僚のスキルレベルを見ていた。外務大臣、防衛大臣のレベルが高かった。この2名と与党議員でスキルの高い者を数名を不倫などのスキャンダルで議員辞職させた。辞職させた者は、亡命政府の大臣や要職につけさせた。この結果、新たな改造内閣が発足した。この内閣には、大臣になりたくてしょうがない当選回数だけが多いスキルレベルの低い議員を多数抜擢させておいた。野党からは大臣の大盤振る舞いと揶揄されたが、与党の結束は固くなった。野党は与党を攻める材料が減り出番が少なくなった。
桐島は北鮮人民国に対して、日本は一度手にした核兵器を手放したので、これに見習い、核兵器を手放せと迫ったが全く反応はなく、6回目の地下水爆実験をしていた。日の本国や北米合衆国と南鮮民国は形の上では同盟関係にあったが、この時点で南鮮民国は水爆実験を黙認し、北鮮人民国の支配下に入りつつあった。さらに野党の一部からは、自衛隊が違憲である声高に言い始めていた。この間、桐島が創設した亡命新政府は、着々と核兵器を整え、議論を重ねて従来の憲法も改正し自衛隊を明記させていた。ただその効力は政府が入れ替わらない限りなかった。
桐島は総理官邸のシーンに切り替えた。
「レールガンの方は開発はどこまで進んだ」
桐島は、ゲーム上の亡命政府の官房長官に特別回線で聞いていた。
「かなりの部分までできましたが、実戦配備の段階には至っていません」
「核ミサイルがあるから必要はないかもしれないが、地球上から核兵器を廃絶するには核兵器を越える兵器が必要だからな」
「総理、こちら北米合衆国では、かつてないほど北鮮人民国の危機感が高まっています。そちらは大丈夫でしょうか」
「駐留北米合衆国軍基地があるから、狙われるとか安心だとか報道では無責任に言っているが、どちらもあてにはならない。相変わらずだ」
「総理、我が亡命新政府は、いつでも現政府と入れ替われる状態にあります」
「それが頼みの綱だからな」
桐島の頭の中には、ステージ・クリア・ポイントの仮想通貨獲得が頭にちらついてきた。このような奇策を打つゲーマーはいないだろうと思っていた。
時間を少し早送りにする桐島。
「総理、国連で北鮮人民国が声明を発表しました」
ゲーム上の日の本国亡命新政府の官房長官が、総理官邸の執務室の大型スクリーンに映っていた。
「どんな内容なのだ」
「今、そちらに映像を転送します」
亡命新政府の官房長官の画像が、国連会場に切り替わった。
「我が北鮮人民国は、北米合衆国全土を射程にした核ミサイルの発射準備が整った。北米合衆国は極東半島から手を引き、我が国と和平条約を締結しなければならない。その上で、今までの経済制裁による損出分を賠償金として支払う必要がある」
北鮮人民国の国連代表の言葉は、画面上にも字幕としてタイプされていた。
「官房長官、我が日の本国に対しては、どんな要求を突き付けてきたのだ」
「こちらになります」
別の角度から国連会場が映されている画面に切り替わった。
「日の本国は北米合衆国との同盟を解消し駐留軍を完全撤退させなければならない。その上で北鮮人民国と国交樹立し、こちらが指示する戦後賠償金を払い、今後の経済支援もしなければならない。核保有国たる北鮮人民国の申し立てに対して、核を持たない日の本国は対等に話すことはできず従うのみである。もし愚かにも逆らう場合は、日の本国は核の炎に焼き尽くされことになる。それでも生き残った者は、戦犯民族虐殺収容所送りとなり、ガス室で処分されることになる。この地球から日の本国人を絶滅させなければならない。我が北鮮人民国は非常に慈悲深く寛大なので、5日間の猶予を与える。生きながらえるか、絶滅か選択するが良い」
「いかにも、奴らが言いそうなことだが、核保有国どうしなら、一方的な話し合いにはならんわけだな」
桐島はヘッドセットを通して、ゲーム上の亡命新政府の官房長官に話しかけていた。
「総理、機が熟したようです」
「わかった。後はこっちで対処する」
桐島は臨時国会の画面に切り替えた。
「総理、あなたが制裁ばかりかけるから、こういうことになるのです。もっと前から対話をしていれば良かったのです。この責任はどう取るつもりですか」
女性野党議員が責め立てていた。
「今さら、責任どうこうって問題じゃないでしょう」
