003


ゴロン


「はぁ…もうだめ…」



少女は幌馬車の床で身を任せる様に寝ころんでいた。



「お疲れ、ファーストちゃん…御かげで子供達がぐっすり寝てくれたよ」


「あんな恐ろしい思いをしたのにねぇ…貴方が来てくれて助かったわ」


「あたしらもこれで休めると言うモノよ」


「あ、あはは…お役に立てたようで光栄です…」



子供達は大はしゃぎしたせいか、その反動を受け何時しか眠りについて居た。

騒がしい幌馬車に静かな時が流れ、大人達も次第に目を閉じていく。

馬車の音だけが鳴り響き、ようやく訪れた平穏な時間を活用すべく一人荷台の後ろへと座り直した少女。



「以前の私なら、ああやって今頃寝て居たんだろうね…」



昔と今の体力面の違いだろう。精神的に子供の相手は堪えた様だが、肉体的には余裕を見せていた。そんな少女は、座りながら体を支える様に後ろで手を突き、左右を振り向く様に荷台を見渡した。



「大丈夫かな?みんな寝てるね…?…良いよね?」



――― …… ―――



「ギフトメニュー」



ヴィン


―――――――――――――


    △通知有り△ 

   

    閲覧しますか?



◇ギフト一覧

┗基礎ギフト

┗マスターギフト

┗ユニークギフト

┗天命

┗管理者ギフト


◇デバイスツール

┗アナライズ

┗アクティブ

┗アンロック

┗ロック


◇管理者設定

┗履歴

┗詳細設定



―――――――――――――


( あれ…こんなに項目あったかな…えっと確かギフトを得た場合に自動でメニューに通知が来る…?だったかな…取りあえず見てみようかな… )


「通知、みる、表示!閲覧っ!!」


少女は楽園での言葉を思い出し、通知を確認する事にした。表示されそうな言葉を適当に良うと、画面が切り替わる。


ブィン


――――――――――――――――――――――


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


サーバー起動を確認。

同時刻に楽園からの生体を感知した為、アナタを管理者として認識しました。

管理者オプションを追加します。


βプロセスを安装中.....


完了しました。


管理者設定を追加。

ギフト:カウント【ゼロ】を取得。

ギフト:生体再構築を取得。


レポートにお役立てください。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


新世界へようこそ。

新しい人生を祝福し、世界から貴女に初めてのギフトを贈ります。


Uギフト:ファースト【デス】を取得。

Uギフト:ファースト【リバイブ】を取得。

天命:【始まりの死者】を取得。


それでは良い人生を。


Mギフト:衝撃耐性を取得。

Mギフト:痛覚軽減を取得。

天命:勇気ある田舎者を取得。

天命:人気者を取得。


【ファースト=プラム・ブロッサム】の名を世界から授かりました。


.....


――――――――――――――――――――――



( なんか説明に無い部分が幾つがあるんですが?それに管理者として認識って言うのが引っかかるけど…でもメニューを使える権限って意味なら納得か…レポートって何だろう… )


――― ンーっ!! ―――


( 考えても仕方ないねっ!!それよりコレよ、私の名前!!【ファースト=プラム・ブロッサム】の名を世界から授かりましたって…これもう決定事項なの?まるでシュウ君みたいなセンス…。シュウ君今頃どこで何してるかな…シュウ君も同じ状態だったら、もう前の名前じゃ無いのかも。探す手立て…有るのかな…。正直、私自信で精一杯だよ… )


少女は幌馬車の後ろで口に出さずに耽る様に考える。通知の内容が思ったよりも謎多く、そしてこれから先を考える余裕が無い事に、放り出された世界でどう生きるかで。


( はぁ…兎に角慣れ、そう慣れないとね。この名前に慣れ、ギフトに慣れなきゃ…ギフトメニューに戻ろう… )


ブィン


(確かギフトを何時でも確認出来るって言ってましたよね…説明に無い項目が3つも有るけど…取りあえず上から順に見てみようかな…)


「基礎ギフト」


ブィン



――――――――――――――――――――――


◇基礎ギフトを閲覧しますか?◇



――――――――――――――――――――――





「はいっ!あ、閲覧っ!」


ブィン





――――――――――――――――――――――

⇦                    ⇩


◇基礎ギフト◇


ギフト:視覚

ギフト:見る

ギフト:閉じる

ギフト:ピントを合わす

ギフト:ピントを逸らす

ギフト:嗅覚

ギフト:嗅ぐ

ギフト:吸う

ギフト:広げる

ギフト:縮める

ギフト:味覚

ギフト:開ける

ギフト:閉じる

ギフト:噛む

ギフト:吸う

ギフト:のみ込む

ギフト:吐き出す

ギフト:動かす

.......

