天雷暦617年 空に瞬く星々

 丁度座れそうな所を探して腰降ろす。夜のせいもあってか視界が暗くとても見づらい。

 明日は大都市の訓練学校に行くので自分のお気に入りの場所に来た。


「よいしょっと」


 小さい頃にわざわざ山の頂上に徒歩で行き夜の星を見た。この世の景色とは思えない程に美しかった事を憶えている。

 その時からだろうか、疲れた時や思い詰めた時は1人でここに来る。


「はぁ……」


 息を吐くと白い煙が出る、きっと寒いせいだろう、ていうか寒い……。


「何か羽織るか毛布持って来た方が良かったな……」


 そう言いながら想像していなかったあまりの寒さに思わず肩をさする。


 サッサッサッサッと土草を蹴る音が何処からか聞こえる。


「おーいカリマー!」


 元気一杯の声が響きその声が聞こえた方向に目を向ける。まるでそよ風を色で表したかのような薄い緑色、長い髪を結ばずに下ろした髪型、童顔にとても似合っている。


 「ん……?アイラ、どうしたの?」 


 すると手に持っていた毛布を俺に向けていきなり顔面に投げつける。


「ヴッ!いきなりなにす」

「何すんだじゃないわよこの馬カリマ!」


 なんで怒られるの……。


「あんたこんな寒い季節真っ最中の夜に薄着一着しか着ない馬鹿が何処に居るのよ!ホント馬カリマね!」


 そこまで言う必要あるのか……。ガラスハートの俺にはとても響く。


「あーすまんすまん今度から気をつけるか」

「何回も聞いたわよその言葉」


 え…そうだっけ。憶えがない。


 はぁー…とため息をつくアイラ。


 内心はぁー…とため息をつく俺。


 彼女の名前はアイラ、血は繋がっていないが大切な俺の家族だ。家族と言っても俺を合わせて3人だ。物心付いた時には俺もアイラも血のつながった家族は居なかった。そして優しい(怒ると般若)女性のクレールに引き取られた。


「まぁいいわ、クーさんがそろそろ戻って来なさいって言ってた」

「嘘だろ!?今来たばかりなんだけど!」

「季節を考えればしょうがない事だと思うけど」

 でも魔物の事も考えれば戻った方が良いのかもしれない…。

 この世界“モンスター“という存在が居る。いつから存在しているのか、生まれていたのかは全く不明な生物。大体のモンスターは人間達を見つけると襲いかかってくる。しかしそのモンスターがここ最近凶暴化してきている。その影響からか行商人達の出入りも少なくなって来ている。


 とにもかくにもこうしてボーッとしているわけにもいかないので毛布を片手にアイラと共に歩いて山を降りる。まともに道が整備されていないためか自然のアーチが歩行の邪魔をしてくる。虫がつかないか少し不安だ…。


 歩いているとランタンの淡い光が見えてくる。木製と鉄で作られた門を超えると石と木材で出来た家がちらほら見えてくる。村の中央近くに俺達の家があるのでそこまで向かう。庭に入る、雑草を刈るためのカマや作り途中であろう未完成のイスが置いてある。

 

 木で出来たドアのノブに手をかけて回す、カチャッと良い音を立てて扉が開く。


「ただいまー」


 中は意外と広く部屋が4つある。キッチンに目を向けると黒い髪を下ろし眼鏡を付けた若い女性の姿があった。


「お、帰ったな~馬カリマ」

「あんたもそう言うのか……」


 流行っているのだろうか…。


「はぁー。ただいまー」

「お、アイラもお帰り。悪かったわね、こいつ連れ戻すのにわざわざ作業中に歩かせちゃって」

「もう馴れたし別にいいわよ~」

 

 まるで俺が10歳超えてない子供みたいじゃないか……。


「ほら、そこの少年!さっさと手を洗ってきなさい」

「へーい」

 少々不満は残るが手洗い場に向かう。アイラはもう洗ったらしくクレールの所に向かい手伝いをしている。


「冷たっっ!」


 蛇口から出てくる水が冷たくて思わず小さい声を出す。しかしクレールはこんな冷たい水にも我慢して俺達の服や布団を毎日洗濯してくれている。今更だが感謝したくてもしきれない。

 

 洗い終え濡れた手をタオルで拭く、終えた後に俺もクレールの所に行く。


「俺は何をすればいい?」

「お、じゃあお皿出しといて!」


「うん。」と返事し棚から3人分の皿を出し机に並べる。並べられた空き皿にキャベツやにんじんが入った真っ赤なスープが入れられる。ミネストローネだ。

 そしてアイラが3つの空き皿に3人分のご飯をよそい机に運ぶ。夜ご飯のメニューが並べられた所で3人共座る。


「いただきます」

「「いただきます」」

 

3人で手を合わせてスプーンを取る


「美味い……」


 トマトの味と野菜が丁度良くマッチしてとても美味しい。


「ふふん、そうでしょ!なんたってクレールさんが作る料理だからね!」

 

 お店でも開けるレベルだ。


「毎回思うけどクーさんの料理は凄いわ…。私ももっと頑張らなきゃ……」

「あら、アイラの料理も結構良い線行ってるわよ?お嫁さんに行っても申し分ないわよ」


 カレー以外はね……。と小声で聞こえないように言った事を俺は聞き逃さなかった。


「えへへ…照れちゃいますよ…!」

 

 頬を少し赤らめるアイラ


 アイラのカレーの事を思い出して背筋に悪寒が走る。すぐに忘れよう……。


「ごちそうさま」


 空になった食器を運びキッチンに置く。2人も終えたようで食器を運びに来る。


「カリマはそろそろ寝なよ」


 クレールが食器を洗いながら言う。


「はーい」


 入学試験に寝坊して遅れるわけにもいかないので言うとおり寝室に行く。ベッドに横たわると眠気が一気に襲い掛かってきた。重い瞼を閉じるとスッと意識が遠のった。

 

  

   夜が深くなり村が静まりかえる

      虫の声が聞こえる

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