002


果てしない階段を昇るうち、何時しか少女の周りの景色が白く包みだし、足元の階段すら真っ白に消え去っていた。昇れるかも分からず少女の脚は進む事止めていた。その途端、空間全体が眩しく輝きだし、少女は反射的に瞼を閉じた。


ピロン♪


すると脳内効果音が鳴り響き、咄嗟に瞼を開いた。


「うわ…なに…これ…!?」


少女の視界に映し出されたのは、焼けた建物と、空を黒く漂う煙、そして追われ、逃げ惑う人々達の光景だった。


「転移して早々戦場に放り込むってッ…どういう事よ!!」


明らかにヤバイ状況だけは理解出来た。それでも脳内で効果音は成り続けて居た。


ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪

「何よこんな危ない時に…変な音が頭から離れない…」

「そこの娘!!何をしているッ!!こっちだこっちっ!!」

「危ないわよッ!!早く逃げなさいッ!!」

「まま…ぱぱ…どこにいるのッ!!」


少女が困惑している中、逃げる人々は少女の隣を駆け抜けていく。

しかしこの非常事態、止まって居る事がどれだけ危険な事か…衝突という波が少女を襲う事になる。


ガラガラガラガラッ!!

「おいそこドケっ!!馬車の邪魔だっ!!おい聞こえないのかッ!!クソッ!!」

「さっきの娘!?おーい馬車にぶつかるぞーっ!!」

「あぁっ!!何てことだ…お前達も早く道を開けろっ!!引きつぶされても知らんぞっ!!」

「ママ…」

「後ろを見てはダメっ!!早く逃げるのよッ!!」


後ろから道端のど真ん中で立ち止まる少女目掛けて馬車が突っ込んでくる。

少女にその言葉は聞こえていたが。騒音や人々の叫び声の中、その言葉が誰に向けられていたのかが頭に入って来なかった程無くして少女は馬車と衝突した。


ドォォンっ!!ギギ、ガラガラガラガラ…

「ック…」


馬はギリギリで少女をかわしたものの、積み荷が少女にぶつかってしまった。操縦士は苦く目を瞑り、過ぎ去っていった。

安否を確認する余裕など誰にも無い、少女を残し、人々はその場を後にした。

しかし…


「ブファっ!!?」


後ろから不意を突かれ避け切らなかった荷車の衝突により前斜めに吹き飛ばされた少女は、水を吹きだしたかのような驚きの声あげ、立ち上がって居た。


ピロン♪

「痛ったぁ…何!?…ぇ?ぶつかったの?」


衝突したと言うのに居たそうに見えないその態度、少女の体は大した事には成って居なかった。


「自分の今居る状況に頭がいっぱいで回りが全然見えて無かったっ!!私今引かれたんだよね?…駄目だ考えても埒が明かないっ!!兎に角逃げる事にしよっ!!」


考えてる余裕などない事を体で証明した少女は、この場を離れる事を優先する事にする。しかし、少女の耳には子供の叫び声が騒音としてで無く、助けを求める音として耳に届いて居た。少女はどうにも離れないその声の方向へと少女は振り向くと、瓦礫の下敷きになり、出られなくなった子供の姿を遠目から確認した。


「やっぱり…あそこに子供が居るっ!!ッ…待って私ってこんなに視力良かったかな…兎に角急がなきゃっ!!」


シュンっ!!

