家庭の味①

昨日は、僭越ながら出汁の取り方を料理人さん達へ伝授させて頂いた。

そうはいっても凄く簡単にだけどね!

何故なら、リオンが数多く揃えた調味料の中に、顆粒だしや麺つゆが含まれていたからだ。

これがあれば簡単に美味しい物が作れる。

勿論、きちんと出汁を取った方が美味しいし、料理の質は格段に上がる。

料理人さん達は、鰹節や昆布で取った出汁で作った味噌汁の味に、とても感動をしていたから、彼らなら完璧な出汁を作り続けてくれるだろう!

…という事で、本格的な出汁は本職の方にお任せする。お願いします!


さてさて…今日は麺つゆを使用して、家庭の定番の肉じゃがを簡単に作ります。

因みに、料理教室の参加者はリオン、ユーヤ、料理人のロキさんだ。

ロキさんは31歳。料理人歴十六年で、料理長や副料理長に次いで三番目の腕の持ち主だそうだ。そんなロキさんは十歳年下の可愛い新妻がいるらしい。くっ…リア充め…。


…コホン。

では気を取り直しまして…調理を開始しよう。


木野家の肉じゃがといえば、豚肉と人参、玉ねぎ、じゃがいも、糸こんにゃく、エリンギ、しめじ等々を入れるのが定番だ。

調味料だけでなく、リオンがたまたま仕入れていた食材の中に、木野家の定番の具材が含まれていて助かった。

異世界の食材を初見で使える技術は…無い。


先ずは鍋を熱し、少量の油でお肉を炒める。

肉じゃがと言えば、牛肉派と豚肉派で分かれる所だが、木野家は豚肉だ。 豚肉に限らず、牛肉でも鶏肉でも何でもOKだ。

『その時に安い食材を美味しく調理すれば良いのよ!』と言う亡き母の教訓による。

どんなお肉でも『肉じゃが』には変わりないからだ!


…っと、脱線した。

豚肉を塩コショウで色が変わるまで炒めたら、くし切りにした玉ねぎと、一口大に切った人参やじゃがいも、エリンギ。石づきを取ったしめじを入れて軽く炒める。

ひたひたになる位の水を鍋に入れたら、食べやすい大きさに切った糸こんにゃくを入れ、落し蓋をしてしばらく煮る。

具材が程々に柔らかくなってきたら、料理酒とチューブの生姜、麺つゆで味を整える。

そうして具材が柔らかく煮え、味が染み込んだら…木野家の肉じゃがの完成だ。


「出来ました!」

笑顔で、くるっと振り返ると…。

リオンとユーヤ、ロキさんの三人の視線が鍋の中の肉じゃがに釘付けになっていた。


「え…ええと…早速、試食しますか?」

苦笑いを浮かながら尋ねると、三人はコクコクと大きく首を振った。

そんなに期待されると一気に不安になる。

味にはそれぞれの好みがあるし…もし気に入らない味だったら…と、思うと怖い。


「…どうぞ。」

三人の前に肉じゃがの入ったお皿を置く。

厨房に食事を取る為のテーブルや椅子はないので、立ったままの試食になる。

……。

私は祈るようにギュッと両手を握り締めながら、みんなの反応を待った。


「…っ!」

味の染み込んだじゃがいもを一口含んだユーヤが大きく瞳を見開いた。

「…っ!!」

「…っ!!!」

リオンとロキさんもユーヤと同じ反応をする。

それは…美味しいの?それとも美味しくない反応なの?

「おいい!!」

尋ねようと口を開くと、ユーヤが満面の笑みを浮かべた。

プニプニの頬っぺたを押さえながら食べるユーヤ。

「葵の作るご飯はやっぱりおいいね!!昨日の味噌汁もおいかったけど!」

…赤ちゃん言葉になっているユーヤに突っ込むべきか否か…。

私はふふっと笑みを洩らした。

自分の作った料理をこんなに喜んでくれるのは、弟の悠翔だけだと思っていた。作った甲斐があったというものだ。


「これが肉じゃがですか。」

「ああ。絶妙な具材と味のバランスが癖になるな。これなら芋はダーレンのを使っても良いかもしれない。」

「ああ…そうですね。後で試してみますよ。」

そんな話をしている、リオンとロキさんのお皿は既に空っぽだ。

リオンとロキさんにも美味しいと思ってもらえたらしい。


ホッと安心した私は、やっと自分の分の肉じゃがに手を伸ばした。

ホクホクしたじゃがいもに麺つゆベースの味がしっかりと染み込み…エリンギとしめじ、糸こんにゃくの食感が楽しい。甘辛い豚肉を食べると…白いご飯が恋しくなってくる。

うん。いつも通りの木野家の味だ。

自画自賛になってしまうが、やっぱり慣れている家庭の味は安心する。

食べ終わった私が『ご馳走様でした』と手を合わせると、何故か膝間付いたリオンに右手を取られた。

そして、私が首を傾げる間も無く……

手の甲にキスを落とされた。


っ?!


「葵。ありがとう。とても美味しかったよ。」

少しだけ頬を赤らめたリオンが微笑む。


王子様かっ…!!


って…リオンは本物の王子様だった。


「ど、どういたしまして…?」

本物の王子は、どうしてこんなにキラキラしているのだろうか。

手の甲にキスとか、今の時代に日本でいきなりされたらセクハラものだ。

しかし、こんなにキラキラなイケメン王子からお姫様的な扱いをされたら…ドキドキしない訳がないじゃないか!!

…思わず押さえた心臓の辺りがバクバクと脈打っていてひどく痛む。更に全身の血管が沸騰しているのではないかと思う位に熱い。


思わずリオンから視線を反らす。

まともに顔なんて見ていたら溶けてしまいそうだ。


リオンに好意が無くても、みんなこうなるよね?!私だけじゃないよね?!

私の心は、先ほどから言い訳めいた事を言い続けている。


…駄目だ。全然落ち着かない。


それは動揺している私をジッと見ているリオンのせいだ。視線を合わせなくてもがこちらを見ているのは気配で分かる。

そして…腹立たしい事に、リオンが満面の笑みを浮かべている事にも気付いている。


動揺している私の何が楽しいのだ!?


苛立ちが沸いてきたそんな時。

「葵ー。どうたのー?」


ポスッと、ユーヤが私の頭の上に落ちて来た。

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