異世界へようこそ②
「葵。足の具合はどう?」
ソファーに座っていた私にリオンが尋ねてくる。
…あの日。
私からの怒濤の質問攻めが続き…。
とんでもない事が発覚した。
サファイアブルーの瞳が綺麗なイケメン王子こと、リオン・ダーレン。
彼はなんと、この異世界の本当の王子様だったのだ。
この異世界…【ウォーレン】の中にある一番の大国『ダーレン』。その第一王子。
このダーレンは、緑と花、そして精霊達の加護のある国なのだそうだ。
その中でもリオンは沢山の精霊達に愛されている
この世界で魔法を使う為には、精霊達の力を借りなければならない。
その為、沢山の精霊達の加護があるリオンは、色々な魔法が使える(回復以外)。更に異世界間移動といった究極魔法も使えるのだという。
彼はある目的や仕事の為に、ちょくちょく日本を訪れており、私と出会った日もその用事で転移をして来た直後だったらしい。
因みに、リオンだけなら簡単に異世界移動が可能なのだが、私の様なただの異世界人をダーレンに移動…つまり召喚する事は、召喚者にかなりの精神的負担を伴わせる為、短期間で何度も行き来するのは好ましくないそうだ。
リオンがわざわざ究極魔法を使用してまで、日本とダーレンを行き来するある目的とは何か。
それはなんと…日本の調味料の為だったのだ。
ダーレンには最低限の塩や胡椒しかなく、たまたま訪れた日本で食事を取ったリオンは、豊かな味のバリエーションにひどく感銘を受けたそうだ。
日本以外にもアメリカやヨーロッパ等々の各国を回り料理を食べ歩いたが、日本で作られている食べ物が一番彼好みらしい。
自国で日本食を広めようと、色々な調味料や素材を持ち帰ってはいるものの、料理人さん達が味を再現をするのにとても苦労していて、なかなか進展していないそうだ。
それならばいっその事、料理人さんを日本で修行をさせようか…と話し合っていた所に、偶然にも日本人の私がこの世界に召喚された。
大得意という訳ではないが、弟を育てる為に日常的に料理を作っていた私。
ここで暫くお世話になるのだから、代わりに私が教えられる範囲でなら…と、伝えると、輝く程に眩しい期待の篭った眼差しをリオンから向けられてしまった。
なので、『期待には応えられないかもしれません!』と、しっかり釘を刺させて頂いた。過剰な期待はダメ絶対!
「痛みは無いし、大丈夫だよ。」
私が答えるとリオンは安心した様に微笑んだ。
この世界でお世話になるようになってから、必ず毎日リオンに聞かれる。
怪我させてしまった事をリオンはずっと気にしているのだ。
…リオンだけのせいではないのに、だ。
「良かった。じゃあ、今日も…。」
リオンはそう言って、ソファーに座る私の足元にしゃがみ込んだ。
折れている右方の足に向かって何かを呟くと同時に、ポンと小さな羽の生えた男の子が現れた。
「ユーヤ、よろしく頼むよ。」
リオンが男の子に話し掛けると、ユーヤと呼ばれた男の子がポンと自分の胸を叩いた。
「了解!僕にまかちぇてよ!」
あ、噛んだ…。
途端に真っ赤になるユーヤ。
格好をつけたいお年頃らしいのだが、たまに噛んで赤ちゃん言葉になる。
…そこが可愛かったりする。
「葵…笑ったね…?」
キッと琥珀色の瞳が睨み付けてくる。
サラサラな茶色の髪に、琥珀色の瞳。
淡い緑色の帽子とお揃いの色の上下の服を見に纏った小さな可愛い男の子。
ユーヤは精霊の男の子だ。
「…ごめんね。可愛いくて…つい。」
私は苦笑いしながら素直に謝った。
「もー!可愛いって言われても嬉しくないんだからね-?」
ぷうっと頬を膨らませるユーヤは、幼い頃の弟を思い出させる。
悠翔もこんな風に可愛かった。今もだけど!
リオンが精霊のユーヤを
右足が折れている私は、松葉杖無しでは満足に歩く事が出来ない。
そんな私が自由に動ける様に…とリオンは精霊に助けてもらう事を提案した。
そうすれば私は、普通に移動する事が出来る。
一日目はバランスを取る練習だけで終わってしまったが、今では大分慣れたので何ら支障はない。
リオンはこれらを見越してダーレンに私を連れてきたそうだ。
ここなら日本より自由に過ごせるから…と。
…何というお人好しなのだろうか。
初めて会った見ず知らずの他人の為に、ここまでしてくれるなんて…。
しかも、日本にいる弟の面倒まで見てくれているのだ。
リオンには感謝しかない。
私が彼に返せる事と言ったら、日本食の作り方だ。
リオンの為に精一杯頑張ろう。私はそう決めたのだ。
「じゃあ、今日も厨房に行きますか。」
ユーヤに魔法をかけてもらった私は、ソファーから立ち上がった。
浮いている為に、今日も足に負担をかける事なく歩き出せる。
「うん。よろしく。」
「今日は何かなぁ。」
微笑むリオンとにっこり笑顔のユーヤと一緒に厨房を目指した。
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