「足が…軽いっ!!私こんなに早く走ってるのに息切れすら…これがギフトって事!?だったら…」


少女は有り得ない自分の能力を体感し、それ等がギフトだと言う事に気が付いた。そして彼女が心配だった事に自信が沸き、加速し子供の元へと辿り着く。


「ぱぱ…ままぁぁぁっ!!」

「待っててキミっ!!今助けてあげるからっ!!絶対に動いちゃだめだよ!?」


― ん”ん”~んっ!!んっ!? ―


「あ、ヤバ!?」ササっ


図太い声を張り両手で持ち上げた。しかし思わぬ出来事が…。

少女には瓦礫を持ち上げれる自信は有ったが加減が分からないでいた。

力込めた途端、勢いよく持ち上がる瓦礫が逆に雪崩を起こし、子供へと降りかる。だが幸いな事に、余りの瓦礫の軽さに少女の片手が空き、その片手で子供の首襟を瞬時に掴みその場から離れる事に成功していた。


「なんだ今の音はっ!!」

「こちらの方からです!!人影も見えましたっ!!」

「ならさっさと確認し始末しろっ!!」

「ハッ!!」


少女が路地を通り過ぎる時、ギフトによって強化された聴力により誰かの声を拾って居たのであった。


「はぁぁぁぁ!!マズイマズイっ!!絶対今のは敵だよね!!明らかにそうだよねっ!!」

「お、おねぇちゃ…ん?」

「お、驚かせてごめんねっ!今安全な場所に連れて行くからっ!!」

「う…ん…グス…でもパパとママが居ないの…」

「ごめんね…キミのパパとママを探す余裕は流石にないかも…だから許して…」

「ぱぱ…ままぁ…グス…」


子供を脇に抱き、颯爽と崩れゆく街を駆け抜ける少女。

何故か戦場にたたされ、何故か逃げる事になるとは…少女は人々が逃げたで有ろう方角を目指し、全速力で街を抜けきった。

街が見えなくなる距離を走る頃、前方に荷馬車と避難した人々達の姿が見えて来た。そのボロボロな姿を視認し、敵でない事を把握した少女は、急いで駆け寄る。


「後ろから誰か来てないか?」

「本当だ…小さいな…子供か?」

「おい、何だか速度が可笑しく無いか?」

「言われて見れば確かに…いやまて…子供にしては早すぎないか!?」

「っちっ!!警戒よーい!!」ガシャンっ!!

「くそっ!!まさかもう追い付かれるなんてっ!!」ガチンっ!!

「お前達は先に逃げろっ!!俺達で時間を稼ぐっ!!」シュル


明らかに可笑しい速度で向かって来る少女に警戒態勢をとる避難民達。

さらに逃げる様に動きだす馬車。


「なんで馬車行っちゃうのよッ!!って言うか何か武器構えてない?嘘でしょ?え?」

「……ウヴヴヴヴヴヴヴヴ…」


少女はその状況が理解できず、置いて行かれるモノかと思い始め、更に速度を上げる事となった。

その影響は脇に抱く子供に影響が出て居た事など知らず…。


「おいおい嘘だろ!?あんな馬みたいな速さの人間、俺達にとめられるのかよッ!!」

「構えるしかないだろっ!!相打ちににしてでもっ!!」

「この人数じゃ横にそれられたらどうしようも無いぞっ!!それよりもうっ!!」

「うおぉぉおぉぉっ!!」


ダダダダダダっ!!ズサ--っ!!


「はぁ…はぁ…はぁ…流石に披露は…するんだ…ね…」

「と、止まった!?」

「女…だと?」

「あの速度を…子供を抱いてか!?」

「油断するなっ!!どう考えても危ないっ!!」


敵と思われているとも知らずに、彼等の目の前で停止した少女。息も整ってない少女に矛を向ける男達であったが…


「パヴぁ…パヴぁぁぁ…ウブェ…」

「え、ちょ、ちょぉぉ!?」


少女の脇に抱えられた子供は男達に手を伸ばしながら、口から吐いてしまっていた…。


「ヒュ…ヒューイかっ!?」

「パ、パパぁ…うぶぶ…」


――― ヒューイーっ!! ―――


男達の仲に子供の親と思わしき男が、息子の吐瀉を目の当たりしに声をあげてしまっていた。そして場面は少し先へと飛ぶ。


「ズズズっ…」ッホ…


(さ、騒がしい…また私、囲まれてる件…)


少女は羽織を肩にかけ、囲まれるように木の椅子でスープを啜っていた。


「いや~すまないねぇっ!!まさか置き去りの子供を救い出し、我々の元まで送り届けてくれたなんて…」

「本当にありがとう…本当に有り難うっ!!」ガチっ!!

