再会
それから5年後祖父幸太郎が死去した。そのふた月後孫じいちゃんこと鈴木孫六も後を追うように亡くなった。
現在ならロンドンから東京まで飛行機で数時間で帰国できるが昔は船か鉄道のどちらかでありどちらとも時間がかかる。
当然葬儀には間に合わなかった。
しかし幸次郎もケンブリッジ大学を卒業したので四十九日の法要に合わせて帰ってこいと父から電報が来た。
ここでいったん帰国することを幸次郎は決めた。
当時は一人で寮に入っていたので荷物は大したことはなかった。
帰国するにはシベリア鉄道のほうが早いと思い幸次郎はヨーロッパ大陸に渡りシベリア鉄道でウラジオストクに向かった。
ひと月近くかかりウラジオストクに到着しそこから新潟港まで船での移動である。
新潟の港が見えると幸次郎は手足を伸ばした。
「久しぶりの日本」に着いた安堵から幸次郎は梅干しが食べたくなった。
新潟の港について売り子に話しかけたが5年もクイーンイングリッシュの国にいたため日本語が出てこない。
売り子のほうでもお土産は売っていても梅干しは売っていない。
困っていると一人の軍人が近寄ってきた。
見ると壺を持っている。
軍帽をとると彼は笑った。笑みに幼い日の面影が残っていた。
「源太ー」
そう彼こそ明石源太であった。
今は陸軍少尉である。
「やっと島流しからもどったか」
「待たせたな」
と二人の瞳から涙が流れていた。
「お前が食べたいと思って梅干しをもってきた」
「なんだよ。梅干しかよ。おれはうなぎが食べてくて帰ってきたんだ」
「食えよ」
と源太が壺から梅干しをつかみ幸次郎の口の前に出した。
幸次郎はそのまま梅干しに食いついた。
「しょっぱいなー」
幸次郎はそういって笑った。
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