「こうなった以上、北鮮人民国の要求を受け入れましょう。北米合衆国軍も撤退させられるので、悪いことばかりでもないかもしれません」
別の男性野党議員。
「あんた、それでも日本の議員なのか。こんなバカな要求受け入れられると思いますか、私は国交樹立にあたっては、終戦の際に極東半島に放棄した個人資産を清算してから、戦後賠償金を払うのが筋ではないかと思います。だいたい既に南鮮民国に払っているのに、二重取りになるのではないですか」
「しかし逆らえば、核の火の海になるのですよ」
「こういうこともあろうと思って、北米合衆国に亡命新政府を作っておきました」
国会内は、ざわついていた。ゲームのプログラムがリアルな風景を演出していた。桐島は、一時停止させて風景を眺めていた。野党の末席にいる議員まで表情が付けられていた。杉本は一時停止を解除した。
「こんなていたらくな、政府では危機に対処できない。現日本政府は、本日をもって新日本政府に占領統治されることになります」
桐島は、きっぱりと言い放った。野党議員たちは、口をぽかんと開けていた。
「新日本政府ですかぁ、誰が率いているのです」
与党議員の一人がたずねてくる。
「この私が兼任しています。しかし閣僚はここにいる人たちではありません。それに憲法にも自衛隊の存在は明記されていて核も保有しています。ですから北鮮人民国とは対等に話ができます」
「それって、クーデターですか」
女性野党議員は、口をへの字に曲げていた。
桐島はゲーム上の国会内に設置されたカメラの方向に視線を矢印を向けた。
「今までの政府では50年はかかりそうな改革を断行する秘策です。どう取ってもいいですけど、今から新政府の私が日の本国を指揮します。国民の皆さん、北鮮人民国は狂っていない限り、余計な手出しはできないはずです」
国会の映像はテレビで中継されている設定になっていた。
桐島は総理官邸の画面に切り替えた。画面上にある『総理声明発表』を選択する。
「日の本国は政府が変わりました。私が率いる新政府が交渉相手になります。新生日の本国は、北鮮人民国のミサイル施設に照準を定めた核兵器を保有しています。万が一、核を我が国に向けて使用した場合、北鮮人民国も火の海になることは確実です。もう少しまともな話し合いをすることを提案いたします」
この声明は、ゲーム上の全世界に広まる設定になっていた。中華共和国、露連邦国、南鮮民国、北鮮人民国は、日の本国は嘘つきだと非難し、北米合衆国、英連合王国、仏共和国、独連邦国、印度国はいち早く新政府を承認していた。この結果、極東半島を取り巻く環境に新たな核の抑止力ができあがった。
日の本国の危機は回避されて、このステージはクリアできた。ゲーム画面上に、ポイントと獲得仮想通貨額が表示された。獲得仮想通貨は50万ソウリーで、5万円に換金できることになった。
翌日、桐島がゲーム画面にアクセスすると、後日談が作られていて、特別ボーナスポイントが付与されていた。後日談を見てみると、ゲーム上の新政府の総理官邸のシーンから始まった。政府が一新されてから、半年が過ぎた設定になっていた。
「総理、レールガンが完璧な兵器として開発が完了しました」
官房長官の嬉しそうな顔がアップになった。
「それは良かった。これで全世界の非核化が実現できるかもしれない」
「それと総理、露連邦国は、北方領土に駐留北米合衆国軍の基地を置かないことが確約できるなら、交渉の余地があると言ってきています」
「駐留軍基地は今年中に撤退するのだから確約はできる。北鮮人民国や中華共和国にとっても日の本国に駐留軍がいないのは、良いことであろう。北米合衆国にとっても、負担が減ったのではないかな。しかし日の本国に対して北米合衆国がニコニコしているのは、同盟関係にある限りだと思う」
官房長官の顔がアップになった。
「日の本国から北米合衆国軍基地を撤退させ、露連邦国と領土問題を解決へと導き、北鮮人民国の核ミサイル危機を回避させた功績は大きいと思います」
官房長官は、うやうやしく言っていた。
この言葉に桐島はゲームに対する手応えのようなものを感じていた。ゲーム画面は、次のステージのデモ画面を流していた。
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