自作のスタンダップコメディ

中田祐三

綺麗好きな女に弱アルカリ溶液を

 みんな、綺麗好きな人間は好きかい?


 俺はもちろん大好きだ。 ただ俺に綺麗なのを求め過ぎない人間だけな。


 まあ世の中ってのは面倒だ。 そう自分の思うとおりにいくもんじゃあない。


 それでも耐えないといけないのが人生の醍醐味だってやつだと俺は考えてる。

 

 日本人らしくていいだろ?


 本当にクソみたいなことだが、まあしょうがない。


 諺にもある。 郷に入りては郷に従えってな。 まあ基本的にその郷の管理者は好き勝手やってて、正確に言うと俺様の下にいたいなら俺様に従えってことがほとんどなんだが。


 それが当たり前ってやつだ。


 あんまり余計なことを言うとアンコンされちまいそうだから話を戻そう。


 若い時の話だ。 彼女が出来た。


 その子がまあ綺麗好きな子でね。 朝起きたらまず手を洗う。 そして顔を洗い、歯を磨き、そしてまた手を洗う。


 その後に化粧をして学校に向かうの


 そういって自慢する彼女に俺は心の中でいつも思ってたんだ。


 せっかく顔を洗ったのにパフパフと顔にファンデーション塗りたくって、埃みてえな粉拭いてる君が?


 俺が喘息患者だったら君はとんだ殺人鬼だぞ? 

 

 ってな、もちろんそんなことは言わない。

 

 嫌われちまうからな。 せっかく出来た彼女なんだから機嫌を損ねるのは得策じゃないだろ?


 男ってのはこうやって学生時代から言ってはならないことを上司の前に彼女で練習するもんなんだ。


 勤勉だろ? 


 それでまあ何回かデートをしてキスをする。


 そのときには入念に準備しなきゃならねえ。


 まずはデートの朝、歯を磨く。 そのあとに彼女とあって、まああちらこちらへと歩き回るわけだが、当然汗をかく。


 そしたら隙を見て、製汗シートで身体を拭く。


 いいかい? 気づかれないようにだ。 気づかれちまったら、『やだ、この人汗っかきなの?キモ~イ』って思われちまう。


 だからやる時は最大限慎重にだ。 例えるなら親が寝てるときに深夜のエロ番組を録画しつつ、そのビデオテープを回収する時のようにだ。


 気分は忍者。 まあこの場合は淫者なんだが。


 そのミッションを何回か乗り越えていけば次はディナーだ。


 このときだって油断してはいけない。 上品に。 でもチマチマと女々しくはアウトなんだ。 


「やだ、この人私より食べるの遅い!ナメてんの?』と思われちまう。


 もちろん俺は彼女をナメてはいない。


 お~、ハニー馬鹿なこと思わないでくれよ、舐めるのはこの後だろ?


 って小粋なジョークを返したくなるが、たいていの場合はそれは自殺行為だ。


 いくら俺が日本人だからってことあるごとに自殺したくなることなんてない。

 

 いまは…まあ…時々…くらいだな。


 そして夕飯を食べ終えたらおもむろに会計を済ます。


 ここはスマートに。 やはり払いをモタモタしてるのは格好が悪いからね。


 そして彼女が店を出たその一瞬で製汗シートで身体を拭く。 


 油断するなよ? ここがターニングポイントになるんだからな。


 さらにここで一緒に歯を磨く。


 左ポケットから早撃ちガンマンのように歯磨き粉を取り出し、


 カチカチのマックシェイクを飲み込むように一気に吸い上げろ! 指で歯を磨くんだ。


 なぜ歯ブラシを使わないのかって? 