――――――――――――――――――――――




( 見切れてるわね…下に…行けそう…あ、成る程っ!!スワイプね… )


透明なメニュ―に向けた手を上下に滑らせた。すると表示してない画面がずれて入れ替わっていく。


( んー成る程…見なくても良い気がする…それに基本的な動作自体細かくて多すぎる…部位別に細かく成って行くしもうイイかな… )


基礎動作として細かく書かれていたギフトは見る必要が無いと少女は判断し、次の項目へと移す。




「マスターギフト、閲覧っ!!」


ブィン




――――――――――――――――――――――

⇦                    ⇩


◇マスターギフト◇


ギフト:完全言語

ギフト:筋力強化50

ギフト:知力強化20

ギフト:体力強化20

ギフト:精神強化20

ギフト:脚力強化50

ギフト:瞬発力強化50

ギフト:視力強化30

ギフト:聴力強化30

ギフト:物理耐性50

ギフト:魔法耐性20

ギフト:被毒耐性30

ギフト:被麻痺耐性30

ギフト:被睡眠耐性30

ギフト:被洗脳耐性30

ギフト:痛覚軽減1

ギフト:衝撃耐性1

....

――――――――――――――――――――――




( ふむ…このギフトってゲームやってる人じゃないと分からないよね…。これを上げてかないと弱いままって事かぁ…。自分の強さがこれで分かる訳ね。今のこの数値が人より平均を上回ると…衝撃耐性とかは貰ったばかりだから1って事だよねきっと。さて、次から説明が無かったギフトだよね… )


「ユニークギフト、閲覧っ!!」


ブィン




――――――――――――――――――――――

⇦                    ⇩


◇ユニークギフト◇


ギフト:ファースト【デス】

ギフト:ファースト【リバイブ】


――――――――――――――――――――――




( ふ、二つ?これって世界から授かったってギフトだよね…まるで皮肉ですね…。全く意味も分からないし役にたつのかしら…まぁいいか、次… )


「天命、閲覧っ!!」


ブィン


――――――――――――――――――――――

⇦                    ⇩


◇天命◇


ギフト:【始まりの死者】

ギフト:勇気ある田舎者

ギフト:人気者


――――――――――――――――――――――


( これは…何て言ったらいいのやら…。プロフィールとかで書かれてそうな…これも良く分からない…私みたいな陰キャが貰うギフトじゃないよ…はい次、)


「管理者ギフトっ閲覧っ!!」


ブィン



――――――――――――――――――――――

⇦                    ⇩


◇管理者ギフト◇


ギフト:カウント【ゼロ】

ギフト:生体再構築


――――――――――――――――――――――


( んー…分からない。此処まで見て来たけど、説明に無かったギフトには通知に有った物しか無かったね…。役割や効果も全く分からなかったし…。この調子だと他も同じなのかな…別の機能っぽいけど…兎に角試すしかないよね )


[アナライズっ!!っ閲覧っ!!」


――――――――――――――――――――――

⇦                    ⇩

アナライズ起動。

解析するギフトを指定して下さい。

――――――――――――――――――――――


「えぇ!?起動!?ギフト指定!?」



慣れた様に閲覧を宣言する少女。しかしギフトを閲覧する訳では無いそのシステムの応答は少女を驚かせてしまった。



ザサっ


「どうかしたかい?ファーストちゃんや」


「やっ!!いや、何でもないですっ!!」


「そうかい?先程から呪文の様な聞き取れない言葉が漏れて負ったぞ…」


「え、なッ呪文?」


「ほほっ隠したいのは解るが、隠すならもっと小さな声でやるのじゃな…流石に皆、気が付いとるわい」


「いや、そのっ!!と言いますか呪文ってなんですか!!」


クスクスクス


どうやら少女の口から出た今までのシステムコールが聞こえていたらしい。

そしてそれが呪文の様だと言われ、とぼけたつもりも無い少女の言葉を聞き優しい笑い声が響いて居た。


「良いのよ、無理に隠さなくても」クス


「でも、知らなかった事にしておきますか」


「そうですわね♪」


「まぁアタシ等はファーストちゃんの正体なんぞ暴いてもしょうが無いからの…」


「いやですから…」


「もうちょっと静かな所でやるんじゃなっ!!ほっほっほっ!!」



良く分からない誤解が生まれたようだった。少女が無理して隠している様な、無理して誤魔化して居る様な…。知らない事を知らないと言い辛い状況へと自らはまって居た。



( ぐ、ぐぬぬ…まさか聞かれていた挙句…よからぬ誤解まで…気になる~気になる~っ!! )



