ソマリのミーネと商人ニックス

小鳥遊凛音

ソマリのミーネと商人ニックス

ある雪の降る寒い日の夕方、商人のニックスは帰宅途中に寒さで震えていた猫と出合う。



ニックス「こんな所で大丈夫かい?」



ニックスは寒さで震えていた猫を抱きかかえて帰宅する事にした。

寒さもシーズンで1番寒い日の事であった。



ニックス「ここが私の家だよ、もし君が行き場が無いのであればここに暮らすと良い。」



年齢は50代後半の男性で身長は170cm前後の白髪混じりの温和で人に好かれるタイプのニックスは一人で2階建ての一軒家で暮らしている。

20代で結婚をして以来フィアンセと一緒に暮らしていたのだが一昨年の冬、病気の為、この世を去った。子供もいなかった。



ニックス「そうか、嬉しいか、私も久しぶりに家族と呼べる相手が見付かって嬉しいよ。これから宜しく頼むよ。」


猫「みゃ~ん。」



猫は本当に喜んでいる様にニックスの足元にすり寄って来た。自分の親だと思っているのだろうか。



ニックス「おっ、そうと決まれば君に名前を付けないといけないな。そうだな、鳴き方が少し特徴的だから、「ミーネ」と呼ぶ事にしようか。」


ミーネ「みゃぉ~ん。」



ミーネは凄く喜んでいるように見えたが何より、自分の親のような存在の主と暮らせる事への期待で胸がいっぱいだった。



ニックス「今日は準備が出来ていなくて、それに疲れただろうから、ありあわせの物で悪いが、食べてくれ。それでゆっくり休むと良い。」



ミーネは余程お腹が空いていたのかニックスが差し出したご飯を思いきり食べていた。


夜になり、寒さも大分強くなった為、暖炉の前でゆっくりとしながらミーネは直ぐに安心したのか深い眠りへと落ちて行った。



ミーネは、ニックスと出会った街の宿屋で暮らしていたのだが、親猫が死んでしまい、宿屋も潰れてしまった為、その間に宿屋の主に見放されてしまい彷徨った。そこへ通り掛かったニックスに出合う。




