第21話 意識する
妙な寝心地の悪さを感じながら目を覚ました。
自分ちじゃ、無かった。白っぽい天井。
「…?」
応接室か何か。
身体に誰かのひざ掛けみたいなのがかけられている。これ、応接室のソファだ。寝返りも打てない。
何があった?
思い出そうとしてみた。
朝、出勤して、佐々木さんと吉田さんが喋ってるのを横目に自席についた。
鞄をデスク下に投げ込んだ。
引き出しから名札を出したことも覚えている。
ダルいな、変な夢見たな、って思った。
机に突っ伏したかもしれない。
ダルいなって。
ああ、なんか身体熱いわ。熱あんのかな。あのまま机で寝ちゃったか。めちゃ恥ずかしい。
めんどくさいって思いながら身体を起こす。
熱あるんだったら帰ろう。
その前に、どうやって部屋に戻ろう。荷物全部あっちにあるし…。
なんてぼんやり考えてたら、ドアが開いて吉田さんが入ってきた。
「あ、後藤、大丈夫?」
「…はい」
「熱あるぞ、誰か送ろうかって今」
「いえ、大丈夫です。自分で帰れます。途中で医者寄ります」
そう言ったら吉田さんがちょっとホッとした顔をした。
「そっか、思ったより元気そうだな」
「すいません」
「じゃあ荷物取ってくる。どこにある?」
「机の下に」
「了解了解」
吉田さんが部屋から出ていった。ひざ掛けを畳む。ちょっと身体がふわふわする。昨日変な夢をみたのは体調が悪かったせいか。家を出る前から熱があったのかも知れない。気が付かなった。さっきドアが開いたとき、佐々木さんだったらどうしようかと思った。意識し過ぎだ。呪いは解けない。
吉田さんが、ビルの出口まで荷物を持ってくれた。
「調子悪かったら明日も休んで良いからな。絶対熱下がってから来いよ」
「ありがとうございます」
のろのろ歩きながら、気になっていたことを訊いてみた。
「あの〜、応接室まで、吉田さんが連れってくれたんですか?俺、覚えてなくて。身体が怠いと思ったことは記憶にあるんですけど、もしかして、机で寝てました?」
そうしたら、吉田さんが「どうだったかな~」と呟いた。
「確か、机に突っ伏してるなと思って声をかけたんだったと思う。そしたら、後藤、椅子から落ちそうになって…。それでその辺にいた全員で応接室に運んだんだけど、全然覚えてない?」
落ちそうになったんだ。
「ぜんっぜん覚えてないです。すいません。ありがとうございます」
恥ずかしい。みんなに、自己管理できてないって思われただろうな。
なんで熱出るかな、俺、なんて自問自答していたら、
「そういやさ」
吉田さんが逆に俺に質問してきた。
「後藤って佐々木と仲良いと思ってたんだけど、違った?」
「え?」
不意打ちの質問に、固まる。
「違ったか」
「いや、まあ、あの…石原さんの同期なので、よくしていただいてたっていうか」
「ああ、そういやそうだったな」
「は、はい…」
うまく誤魔化せたかな。
「佐々木、後藤が椅子から落ちそうになった時、すっ飛んできて」
「え?」
「その割に他の奴が集まってきたら居なくなってて」
うわあ。
「そういや仲良かったよな~、喧嘩でもしたかな~って、その時ちょっと思って」
「いや、先輩と喧嘩とか、無いです無いです」
「ま、喧嘩っていうと変な感じだけど、なんかあったのかな?って」
「無いです無いです」
そんな会話になって、なんだかムカついてきた。
ちょっと、周りに気を遣われてるぞ。
もうちょっとうまくやれよ、佐々木!
…隠してくれよ。
建物を出たところで吉田さんから鞄を受け取り、礼を言って別れた。駅に着くまでにある内科に寄ることにした。
奴が馬鹿すぎてムカつく。
マジであいつの記憶全部消し去ってやりたい。
世間一般の普通の振る舞いができないのかな。
いや、普通の振る舞いの基準が曖昧な人だ。普段から変で。常識があるようでいて全く無くて、偏見が…なんか色々無くて、無さ過ぎるくらい無くて。友だち思いなのか何なのか線引きが分かんなくて、後輩思いかと思ったら違ってて。距離詰めてくるかと身構えてみたけど、意外と詰めてこなくて。何考えてるのか分かんなくて。変態っぽかったり、やっぱり常識人っぽかったり。…何考えてるんだろう。今。俺のこと、今はどう思っているんだろう。
諦めたか。
呆れたか。
飽きたか。
ぐるぐる。ぐるぐる。
ぐるぐる考えているのは熱があるせいだと思う。昨日からずっと佐々木さんのことを考えているんだ。
不本意ながら。
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