001


パンパカパ~ンッ!!


「ようこそッ!!楽園へッ!!私達は貴女を歓迎いたしますッ!!」


少女が気が付くと、そこは既に騒がしく、ふかふかと白く漂う雲の上の様な場所で盛大にパレードが行われていた。


「ふぇぇぇ!?」


突然の景色の移り変わりに動揺を隠せない少女は、しどろもどろに辺りを見渡す事しか出来ないでいた。


「あれ…私…シュウ君と飛び降りた筈が…夢?まさか…でも…」


冷静に状況を確かめようとする少女で有ったが…


「そして更に…コングラッチレーションッ!!」


パンッ!!パンパンッ!!


「な、なにこの人…さっきから私を盛大に祝ってる様な…と言うか騒がしすぎる…」


パレードの合奏が鳴り響き、紙吹雪などが辺り一面を漂う中、少女目掛けてクラッカーなどが放たれ、仮面を被る金髪の女性達に盛大に祝福の言葉を掛けられ迫られていた。


「さ、さっきから何ですかッ!?私を取り囲んで…それにうるさいしッ恐いし…」


人に纏わりつかれる事に慣れていない少女は怒鳴る様に投げかけてしまった。

しかし、そんな少女の感情など関係なく、仮面の女性はイキイキと喋りだす。


「良くぞ聞いて下さいましたッ!!貴女はつい先ほど、新時代の最初の死者と成りましたッ!!」


待ってましたと言わんばかりに顔寄せ合う仮面の女性達。

その窮屈差に思わず手を広げ空間を広げようとする少女。


「一々近づかないで下さいッ!!それと何ですかそれッ!?新時代の最初の死者!?」

「ええ、そうで御座いますッ!!貴女は平成を跨ぎ、令和と言う新時代での最初の死者となりましたのですッ!!」

「はぁ!?」


少女に放たれた言葉は直ぐに理解する事が難しかった。

なにせ会話をしているのに死者となった。などと言われたのだから。


「意味が全く…」

「ですから~貴女が飛び降りて死んだ時、丁度新しい時代と成ったんですよッ!!」

「いやだから…んッ…まってそれって…平成最後に死ねず、新しい時代で死んでしまったと言う事ですか!?」

「だからそう言ってるじゃないですか~!!嗚呼…なんと御めでたい事でしょうかッ!!」

「そ、そんなッ!?…シュウ君と約束したのに…」


頭で理解するのに時間が掛かり、理解への回答が女性と似た回答となっていた少女。その報告を聞き、理想の形とズレた死を得た少女は意気消沈、身体の力が抜け地べたに座り込んでしまった。そこで気が付いた。彼女が口に出した人物が見当たらない事に…


「あれ…シュウ君は!?シュウ君は何処に!?」

「しゅうくん?さて…存じ上げてませんね…なにせコチラ、新時代の楽園広場でして…貴女が最初のお客様と言う事になっております故…」

「新時代?楽園広場?何を言っているのか分からないですッ!!それにシュウ君が居ない!?嘘よ…ずっと一緒だったのに!!私がここに居るのならッ!!シュウ君も一緒に来てる筈なのにッ!!」


迫られて弱気になった少女だが、少年が居ない事で情緒が揚がってしまう少女。


「と言われましてもですね、多少のズレが有ったのでは無いでしょうか?0時0分00秒、貴女と全く同じときに死ねた方が他にも居たとは思えませんが…」


まるで子供の言い訳の様な、しかしそれが事実。少女が死に落ちた時間がそういう事なので有るから。


「あ…」


少女は飛び降りる直後の事を思い出した。全く同じタイミングでは無い、少し後から引っ張られるように落ちて行った事を…


「思い当たる節が有る様な顔をしていますね…ですが私達には関係が無い事ですね。それに今、この瞬間が素晴らしい事なのは変わりが御座いませんッ!!私達は新しい楽園のお客様として貴女を歓迎し、新時代を迎えた新世界へと貴女を招待しましょうッ!!」

「シュウ君と一緒に…死ねなかった…なんて…」

「聞こえてますか~!?楽園が貴女を新世界へと招待しますよ~!?」

「えっ?あ…え!?楽園?新世界?」


うわな宙を向く少女は肩を揺すられた。

しかし繰り返された言葉ですらやはり理解に苦しむ少女。


「だめだ…全然頭が受け入れきれない…楽園ってあのチラシにあった楽園の事?本当は生きていて、良く分からない場所に連れ去られた…とか?あぁぁ…現実離れしすぎて頭が可笑しくなりそうッ!!」


