004


「まって~プラムねぇちゃーん!!」


「ひぇぇぇ…」


「あっずるいー!!そんな高いところー!!」


 ――― 「ずるいずるいーっ!!」 ―――


「そんな事言われてもぉぉぉ…」



少女の名は梅乃花 はじめ 。今は【ファースト=プラム・ブロッサム】と世界に名を授けられし者。人気者の天命ギフトを得て、子供達に懐かれてしまった彼女は、遊んで遊ばれいる最中である。



ダンダン…ダンっ!!


「急げーっ!!獣共が寄り付かない内に仕上げるんだっ!!」


「さぁアンタ達も遊んでないで手伝いなさいっ!!このガラガラ紐を木と木の間に通してくるのよッ!!」


「はーいっ!!いくよ~プラムおねーちゃんっ!!」


 ――― いくよ~ っ!! ―――


「何故に私がぁあぁあぁ~」



野営の準備に取り掛かる中、遊び相手にされ、いつの間にか子供達のお目付き役として託されていた少女。

半泣きで喚くプラムの腕にガラガラ紐と呼ばれた即席の鳴子なるこを乗せられ、泣く泣く川辺の周辺に生る木々へと張りめぐらせて行った。



「あの~…終わりました…」


「おや?もう終わったのか?もっと掛かると思って居たが…」


「プラムお姉ちゃん凄ーいっ!!」


「プラム姉ちゃん!?」


「プラムお姉ちゃんはやーいっ!!」


「プラムお姉ちゃんちからもちーっ!!」


「あぁ…成る程、お嬢ちゃんの名なのか…」


「あはは…」



既に暗く、子供達の自由気ままな作業に見て居られなくなり、自前の身体能力で素早く手早く終わらせていた。



「まだスープが出来上がってないみたいだが…早いに越した事ないか…」


「次はちゃんと自分達でやらないと、ご飯抜きですからねっ!!」


 ――― 「いーやーぁっ!!」 ―――


「なら次は真面目にしっかりやるのよ?」


 ――― 「はーい…」 ―――


「よろしいっ!!みんな席に着いてーっ!!」


 ――― 「ワ~っ!!」 ―――



こうして火を囲み、キャンプを楽しむような食事が始まった。

しかし渡される食事、それは貧しいモノに見えた。いや、当然の事である。硬いパンに干した肉。それらが長期保存できる非常食なのだから。それを見て申し訳なく齧るプラム。



「……」


「どうした、不味いか?いや、美味いもんでもないかッ!!」


「あ、確かヒューイのお父さん…」


「あぁ、俺はヒューゴだ、そして妻のイーナだ」


プラムに話しかけたのは、助けた子供の父親であるヒューゴ、そしてその横に遅れて現れた母親のイーナが返事をする様にニッコリと微笑みかけて来た。


「プラムちゃん、もう少しでスープ出来上がるから、待っててねぇ」


「お、お構いなく…」


「食欲がないのか?」


「いえ、その…」



プラムは自分に有って、彼等に無い物を見つめた。



「気にする事は無いさ、子供達が元気で居る事が何よりだからな。嬢ちゃん一人くらい何て事ない」


「そうよ、私達ならこれで十分ですしねっ。はい、熱いから気を付けてねっ」


「ママーボクもっ!!」


「はいはい♪」


「…」


「それにな、此処は幸いにも水辺の森だ。夜が明ければ俺達は狩りに出るつもりで居る。」


「食料の…調達?」


「そうだ、遅かれ早かれ俺達には必要な行動だったからな、プラム嬢ちゃんが滝を見つけてくれた御かげで、全員飢えずに済みそうだっ!!ほら食え食えっ!!」


「…っ!!」


パクっ!!パクパクパクっ!!



大人達が空腹に耐える中、部外者の自分が食料を分けて貰う状況に罪悪感を覚え、食が進まないでいたプラム。しかし、彼女が見つけた滝の御かげで、その心配が無く成った事を知り、食べる事を選んだ。例えそれが不味くても、慣れない食事で有っても、食べ切る事がせめてもの礼であると…。



