隠し日本語一級検定
さて、今日はここで一つ講義をしたいと思うんだ。
講義の内容は隠し日本語一級検定だ。
なんでも日本語というものは世界の言語の中でも難しい部類に入るそうだ。
同音異義語、て、に、を、はの使い分け等が得に難しいと聞く、
とくに同音異義語なんてのは発音と前後の文脈で判断するものだから外国の人にはひどくわかりづらいらしい。
だが今回講義するのはもっと難しい。 なぜならこの講義はどの日本語検定にも載ってない、純粋な日本人ですら状況によっては間違ったり正しかったりするという超絶難度の検定だ。
もし仮にこれを正式な日本語検定にしたら、日本語は世界一難しい言語になると確信しているよ。
それくらいの難度だ。
まあ、こんな日本語が続くならばこの国は沈むことになるだろうから、無くなることを俺は心から祈ってるがね。
さてそれじゃ講義を始めよう。
まずは読解問題だからだ。
Q 退社時間直前に上司から仕事を任されました。 この場合の最適な答えはどれでしょうか?
ヒントを言っておこう。 まずこの読解でもっとも読むべきところは空気だ。
空気だって? お前は酸素計測器なのか? って言われそうだが、まあ落ち着いて聞いて欲しい。
さて、答えの候補をいくつか予想してみようか?
A 残業対応で解決する。
A 明日に回して今日は帰る。
A 誰かに押し付ける。
さて君たちの答えはこのどれかに入っているだろうか?
それでは最低限の答えを言おう。
最低限の答えは タイムカードを押してから残業代をつけずに仕事をその日のうちに終わらせるだ。
意外だったかな? もしかしたら少しはこの答えを予想していた人間もいるかもしれないね。
だが仮にテストでこう答えたらこれも残念ながらアウトだ。
why? どうして金も貰わずに仕事するんだい?
what? それは違法なことじゃないか?
そもそも仕事のマネージメントは上司の仕事だというのに直前でそんなことをしてくる無能な上司が問題なんじゃないのかい?
と言う外国人は居るだろう。
確かにそれは一面的には正しい。 だがここは日本だぞ? そんな答えをしていたらこの国では生きてはいけないのだよ。
さて大分みんなの頭にクエスチョンマークが浮かんでいるようだから私が模範解答を上げるとしよう。
正解は 『残業着けないで仕事をして、バレたら上司からは何も言われてません。私が勝手にやりました』だ。
誰かがいまクレイジーと言ったような気がするが、私はあえてこう答えようじゃないか。
世界よ! これが日本だ!
さて、大分ざわついているようだが解説しておこう。
まず残業対応して仕事をする。
これは最悪の答えだ。 これは会社に損害を与え、上司様の評価を下げる。そして君の解雇がぐっと近づいてしまう。
次の答えは明日に回して今日は帰るだったね。
これもまた悪手だ。 上司は仕事を任せた以上は今日中に終わることがすでに頭の中でも、現実でもそういった前提で動く。
えっ? 時間も無いのにできるわけないだって? そのときは君はこういわれるだろう。
出来ないって前提で考えるな! 工夫だ! 工夫でどうにかするんだ!
なお、そのときに工夫って具体的にどうやるんだと聞いてはいけない。 そんなことを言われれば『それはお前が考えるんだ!』って叱責されてしまうだろう。
上司に答えを求めてはいけない。 上司が答えが持ってるはずが無いのだから。
仮にあったとしたらそもそも君に仕事を押し付けるわけないじゃないか。
嬉々として自分でやって自分の手柄にするに決まっっているだろう?
それでは最後の答えである誰かに押し付けるを解説しよう。
これはそんなに悪い手ではない。
だがそのためには押し付けるに足る人物をあらかじめ君自身が見つけておかなければならないとう鉄則がある。
まず、その条件としては気が弱くてお人よしであること。 これは仕事を押し付けても唯々諾々と従ってくれるマヌケだからだ。
次に君自身が決して気弱にならずにゴリゴリに押し付けて『必ず終わらせろよ』 と自信を持って接すること。
決して罪悪感を持ってはいけないし、そんなことは出来ないという正義感を持っていてもいけない。
そんなご大層な心を盛っていたら君自身が仕事を押し付けられることになってしまい、ただ消耗するだけだぞ?。
さてどうだっただろうか? 君たちにあらためて言いたいことはこの国では仕事はするものじゃなく、させていただくもの。 仕事は成長するために必要な物であって生きる糧ではない。 それはあくまでついでなもので彼らにとっては上司様の命令こそ最大限に努力しなければならない。
それが出来なければ腹を切って死ぬべきである! というのは少々語弊があるかもしれないが、そんな人間などこの国には必要ないのだよ。
まるで奴隷みたいだって? 馬鹿を言ってもらっちゃ困る。
奴隷でさえ自ら不利益をこうむってまで奴隷頭をかばう義務などないのだから。
それ以下だ。 所有物でさえない。 所有物ならばそれは会社の財産にもなるのだから。
つまりそれ以下だ。 使い捨ての道具だ。
きっと君たちはそんな人間など居るはずが無い。
私のタチの悪い冗談だと受け取るかもしれないが、忘れたのかね? この国はほんの70年前に自ら爆弾抱えて敵陣に突っ込ませるようなクレイジーな国民だったことを。
さて、これでこの問題の難易度は理解したと思われる。 次はさらなる難問を君たちに問いかけるとしよう。
次の問題はこれだ。
社で作った新製品のテスト結果が良くない。 想定した基準に品質が届かないのだ。 このままでは到底製品を販売できない。 なお上司からは決して不正は行わずに合格させろ、やり方は君に任せるという但し書きもつけられている。
さあ、君はどうべきだろうか?