 簡単だ。 ポケットに歯ブラシは入らない。


 それに無理矢理入れて位置がずれてしまって彼女に『やだ、この人勃起してる!でも長いだけで極細…とんでもないカリスマだわ』って思われちまうからな。


 もちろん俺のカリはスマートじゃない。 まあ別の意味で『仮の性』ではあるんだけど…ね。


 さてデートを終え、食事を済ませた。 そしたら今日のメインイベント会場へと向かおうとしよう。


 つまりホテルだ。

 

 火照る身体を冷やすためにホテルに向かうんだ。


 もちろんこれはビジネスじゃあない。 愛を持って俺達は向かう。


 つまりLOVEだ。


 ラブなホテルに我々は向かわなければいけない。


 だがここで要注意だ。 あらかじめ予約をしてはいけない。

 

 もちろんこれは場合にもよるんだが。


 これが性夜なら、当然ライバルたちも沢山いるだろうから、そのときには必要だろう。


 あるいは週末の夜にもそうしたほうが無難な場合も有る。


 あくまでケースバイケースってやつだ。


 そういえば昔、土曜日の新宿歌舞伎町ラブホ街を歩いたんだが、無数にあるラブホが全て満室になっていて感動したことがある。


 ああ、まさにこの瞬間に人類は繁栄を迎えているんだなと思ったからな。


 まさに産めよ殖やせよ! 


 オ~!ビバ、人類!


 と叫びだしそうになったんだが、よくよく考えてみたら、大抵の場合は産めない様に増えないようにゴムキャップをするのが一般的だと気づいたんだが、少なくともその瞬間は感動を覚えた。


 さて話を戻そう。


 ホテルに入ったのならば何をするだろうか?


 内装を見る?  うん!


 風呂にお湯をためる? うん!


 だがNOだ! 綺麗好きな人間は入室したらまず歯を磨くんだ。


 だがここで一緒に磨くのはご法度だ。


 一緒に並んで歯を磨いてる姿をちょっと想像してみて欲しい。


 きっと子供の頃、お母さんに『寝る前に歯を磨くのよ』ってよく言われていたことを思い出して色々萎えてしまうだろう?


 ♪仕上げはお母~さん!♪


 なんてうっかり口ずさんでしまったら、その場でお前の人生仕上げてやろうか?って言われちまう可能性がある。


 もしくは二人の関係も仕上げられちまう、終焉の方向に。


 クールな男はうろたえない。


 彼女が歯を磨いている間に、テレビをつけて悠然と彼女を待つ。 クールに!


 そのときにうっかりAVチャンネルを開いてしまうかもしれない。 だがそんな時でもクールに!


 あくまでクールにだ!


そして気をつけろ?


 女ってのは他の女と比べちまう生き物なんだ。

  

 確かに大抵の場合は…その…まあ…テレビの中の女優さんの方が綺麗なんだが、そこはあえて触れない約束にしておこう。

 

 正直なのは美徳だが、大人になると間抜けと評される。


 本音と建前ってやつだな。


 もう~本当、嫌になるくらい日本人なんだから。


 さてそれからおっぱじめるわけなんだが、きっと彼女はこう言うだろう。


『待って!手を洗った?』ってな


 おいおいハニー、いまそんなことを言うのかよ。


 これからお前さんの弱酸性ビオレよりも若干強い酸性ビデに突っ込むってのになんだってそんなとこにこだわるんだい?


 大丈夫、人の肌は弱酸性だ。 なんなら弱アルカリ溶液でもつけて身体の中から中和してあげようか?


 大丈夫、ここにリトマス紙があるから、ちゃんと確認できるぜ


 いいかい? この紙が若干の赤に染まったら君の勝ち。


 薄青色に変わったらアルカリ溶液つけた俺の勝ち。


 そのときには着け過ぎましたと謝ろうじゃないか。 


 別に君の酸性ビデに指が溶かされちまうとか心配になったわけじゃないんだ。


 ましてや君の下の口がエイリアンのヨダレみたいだと疑ったわけじゃない。


 まあ粘性は若干高い…んだけどね。


 では仮に色が変わらなかったら?


 それは僕達はイーブンな関係ってことだね、それって素晴らしいことじゃないかな?


 とか言い訳をしておけばいい。 いつだって男はクールにジェントルマンに振る舞うべきだからな。

 

 さて話が長くなってしまったからそろそろ俺なりの結論を述べようと思う。


 一つ! 綺麗好きな女と付き合うときは気をつけろ!


 一つ! アルカリ溶液は着け過ぎるな。


 そして一つ! リトマス紙は忘れてもゴムは忘れるなってことだ。


 それじゃ皆、これからもよいお付き合いを!

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