【エモシオン】
@gougou555
天雷暦416年 ーいってらっしゃいー
【これはこの世界で起こった出来事のほんの一部】
ある小さな村、そこにある一軒家。
「……」
瞼が重く思考が追いつかない。
今座っているのか立っているのかすらも理解出来ていない。
「起きろ!」
透き通った声と共に(コツン)と後頭部に軽い衝撃が来る。
「あー……おはよ」
とりあえず軽く姿勢を変えて後ろを見る。
髪を後ろに1つのリボンでまとめた、世間的に言うと”ポニーテール”というのだろうか、少し目が細く顔立ちが整ってる、胸は小さ
「あんた妙な事考えてない?」
これが女の直感というものか…
「サンドウィッチの具材に何合うか考えてた」
多分バレないであろう嘘を吐いて目の前に置かれてる木製スプーンを握って皿に入っているシチューを食べる。
「嘘でしょ」
あ…バレた。
「皆に迷惑掛けちゃ駄目よ!」
ぐっ……。
「そんな子供じゃな」
「子供ね」
即座に否定された……。
この世界(ノーヴィ・ミール)は”モンスター”という生物が存在する。
いつから出没したのか、どうやって出現するのか、正体不明の生物。
しかし、全てが謎に包まれているわけではない。モンスターは”基本的”に人(ヒューム)を襲う習性がある。
そのモンスターから人(ヒューム)を守る組織を守護組織(ガルディエ)。俺は今日その組織ガルディエに入るつもりだ。理由は多くあるが1番の理由は「大切な家族」を守るため……なんだか恥ずかしくなってきた。
「はぁ……本当に”こんな”男の子が組織に入れるのかしら」
「だから子供じゃない!」
ぐむむ言いたい事ばかり言いやがって!
「ダンジール師匠にも才能あるって言われたんだぞ!」
フフンと鼻を鳴らす。
「あー…槍(ランス)の技術しか良い所がない変態爺さんね」
凄い冷めた目で虚空を見つめてる、思い出しているのだろうか…モンスターより怖い。
「結局師匠は何者だったんだろ。組織の人ではないと言ってたし」
大体の村には定期的に旅の商売人が訪れて来る、無論商売人だけではなくモンスター退治を生業とし各地を旅する狩猟者(ハンター)や上級民がやってくる。
しかし突如としてこの村に訪れて来た正体不明の爺さん(ダンジール)は何者なのか、何故旅をしているのかも教えてくれなく笑ってごまかす。
「心配してるの?確かにお爺さん一人旅なんてこのご時世では聞いた事ないけどあの人なら大丈夫よ」
「確かにそうだな…」
そう、ダンジールはただの爺さんというわけではなく強い、とても強い。
以前何度も手合わせをして貰ったがいつの間にか自分の背後に回っていたり武器の軌道を読んでいるかのようにギリギリに引きつけ容易に躱す。以前商人から”仙人”という言葉を教えて貰ったがそのようなものだろうか。
「とにかく俺は組織に認めて貰う程の力は付いているという事だな!」
思い出すとキリがないので忘れる事にする。
「はぁ……本当に大丈夫かしら」
自分にわざと聞こえるように呟く。
「思いっきり聞こえてるぞ…」
袋に必要な物を入れて、木製で作られたドアを開けようとする。
「これ忘れてるわ」
ブレスレットを差し出して来る。
「おっと、忘れる所だった!ありがとな!」
貰ったブレスレットを腕に付けて今度こそ木製のドアを開ける。
ギィィという古めかしい音を立てながら新鮮な空気が入ってくるのを体で感じる、日の光がとても温かい。
「気をつけてね…手紙送るから……」
泣きそうな声、なんだかんだでとても心配しているのが鈍感な自分にもわかる。
「おう!一旦落ち着いたら帰ってくるから」
思わずこちらまで泣きそうになるが精一杯元気な声で気づかれないように取り繕う、多分バレてる…。
「元気に待っててくれよな!”サリィ”……いってくる!」
「”レイト”……いってらっしゃい」
--これは昔の出来事--
男の子は自分になら出来る。自分は周りとは違うと思っていた。そう思う事で自信を保っていた、大きな恐怖を隠せていた。
花が芽吹き、枯れる。
生命が生まれ、生命が止まる。
同じ形など存在しない”空”が数え切れない程に変化していく。
桜が咲き乱れる。
蒸し暑い空気の中で虫たちが元気良く声を鳴らす。
地面が紅葉に埋もれひとつの芸術になる。
天からの贈り物が地上を空白の世界に変え水が綺麗なガラスになる。
”それ”が数え切れない程繰り返される。
ーー天雷暦617年ーー
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