「スープを飲んでる途中に手なんか握らないのっ!!恩人が火傷しちゃうでしょ!!」

「ババアの言う通りだぜ…」

「あ、ああそうだなっ!!本当に、本当にありがとうっ!!」

「私からもお礼を…息子を守ってくれてありがとう…御座います…」グスン

「あ、あはは…成り行きみたいなモノだったので…そこまでしなくても…あはは…」


赤の他人とのコミュニケーション慣れて居ない少女、ましてや此処まで悲願された事など無い少女は引き笑いを浮かべるしか出来ないでいた。


「それにしても見ない顔だな…お前さんはよそ者かい?」

「え、えぇまぁ…」

「そりゃそうだろよ…あんな早い娘っ子ここいらで見た事なんかねーもんな」

「あんなの見たら絶対ラビットかと思うわなっ!!」

「ラビット?」

「なんだお前さん、ラビットも知らないのか?なんつってなっ!!」

「え、いや…ラビットって言ったら兎さんですよね?」


((( 「…」 )))


そこで何故か押し黙る男達


「おいおい…嘘だろ…冗談だろ?」

「何処の田舎者がこんな時にやって来たんだ…」

「その辺にしろっ!!俺の息子の恩人だぞっ!!…良いか?ラビットって言うのはこの国を統べる組織の…いやもう国は…兎に角危ない精鋭部隊の名だ」

「ほ、ほほお…」

「お代わりいるかい?お嬢ちゃん」

「あ、ありがとうです…」

「その部隊とは兎に角機敏で人並み外れた能力を持ち出会えば最後と言われているんだ」

「…まるでホラーみたいですね…」

「ホラーで済めば良かったんだがな」

「奴等は今日、この日を持って国と成った。俺達の国を攻め滅ぼしたんだ。そして奴らはこの国の至る所で侵略を開始した…田舎のお前さんでも流石に分かるよな?」

「…あの街もその被害となり…街を捨て貴方達は此処まで逃げおおせて来た…」

「そういう事だ」

「クソ…」

「お前さんが何をしにこの国へやって来たかわ知らねぇが悪い事は言わねぇ…早めにこの国を立ち去るんだな…」

「そうだね、君のその脚ならこの国を出る位何て事は無さそうだしね」

「俺達にもアレ程の天賦が有ればな…逃げ切れるか不安だぜ…」

「天賦…?」

「生まれ持った才能って事よ…お前さんのその脚力と同じさ」

「あ、あーっ成る程っ!!ギフトですかッ!!」

「なんだそりゃ?田舎の言葉か?」

「え?あぁ…まぁ多分…」

「俺達には聞き取りずらいな、まぁ問題ないがなっ!!」

「パパ―っ!!ジイジたちがよんでるー!!」

「おーヒューイっ!!偉いぞーっ!!そうか、もう出発の時間なんだなっ!!よーしっ!!じゃあ一緒に行って来るか!!」

「うんっ!!」

「と言う訳だ、馬の休憩が済んだのだろうな…」

「俺達はもうすぐ動く事だろう…お前さんはどうする?この国を出るのか?道は解るか?」

「うぅ…そう言われてもですね…何も考えて居なかったので…」

「そうか…なら暫くこの馬車に乗っていくか?俺達は勿論国を出るつもりでいるがなっ!!」

「お前さんもそのつもりならその脚を休むつもりで乗って行けば良いさ、万が一が有れば俺達を見捨てて逃げてくれても構わないしな…」

「えっ!?いやそんなっ!!」

「はっはっはっ!!お前さんは国の部外者だからなっ!!巻き込んで死なれる位なら、大人しく逃げてくれた方がシュバルツ王国に泥を付けずに済むんだよ」

「まぁ…もう王国は沈んだがな…」

「兎に角決まるまでゆっくりして行けば良いさ」

「…ではそうさせて頂きます…」

「おうよッ!!さて馬車馬の様子みてくるぞ~」

「うぃーー!!」


「…………」


(何だか、大変な事になってるんだね…。まさか国が落とされたその日に転移するなんて…。来て早々、いきなり敗走するなんて誰が想うよ…)