少女は頭を押さえながらぶつくさと一人で話す。

その独り言にあった楽園の二文字を聞き取った仮面の女性が、頭を押さえた少女の手を取った。


「おやっ!!楽園が気になってきましたか!?では説明いたしましょうか!!とは言っても長々と説明は要らないと思いますがッ!!」

「え、…いや…」

「楽園とは貴女が死者として訪れたこの地を言いますッ!!そして新世界への中継点とも言われていますッ!!」

「死者が訪れる地…と言う事はやぱっり私は死んで…それで中継点…!?」

「はい、楽園とは言わば中継点。貴女はこれから、楽園が提供する新しい世界へと向かい新しい人生を歩む。その為の中継点なので御座います」

「あはは…やっぱり頭痛いや…要するに人生を一から歩み直すんですね…あのチラシに書いてあった通りと…全く信じて無かったですがね…」


苦痛に耐える事を諦めた様に少女が受け入れ始めて行った。


「一からと言うのは少し違いますねっ!!楽園は新しい世界へと招待する場所。貴女は、そのままの貴女のまま、今までと違う別世界へと招待するのが楽園が提供するサービスで御座いますッ!!貴女に分かりやすく言うと俗に言う転移ですかねッ!!」

「は~転移…そう来ましたか…。ファンタジーじみて来てやはり夢だと思えてきました…」


パチンッ!!パチンッ!!


少女は最初から馬鹿げた話しを投げ出そうと、勢い良く両頬を叩いた。


「どうですか?目は覚めましたか?」

「い、痛い…えぇ、覚めました…」

「それでは続きを話しましょうか」

「…」


腑に落ちん、と黙って下斜めを見つめる少女。

そんな少女を気にも留めずに話を進める仮面の女性。


「貴女は見事、新世界へ行く権利を得て、この楽園へ来ました。そして貴女はこれからその世界へと向かう事になるでしょう」

「ふむふむ…でも私、何も才能も無い世間の負け犬ですよ?今のままと言われても、新しい世界に放り出されたとて生きていける自信ないのですが…」


ふて腐れた様な態度の少女が嫌々じみにそう言った。


「はい、その為に楽園はギフトと呼ばれる新世界に適応した能力を授けておりますッ!!」

「ギフト…能力…!?」

「はい、ギフトとは言わば力そのものです。ギフトを受け取れば一般的な生活に不備は起きないでしょう」

「一般的な生活…」


少女は自分の生活を思い返し、廃人として、世間的な生活を送って来なかった事が頭に過っていた。


「私、料理は出来無いし勉学も碌にしてこなかったなぁ…」

「ですがご安心をッ!!コミュニケーションの一環となる物は標準生活ギフトとして贈られ、向こうで新しく語学などを学ぶ必要が無用となっております!!さらに、生活次第では料理も貴女の思想の思うがまま出来る事でしょう。運動能力なども今より向上しており、生活をしていく上で必要な物は全て基礎能力ギフトとして貴女にお送りしますッ!!」


まるで通販の接客かの如く、もの凄い早口と声量で少女を垂らしこもうとする仮面の女性。


「要するに…そのギフトを受け取れば最初から完璧人間に…と!?」

「さようでございますッ!!新世界の一個人として確実に、原住民達の平均を上回る事になりますねッ!!」

「楽してニューゲームですか…そう言うのが嫌って人もいますよね?もしも私が断った場合は?」

「無理矢理にでも向かわせますッ!!勿論ギフトは有りませんよ?」ニコ

「…」


メリットしかない。寧ろ嫌とは言わせられない御得過ぎる対応。

少女は、女性のテンションに付いていけず、返す言葉も思い浮かばなかった。


「分かりました…私はそのギフトを貰い、新世界で今とは違う生活を送れるのですね。でしたら早く向かいましょう…」


行く事が前提の会話となった為か、溜息をいれつつ大人しく受け入れる少女。


「おや、随分あっさりしましたね?別に今直ぐ行かなくても良いですよ?この楽園には貴女の世界の食べ物や遊戯道具などが全て揃って居ますからね!堪能してからでも良いのですよ?」