では予想される答えを列挙していこう。
A 品質基準が満たされない以上、満たされるまで品質改良を実施するために販売を遅らせる。
A 上司とよく相談して妥協点を決めあう。
A 上司にデータ誤魔化しの許可を貰ってそれを実施する。
さて、今回も解説していくとしよう。
まずは品質改良をして販売を遅らせる。
はい、これで君の評価は最低ラインに落ちた。 もっともやってはいけない行為だ。
まず想定している品質なんてモノ事態が、設計段階でかなり下駄を履かせている以上はそこまで引き上げることは至難の業だ。 そして販売する期日もこの場合は大抵は決まっているのでそんなことは勿論出来ない。
そんなことをすれば君だけじゃなく上司様だって評価を下げられてしまう。 そしてその報復として君の評価を下げてくれるだろう。
次に上司とよく相談して妥協点を決めあう。
これも最悪だ。 まず上司はこれが実際に達成できるのか出来ないのか?なんてことには興味は無い。
達成できたらいいなくらいにしか考えていない。
だから相談なんて持ちかけられてしまったら何かあったら自分の責任にまで発展してしまう以上は君の誠実な相談なんぞに耳を傾けるはずがない。
前の問題の解説と同じで逆ギレをするか例のお題目『工夫だ!工夫だ!』とかいって逃げ回るだろう。
では最後の答え 上司にデータ誤魔化しの許可を貰って実施するのか?
これは半分は正解だ。
半分というのはデータ誤魔化しという部分で、もう半分は上司の許可を貰おうという時点で大外れだ。
まず先程も言ったが上司の最大の目的は製品が無事に販売できればいいという一点だけで、そこにはせいぜいすぐにバレないように誤魔化しは最低限にしろという考えだけだろう。
仮に何かあっても自分の責任にならないように常に行動しなければ出世など出来ないこの日本企業では、不正の相談など論外なのだ。
だから君に残された選択肢は自らの責任で不正であるデータ改ざんを行わなければいけないという一点だけだ。
だが聡明で誠実な君はここで一つの心配が起きるだろう。
そんなことをしたってあとで上司にどうやって達成したのかと詳しく聞かれたらどうするんだと?
そんなことは杞憂だ。
詳しく説明などせずに適当に答えていけばいい。
上司もそんなことは薄々わかっているのだから、突っ込んだことは聞かずに『そうか』としか言わない。
むしろ細かく説明しようとすれば返って上司の怒りを買うことになるだろう。
あとでバレても私は聞いていませんでしたといえれば上司はそれでよいのだから。
この国では『私は知りませんでした』と答えればある程度の権力がある人間ならばそれで許されるのだから。
もちろん君にはこれは適用されない。
君に会社が守るべきコネがあればもちろん別なのだがね。
さて解説を終えたが、もう一つ付け加えておく必要がある。
先程、私は状況によっては正解にも不正解にもなることもあると言っていたが覚えているだろうか?
今回の問題がそれに当たる。
まず君は社員として正解であるデーター改ざんによって無事に製品を販売することが出来た。
もしそれがバレなければ、この問題の答えとしては正解だ。
だがその不正がばれてしまったとしたら?
それはもちろん君の行動は最悪に近い不正解な行動となってしまうだろう。
こういう点が、この国独特の空気を読むというご都合主義の隷属根性が日本語を難しくしている。
今日の講義はもうコレくらいにしておこう。
まだまだ隠し日本語1級検定の過去問はたくさんあるのだが、反吐がでそうなので勘弁してもらいたい。
そしてテーブルをひっくり返すようでもうしわけないが、君たちがこの検定を学ぶ必要は無い。
なぜなら先程あげた例題やその他によってこの国は早晩、学ぶ価値の無い衰退国の言語となりうるからだ。
その傾向はすでに出ていると私は考えているが、これはまあ別のお話。
えっ? なんだって?
スタンダップコメディの項目に入れてるのにちっともコメディ要素が無いだって?
ハハハ何を言っているんだい?
ここで話した全てひっくるめてこれはコメディだろ?
この国の民全てが加害者にもなり、被害者にもなり互いに潰しあう何とも救われない最高のブラックジョークだよ。
後年、他国の人々から思いっきり笑われるくらいにね。
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