少女が助けた子供の御かげか、あの惨劇と国の状況を少なからず理解する事が出来た様だ。これからなど考える暇もない少女は、まず先に自分を知る所から始め、この幌馬車の列に混じり、ぶらりぶらりと揺られる事になる。


サッサ ガタンっ!!


「それでは暫くお邪魔させて頂きますっ!!」

「ゆっくりいて行き―な」

「ねぇあそぼあそぼっ!!」

「こらこらっ!!お姉さんは疲れてるのよッ!!あまり無理をさせないのっ!!」

「ちぇー…」

「あはは…」


子供と女性達が多い馬車へと乗り込んだ少女。なれない人付き合い、ましてや子供なんて…と内心焦りを漂わせた。それでも子供達は顔色なんて伺わないのがゴク自然なのである。


「ねぇおねーちゃんっ!!名前なんて言うのーっ!!」

「うん?私?私はね~梅乃花 はじめ《うめのはな はじめ》って言うんだよ」

「変ななまえーっ!!」

「あれ?へんかな!?」

「何言ってるかわからなーい!!」

「えぇ…嘘ぉぉっ!?」

「そうね…私達でもよく聞き取れないですわね…」

「難しいのう…」

「あれれ…さっきも同じような事を聞いたような…」


(もしかしたら通じない言葉が有るのかも…だとすると私の名前…何て説明しよう…)


「え、えっと…はじめ…はじめ…最初…いち…」

「わかんなーいっ!!」

「え、いや…えっと…ふふ…ふぁーすとっ!!」

「ふぁーすとっ!!」


「っ!!」

(お?)


「ぷ…ぷらむっ!!」

「ぷらむ~~~~~ぅっ!!」


「っ!!!」

(おおっ”!?)


「ぶろっさむっ!!」

「ぶろっさ~むぅ!!!」


( キタ――! )


「エクセレントっ!!」パチパチパチパチっ!!


((「ワーーーっ!!」))


――― パチパチパチパチっ!! ―――


適当な英語を良い、伝わってしまった少女の言葉、そしてそれを良い事に調子に乗り始めた少女。最終的に小学生の英語教室の様な状況へと変化して居た。しかし少女は後悔する事となるだろう…


――― (((ふぁーすとぷらむぶろっさむ!! ))) ―――

――― (((ふぁーすとぷらむぶろっさむ!! ))) ―――

――― (((ふぁーすとぷらむぶろっさむ!! ))) ―――


それが少女の新しい名前となるのだから…


「ぇ?…あ、みんな?落ち着いて?ねぇ!?」

「まるで貴族のお偉いさんの様なお名前ですね」

「羨まし…もしかしたら御忍びの方なのやもしれないの…」

「いや、別に私はっ!!と言うか皆もう停めて~!!これは違うのっ!!」


――― (((ふぁーすとぷらむぶろっさむ!! ))) ―――

――― (((ふぁーすとぷらむぶろっさむ!! ))) ―――

――― (((ふぁーすとぷらむぶろっさむ!! ))) ―――


「やめて~っ!!恥ずかしくて私死んじゃう~っ!!」


――― (((ふぁーすとぷらむぶろっさむ!! ))) ―――

――― (((ふぁーすとぷらむぶろっさむ!! ))) ―――

――― (((ふぁーすとぷらむぶろっさむ!! ))) ―――


かくして、少女が生きた虚しい人生に新らたな始じまりを告げたので有った。


ピロン♪

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