翌朝、仕事に向かう前にミーネに色々と話をする。

ミーネは分かっているのかいないのか、ニックスの言葉を顔を見上げて聴いていた。



ニックス「ミーネ、すまないが、私はこれから仕事に出掛けて来るから、寂しいかもしれないが家で留守番を頼まれてくれないかい?」


ミーネ「みゃお~!!」



恐らく了解してくれたのであろう、ニックスが家を出ようとした時も玄関の扉前で黙って待っていた。

お腹が空いたらこれを食べなさいと指し出されたご飯もしっかりと置いて行ってくれた。

予想以上な量であったが、まだ産まれて日が浅い食べ盛りと感じたのかニックスは想定以上の量を用意していた。



ニックスが家に帰って来た時、驚きを隠せなかった。

何と、家の中がぐちゃぐちゃになっていた。

一瞬誰か泥棒でも入ったのかと思ってが、直ぐにミーネの仕業だなと頭を過る。

そうである。ミーネはソマリと言う種類のいたずら好きの猫。主人に構ってもらえずこの有様。


ニックスは怒り等は全く無く、このように言った。




ニックス「ミーネ、君は男の子だな、元気があって何より。」




時間も経っており問い詰める事で意味も無い。それより、久しぶりに活気が戻った様でむしろ嬉しかった。




ニックス「でも、毎日これじゃあミーネもストレスを抱えてしまうだろうし、明日から誰かに昼間は預かってもらうとするか。」




ニックスは隣に住んでいた、キャンディスと言う20代の女性に自分が留守の間、ミーネを預ける事にした。



お風呂に入り、食事を済ませ、今日あった事をミーネに聴かせる。

ミーネは懐く様にニックスの足元でウトウトとしながらニックスの話を聴く。



翌日・・・

今日から隣のキャンディスにミーネを預ける事にした為、挨拶がてらキャンディスと会話をする。



ニックス「キャンディス、いつもお世話になっているが、本当に済まないね。ミーネの事を宜しく頼むよ。」


キャンディス「いいえ、私も猫は好きだし、昼間は主人もいないから大丈夫よ。」


ニックス「又、埋め合わせもするからお願いするよ。じゃあ、行って来るよ。」


キャンディス「行ってらっしゃい。気を付けて。」



少しだけ顔を見合わせる程度で拾われて来てからあまり関わりが無かったミーネとキャンディスであったが、思いの外意気投合した様子でミーネもキャンディスに懐いていた。



キャンディス「今日から宜しくね、ミーネ。私はキャンディス、ニックスの隣のここに住んでるの。さぁ、入って。」


ミーネ「みゃぅ~ん。」



ミーネも嬉しそうにキャンディスの家の中へ入って行った。



ミーネは寂しがりで構ってあげないといたずらをする程の元気な猫である為、日中ニックスがいない時は余程寂しかったのだろう。それももう気にしなくてよくなり、ニックスがいない時間はキャンディスと、ニックスが帰って来たらニックスと一緒にいられる事を心なしか気付いている様子であった。



ニックスが帰って来た。



ニックス「キャンディス、今日はありがとう。お蔭で安心して仕事が進んだよ。」


キャンディス「こちらこそ、昼間って意外と一人で暇な時間もあったけど、この子が来てくれて楽しかったわ。又明日も楽しみににしてるわ。」


ニックス「それはそうと、今日は大人しくしていたかい?何かいたずらをしていたらまずいからね。」


キャンディス「いいえ、特にいたずらとかしなかったわ。やっぱりあの話の限りだとすると寂しさで構って欲しかったんじゃないかしら?出来るだけ私も寂しい想いをさせないようにするわ。」


ニックス「そうかい、それは良かったよ。あぁ、色々とすまないが宜しく頼むよ。あっ、これは今日帰りに良さそうな魚が売ってあったから貰って来たよ。良かったら1尾どうだい?」


キャンディス「あっ、貰っていいの?丁度魚買おうかって思っていた所だったから丁度良かったわ。少し豪勢な感じにしちゃおうかしら!」



何気ない会話をしながら、今日も日が沈む。

ニックスも朝、下ごしらえしていた食事の準備を進める。

魚があったからミーネも喜んでくれるだろう・・・



ニックス「よ~し、ご飯が出来たぞ。今日は君が好きな魚の料理だからたんとお食べ。」


ミーネ「みゃみゃっ!!みゃう~!!」



流石は猫、魚の匂いや見た目から咄嗟に反応を示し、がっつき始めた。



ニックス「おぃおぃ、ミーネ、あまりがっつくと喉に詰まらせるぞ。まだ少しあるからゆっくりお食べなさい。」



ニックスの心配をよそに、思いきり食べ進めるミーネ。ミーネも物凄く喜んでいる様であった。




週末になり、ミーネと出会って初めての休日であった。

ニックスは街中に散歩に出掛けようとミーネと一緒に出る事にした。



ニックス「よし、ミーネ、今日は私が休みだから一日一緒にいられるぞ。折角だから街へ出て色々と見学しようか。」


ミーネ「にゃう~ん!」



よく分からない鳴き方をしながらニックスにべったりのミーネであった。

一緒に街へ出て、散歩をしたり食事をしたり、ショッピングも済ませ、帰宅する。

あっと言う間に時間も過ぎて夕刻、食事時になっていた。



ニックス「ミーネ、今日は楽しかったかい?私は最近感じていなかった程楽しい時間だったよ。私と一緒にいてくれてありがとう。今日は買って来たものを食べよう。ここの店の料理は絶品だからきっと君も喜んでくれるはずだ。」


ミーネ「みゃー。」



ミーネはそのご飯が本当に美味しくて食べるのに夢中になった。




そんな楽しい時間がしばらく続き、1年を過ぎたある日の事。いつもの様に朝、ニックスが起きて食事の準備をしてくれて仕事に行くであろう時間、ミーネはニックスが起きて来るのを待っていた。

だが、ニックスが起きて来る様子が無かった。

ニックスの部屋へ行き、ニックスを起こそうとベッドの上に乗りあがった。



ミーネ「みゃー、みゃー、みゃうー!」


ニックス「あぁ、ミーネ、もうそんな時間か、起きないといけないな・・・うっ・・・」



ニックスの様子がいつもと違う。どうしたのだろう?いつものニックスなら寝坊もせず、しっかりと起きて来るはずなのに・・・不安になったミーネは、急いで隣のキャンディスの所へ走った。