「過去の想いでに浸れる訳ですね…流石楽園です。ですが結構、それには及びません。墓穴をほじくるだけですのでね…私はもう、行く準備をしたいです」


最初から死にに来た少女には未練など無かった。思い返す位なら全てを早く忘れたいと。


「そうでしたらアチラの昇降口前でギフトを御用意させても合いますねッ!!」

「昇降口…?」

「あそこを昇って頂くと新世界へと行く事ができるんですッ!!それでは少々お待ちを!!」


昇降口の前は受付所の様な場所となっており、仮面の女性達が次々と小さな小包を並べていく。


「あ、あの…それがギフトですか?」

「そうです!」

「随分多いのですね…」

「ギフトは多いに超した事は御座いませんよッ!!」

「まぁ説明を聞く限りだとそうですね…具体的にはどんなギフトが?」

「そうですね~多種多彩でして全てを把握し説明する事は出来ませんが…あ、この中には貴女が得て来たギフトなどが御座いますよ?」

「私が得て来たギフトですか?」

「はい、先程の基礎ギフトとはギフトを纏めた通称であり、元は1つ1つを行う為のギフトです。例えて言えば、話す、聞く、掴む、膝を曲げる、逆立ちする、お箸を持つ、口笛を吹く。これら一つ一つの動作が貴方が得て来たギフトです」

「何か出来て当たり前と言いますか…普通過ぎない?と言うか私のギフトのチョイス…」

「そうです。ですが、その当たり前が出来ない人もいますよね?ギフトとは力、貴女に出来うる全ての行動、事象、現象、才能、それら全部をひっくるめて力=ギフトと私達は呼んでいるのです。貴女に出来ない事は、すなわち力が無いと言う事。そして力とは世界が与える賜物です。だから私達はそれをギフトと呼んでいるのですっ!!」

「急に話が難しくなったような…やめて~頭が…」

「要するに、これらの他愛無く見えるギフトは基礎ギフトとして纏められていて、貴女が出来た事、これから出来る事をギフトパックとして今持ち出しているのですよッ!!この中には貴女が知らないだけで本当は持っていたギフトが沢山あるでしょう…」

「ふーむ…PCに要らないツールまで勝手にダウンロードさせられてる訳ですね…」

「良く分かりませんがそうだと思いますッ!!」

「…」


分かってないのにそうだと言える受付の女性に何故か押し黙る少女。

反論すら面倒に成って来た少女は、運ばれてくるギフトをただ黙って見るばかりであった。


「そしてもう一つ、コチラにもギフトが御座います」

「箱が金色に輝いてる様に見えます…」

「はい、コチラはマスターギフトと成って居ます」

「…?」


少女は何が違うの?と言いたげに首を傾げた。


「コチラのギフトは少々特別なギフトでして、普通に生活していても身に付かない特別なギフトと成って居ます。例えば音を聞き分けられる、人よりも遠くが見える、全ての言語を理解する。真似しても身に付けられない努力の賜物や同じ分野で大きく差が開くのは、このマスターギフトに違いが出てきます。身体向上などの新世界で貴女に身に付くギフトの殆どが、このマスターギフトとなってます」

「個体値の差って奴ですね…私はさぞ低い個体だったのでしょう…はぁ…」


育成ゲームを突き詰めた結果、自分という個体値の低さを理解し自爆した事を思い出す少女。


「さて、此処までは楽園から贈られる共通ギフトでしたッ!!」

「あ、有り難う御座います…それでこの箱どうすれば…どう見ても持ちきれませんよ…」

「そうでしょうッ!!ですのでコレを使いますッ!!」


並べられた小包の量に圧巻されつつも、その対処方を続けて教え出した。


「ギフトメニューッ!!」

ブィン!!


そう言うと、女性の手元から透明なシステムメニューバーの様な物が現れた。


「次世代ゲームか何かでしょうか…私はやはり夢を…いえ何でも無いです」

「良く分からないので進めますねッ!!コチラ、楽園関係者が使えるメニューバーでして、ギフトを取得する為に必要な管理ツールとなってますッ!!コチラを起動させ、ギフトアンロックを宣言しましょうッ!!」


※invalid※invalid※invalid※invalid※invalid※....


何かが女性のメニューから大量に飛び出し出した。


「あ、気にしないで同じように続けて下さい!!」

「う、うん…ギフトメニューッ!!」

ブィン!!

「わッ!!続けて…ギフトアンロックッ!!」


(うわぁぁぁ…勢いで言っちゃったけど何かダサいよ…まるでシュウ君みたい…)


※complete※※complete※※complete※※complete※※complete※....