「そうね、だから遠慮なんかいらないわ。しっかり食べて子供達の相手をして貰わないとね♪」


「ブフェっ!!!?」


「おおっ!!落ち着け落ち着け!!そんなに腹が減ってたかっ!!」


「ゴホッゴホっ!!いえ、そうじゃ無く…ゴホッ!!」



イーナの言葉に不意を突かれ蒸せかえるプラム。それは同時に、絶望を感じ取った瞬間でもあった…。

スープの鍋が底を尽きる頃、子供達はウトウトと顔を揺らし出す。それを見た人々は頃合い感じ、席を外し出した。



バチ…バチバチバチ…


「子供達を馬車へ」


「えぇ…」


「さて…見張りの順番を決めるとするぞ」



女性達は子供達と共に荷馬車へと戻り、男達は焚火を囲む様にしゃがみ込み、それぞれの交代時間を決め、一部を残し馬車へと戻っていく。



ガタガタ、トトン


「お帰りオジさん、どうだった?見張り番の話し」


「あぁ、俺は馭者だからな、いざって時には寝てられない立場なんで何かあるまで寝かせて貰う事になった」


「ふーんそうなんだ。良かったね、私達と一緒に寝れて!!」


「皮肉だとしたら男として辛いなっ!!」



プラム達を運んできた馭者の男が戻り、それを元気な少女が出向いていた。

その会話は親しい間柄の様に。



「そうだエル、プラムの嬢ちゃんを連れて来てくれないか」


 ――― ギクっ!! ―――


「え?うん分かったわっ!!」


唐突に名前を呼ばれ、肩が揚がるプラム。陰キャ特有の動揺である。

間もなくしてプラムの元へと少女がやってくる。


「プラムお姉ちゃん少し良い?オジさんが呼んでるの」


「え、あ…はい!!今直ぐにっ!!」



可愛らしく上目遣いで誘惑する少女に、肩が揚がりっぱなしのプラムはぎこちなく答え馭者席へと顔をだした。



「な、なんでしょうか!?」


「すまないね、休みたい所だろうが…お願いが有ってね…」



その馭者は、プラムの身体能力を買い、一時的に見張りについて欲しい。と言うモノであった。

自分に出来るのだろうか、と言う不安がよぎるが、食事を抜きに、睡眠時間まで割く男達の願に断る理由など浮かばなかった。プラムはその見張り番を引き受ける事にする。



「良いですよ…それに眠気もまだ無いですし…」


「おおそうかっ!!では少し待って居てくれっ!!」



馭者は来て間もないと言うのに再び暗い外へと飛び出して行った。

暫くして二つの足音がプラムの馬車へと向かって来た。彼女はその足音を感じ取り荷馬車から降りる。



「やぁプラム嬢ちゃん、引き受けてくれて助かるよ」


「本当はヒューゴに頼む筈だったんだが、息子の恩人に頼める程肝は据わってないよと断られてね」


「おい、余計な事は言うな…引き受けてくれたとは言え今でさえも申し訳ないと思ってるんだぞっ!!」


「あはは…それで私はどうしたら良いですか?」


「おっとそうだったな、コチラは男4人で一人ずつ回す。お嬢ちゃんは3回目、このヒューゴの後だ」


「少ない様に思えますが…」


「明日は狩りも控えているからな…しっかり体力を残し、獲物を取って来れる男が必要になる。眠たくてご飯がとれませんでした~何て事になったら笑えないからな…。」


「そういう訳だ、出番が来たら迎えに来る。それまでは好きに休んでいてくれ」


「あ、はい…」


「さて、俺はヒューゴの分まで寝るとするかなっ!!」


「言ってろっ!!」


男達は軽い冗談を交わしそれぞれの寝床へと戻って行った。

プラムも荷馬車へと上がり、子供達を起こさない様、静かに壁へ寄りかかる。

焚火と自然の音を感じ、いつしか自然と目を瞑っていた。



「お嬢ちゃん…お嬢ちゃん…」


「あれ…私…」



プラムが眼を開けると、荷台に顔を突っ込み、ヒソヒソと呼びかけるヒューゴがそこには居た。



「時間だが…どうする?」


「いえ…大丈夫ですよ。今向かいます…」



心地よい音が眠気を誘ったのだろう。寝るとは思って居なかったプラムはどこか慌てた様に焚火へと向かった。



バチバチバチ…バチ…


「眠いなら引き受けなくても良かったのだぞ?」


「い、いえっ!!目を瞑ってたら途中で気持ち良く成っちゃって…。でももうピンピンですよッ!!」


「そうか?ならいいが…」



 ――― … ―――



「あの、少し良いですか?」


「どうかしたかい?」


「見張り番はどの位で交代なんですか?」


「ん?あぁ言って無かったな。交代する時間は決まってない。眠気を感じた時点で次と交代だ」


「なんだか漠然としてますね」


「仕方ないさ、俺達市民には時計が無いんだからな。街の鐘、街の時計台が無いと時間なんてもんは腹に聞くしかねぇ訳だ」


「…」


「なんだその墓穴を掘った。みたいな顔はっ!!もう過ぎた事だ。とは言い切れないが、気にしてもしょうがないんだよ。俺達は助かった訳じゃないからな、何時までも、街が国がと下ばかり見て居たら逃げれる時に逃げ場を失っちまう。今は生き延びる為の事を考える。俺達には出来るのはそれだけだからな…」


「すみません…」


「なんでプラムお嬢ちゃんが謝るんだか…俺は頭が上がらないってのによっ!!」



他愛ない話をしたつもりが、亡くしたばかりの住んだ街を連想させた事に悔やむ少女。

前向きに話を進める男の姿を見る事が出来ないでいた。



「もしまた、息子が危ない目に遭って居たら…その自慢の腕力でたすけてやってくれると助かるぜ」


「え…いや…って腕力!?」


「ははっ!!女性に対して失礼だったなっ!!だが息子から聞いてしまったからなぁ…その成で瓦礫を片手で持ち上げたってなっ!!」


「それは偶々軽かっただけで!!」


「隠した所で俺の息子が言いふらすから無駄無駄っ!!」


「ぐぬぬぬ…っ!!」


「さて、俺は先に寝るぜ。手前の荷馬車が見張り番の寝床になってるから、赤髭野郎のベリッシュを叩き起こしてやれ。誰も起きなきゃ馬車事その腕力でひっくり返しても良いからなっ!!」


「そ、そんな事しませんよッ!!」


「はっはっはっ!!冗談だ、それじゃあ任せたよ」



そう言ってヒューゴは見張り番達が眠る荷馬車へと入って行った。

プラムは独り、眠くなるまで見張る事となる。

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