謎多き世界、その謎を探る際中に、またしても謎が増えてしまう少女。



「子供達に見つかったらもっと面倒よ?」


「ぇえ?」


「私達的にはその方が嬉しいですがね♪」


「バカ言ってんじゃないよッ!!遊んであげるのも親の務めじゃろうにっ!!」


「冗談ですわ、ばばさんっ!!」


「わかっとるわっ!!そう言う訳だから、今日はその辺にして、次の休憩時にでもすると良いさ」


「……は、はい…」



このまま続けて居たら子供達に絡まれるよ。そう言われた様で、苦手意識が残る少女は大人しく身を引く事となった。



( ギフトの事はまた明日だね…それにしても呪文かぁ…そう言えば魔法耐性ってあったもんね…どんな物なんだろう。ギフトかな?私も使えると良いなぁ… )



少女は期待に胸を躍らせ、過行く風景を眺め始めていた。



「はぁ暇だぁ…何か無いかな…」



元いた現代であれば、暇が有ればネットやTVで暇を潰す事が当たり前。しかし今は違う、電子機器が無い、まるで田舎に来たような平穏な時が少女には辛い時間に思えて居た。その思いを少しでも紛らわそうと只ひたすらに眺め続けていた。



「あ、虹だ…この世界でも7色なんだね…はぁ…」



そうやって退屈そうに外を眺める少女。

する事が限られ暇を持て余して居る内に陽が沈み始めて居た。

それに合わせ子供達が自然に起き始めて来た。



「ママぁ…」


「あらぁ、お腹空いたのね」


「うん…」


「困ったわねぇ…」


「そうね、取りあえず今夜どうするか聞いてみましょうか」



そう言って一人の女性が馭者台へと顔を出す。

暫くして4台の馬車が止まり出した。



「どうしたっ!!何か問題か?」


「いや…子供達が腹を空かせてきたようだ」


「そうか…そうだよな、流石にこれ以上は厳しいか…」


「どうする?水辺なんて無いぞ?食料も限られている…この先も考えると食べてばかりはいられないぞ」


「しかしなぁ…」


「取りあえず子供達の分だけでも用意し、今日の野営をすませるしかないが…」



そんな男達の話し声が少女の耳には入って来る。



「うーん…そうだよね、あの積み荷の量だもん…この先辛そう…。でも滝ならさっき有った様な…」



別に誰に話していた訳では無い。ただ独りでに頷きながら口に出していた少女。しかし…



「おい嬢ちゃん、今なんて言った?」


「はぃっ!?…あっ!!いやっ!!別に食べ物が無くて~辛いかも~っ!!なんて言ってませんよッ!!」


「そうでは無いっ、その後だっ!!」


「その後!?滝なら有ったような…かな?」


「それだっ!!どこで見たんだその滝は?」


「え…えーっとアッチの来た方向から右手の森ですかね!?」


「そのゆび指す方向でいいんだな!?」ガチっ!!


「はいぃっ!!」



男は少女の肩をがっちり握り、問いただした。

それにより、急に掴みかかられた少女の声が跳ね上がる。



「おい聞いたかっ!!」


「まる聞こえだってのっ!!お前等出発の準備だっ!!日が暮れる前に向かうぞ!!」



 ――― オォォォォ!! ―――



少女が居る幌馬車の前で話し合って居た男達はそれぞれの馬車へと急いで戻り、滝がある方角へと引き返して行った。



「おいおい待て待てどこ行く!」


「はい?」


「お嬢ちゃんはコッチだ!!馭者台の上だよッ!!」


「えぇぇぇぇ!?」



少女は道案内として前へと座る事と成った。



ガラガラガラガラガラ…



「この先で良いんだな?」


「ええ、そろそろ見えるかと…虹が…」


「虹が?」



少女が馭者台に座っていると、後ろから男の子が馭者席へと顔を覗き込んできた。



「みて―!!きれーいっ!!」


「こらこらっ!!危ないから顔を出さないのっ!!」


「えーっだってボクも御馬さんの所いきたーいっ!!」


「あ、あはは…もう場所変わっても良いよね…」


「そうか、お嬢ちゃんは虹を見て滝だと判断したんだな…だが駄目だっ!!」


「何でよーっ!!」


「お嬢ちゃんの視力がズバ抜けて良いって理解したからなっ!!このまま森の中を見ててもらうぞ?危険が無いかしっかり見ていてくれよなっ!!ハッハッハっ!!」


「そ、そんな…」



子供に席を譲る事が出来なかった少女は、監視役として座らされていたので有った。そして陽が暮れた頃、4台の馬車が停車した。



「良いんですか滝の麓まで行かなくて」


「この辺りが限界だからな、滝から流れる川が在ればそれで十分だ」


「言われて見れば確かに…」


「さぁ、野営の準備が有るから、子供達は任せたよ、お嬢ちゃん」



そう言い残していそいそと馭者席を後にする男性。

そして何故か子供達を任せられた少女は後ろを振り向くと絶句するのであった。



「お姉ちゃんばっかずるいーっ!!」


「ズルい―っ!!」


「え、ちょ…っ!!」



少女と生き延びた人々は暗くなった川辺で野営を始めだす。



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