先程とは少し違うが、高速で次々とメニュー内に文字がポップアップされていき、程無くしてそれは止まった。


「ウィルスにでも侵されたのかと冷や冷やしますね…。それで今のは一体…」

「ギフト取得おめでとうございますッ!!貴女にギフトが贈られましたッ!!」

「え…今のでギフトを?…PC云々の件そのままじゃないですか…」

「なんの事か分からないですねッ!!取得したギフトはメニュバーから何時でも確認出来ますよッ。因みに今は無理です。ギフトの能力とアクセス制限などを加えさせてもらって居ますので、向こうへ着いた時にでもギフトを体感して下さいッ!!」

「そ、そうですか…もう宜しいですか?」

「そうですね、後は注意事項をお話しいたしましょうかッ!!」

「あ、はい…まだ続くんですね…」


もう良いのでは?と長話に飽きがきた少女はうなだれる様にそう言った。

そんな少女の顔などお構いなしに話しを進め出す仮面の女性。


「まず、今回手に入れたギフトは向こうの世界で貴女が暮らす為の必要最低限のギフトです。ご飯が無い、力が無いなど、非力でのたれ死ぬ、と言う事は無いかと思います。ですが、より良く生き抜くためには新しくギフトを得る必要が出て来るでしょう。生きる環境に合わせ、新たなギフトを得たり、マスターギフトを鍛え上げ自分に足りなかった力を補う事も出来るでしょう」

「簡単に言ってくれますがその時欲しいギフトが直ぐに得られる訳ではないですよね…」

「その通りです。運も有れば努力も必要になる事も。どの様な行動でギフトを得られるかはその時その時の貴方の行動次第。その為の最低限のギフトを贈ったつもりですが、本来ギフトとは目に見える物では御座いません。先程の様に、ギフトを明け渡し取得する以外では、ギフトを視認する事は通常出来ず、ギフトを得た場合に自動でメニューに通知が来るでしょう。取得出来たかどうかはソチラでご確認下さい」

「ふ~ん…なんか普通に資格習得するって感じなのかな…全部パスした私がそんな努力をするのやら…」


今までの自分の性格を棚に上げ、新世界で今までと何が違ってくるのか、似たような人生を送ってしまうのでは、と折角の新世界なのに夢の無い if を脳内で想像し始めて居た。


「ですが、無理にギフトを欲する必要は無いでしょう。それは貴女次第なのだから。これ以上のギフトを欲せず、平凡にひっそりと暮らすのも一つの手だと思いますよ」

「ふむ、私にはその手の方が現実的に見えて来ましたね…」


ニート上等と言わんばかりの将来性。新世界とは一体何だったのか…


「ですがギフト取得には、ギフトを己の力で培う以外に、他人から若しくは生き物などからギフトを奪える事も覚えて居て下さい。そしてそれが出来るのは貴女だけでは無い事を十分肝に命じて下さい。貴女以外にも楽園の死者が居る事を忘れないでください」

「私以外にも楽園の死者が…!?もしかしてッ!!でも私は新時代の楽園でその最初の一人なんでしょ?他に死者なんて…」

「楽園の死者はこれから沢山排出されて生まれて来るでしょう。因みに、貴女は新時代の楽園死者であり、旧時代の死者は勿論います。私達からしてみれば、学年や世代みたいなものですよ」


それを聞いた少女は受付の台に勢いよく両手を叩いた。


「な、ならッ!!シュウ君もきっと何処かでッ!!」

「はい、恐らくは…運が良ければ、そのしゅうくんと言う方を見つけられるかもしれませんね…」

「なら早くこの五月蠅い場所からおさらばして会いに行かなくちゃねッ!!」


良い様に言いくるめられ、先程のやる気の無さから一転、綺麗に掌を返した少女。


「と言う事で最後のサプライズギフトをご用意しております」

「サプライズって言った時点でサプライズ感が無く成る様なもんじゃ」

「おっとこれはこれは…ですが、サプライズギフトは私達が贈る物では御座いませんっ!!世界が貴方に向けて贈る特別なギフトとなっております。是非とも向こうでご確認ください!」

「と言われても…ここで焦らすなら言わないで欲しかったなぁ…」

「新時代の最初の死者として良い贈り物で有ると私は願って居ますッ!!」

「ぐぬぬッ!!良く分からないけど有り難うです…私、早くシュウ君みつけたいからそろそろ…」

「そうですね、それでは説明も済みました事ですし、お好きなタイミングで階段を御登りくださいませ」

「え、あはいッ!では早速行かせて貰いますッ!!」


ギフトに関する説明が終わり、少女は迷う事なく新世界への階段を昇り出す。

それに合わせ、パレードの合奏が再び奏でられた。

五月蠅がったパレードの音楽も、この時ばかりは心地よく、意気揚々と少女を新世界へと送り出たしたので有った。








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