ミーネ「みゃ~、みゃ~、みゃぅ~ん!!!」



思いきり鳴き叫びキャンディスが中から出て来た。



キャンディス「ミーネ、どうしたの?ニックスが出て来ていないと言う事は何かあったのね?」



直ぐに異常を察したキャンディスは隣のニックスの家の中へ入りニックスの所へ出向いた。



キャンディス「ニックス、しっかり、大丈夫?」


ニックス「ん・・・ん~・・・」



ニックスの意識が朦朧としていた。もう返事も困難な状態なのだろう。

慌てて救急車を呼びニックスは病院へ運ばれた。

キャンディスとミーネも一緒に救急車の中へ乗っていた。



病院へ到着してからおよそ5時間程が経った。

運ばれて来て直ぐに手術をする事になり時間が経過していた。その時間不安になりながらもミーネとキャンディスは見守っていた。

オペ室から医師が出て来た。キャンディスはミーネを抱きかかえたまま担当の医師に話を聞く。



キャンディス「あの、ニックスの方はどうなりましたか?」


医師「あなたは隣の家の方ですか?ニックスはお一人と言う事で宜しいですか?」


キャンディス「はい、ニックスは現在は1人住まいだったのですがこの猫を養う様になってからこの猫と生活をしています。私は恐らく二ックスとは現時点では、一番身近な存在になっていると思います。」



医師「それなら、あなたにお話した方が良さそうだね。ニックスは後、3か月持てば良い方だと思う。大分体の機能が低下していた点、それから今日の朝の件ですが、もう一歩遅くなっていたら手遅れになっていました。幸いあなたがしっかりと連絡を取ってこちらへ連れて来てくれたおかげもあってそれは回避出来ました。」



キャンディス「3か月・・・どうにかなりませんか?この人、数年前にパートナーを亡くしているんです。ようやく家族と呼べるこの子が来てくれて色々と生活も安定し出したんです。それなのに・・・うぐっ・・・」



キャンディスは我が事ながら涙を浮かべて医師に訴えかけるが、不治の病となっていたニックスを救う手立ては無かった。



キャンディス「この子はどうすれば良いの?・・・ミーネ、ごめんなさい、あなたの大切な人はもう・・・」


ミーネ「みゃぅ?」



何を言っているのか分からない様子でミーネは疑問を持ったような表情を浮かべた。



危険な状態は回避したが体の機能が低下していたニックスはしばらく病院で入院する事になった。

その間、ミーネの面倒はキャンディスがする事にした。キャンディスのパートナーも快く承諾し、今後の事もミーネは最悪預かる事にする予定でいた。




ニックスが病院へ運び込まれてから1月が経った。

ニックスは、自分がどの様な状態にあるのか、大体把握していた。



ニックス「キャンディス、本当に色々と済まなかったね。私の事だけで無く、ミーネの事迄世話をしてもらって・・・」


キャンディス「何を言ってるの?私もニックスにはこれ迄色々と助けて貰っていたし、正直これ位じゃまだお返しすら出来ていないし、それに、困った時はお互い様でしょ?」


ニックス「あぁ、そうだったね。私がいつも言っていたセリフだったね。はははっ。」



ニックスは苦しいながら笑って見せた。



キャンディス「ミーネも久しぶりにニックスと会話出来るよ。何か元気を出させてあげて。」


ミーネ「みゃぅぅぅぅぅ~、みゃぅ、みょー!」


ニックス「はははははっ、相変わらず君は妙な鳴き方をするね。元気そうで何よりだよ。はははっ!」



ニックスは久しぶりに本気で笑った気がした。

パートナーを失ってからミーネと出合う迄笑う事すら出来ず、何も無い毎日を繰り返すだけだったけれど、ミーネと出会って、暮らした時間が本当に宝物の様に感じていた。



ニックス「キャンディス、私からの最後のお願いだ、聞いてくれるかい?」


キャンディス「嫌よ。」



キャンディスは冗談半分な面持ちでこの様に答えた。



ニックス「・・・・・」


キャンディス「その、人生を諦めた様な言い方私嫌いだよ。」



表情は今にも泣きそうになってしまうのをあえて隠そうとしていた。

冗談に言っている様に見せたが、半ば真剣であった。



キャンディス「あなたが死んじゃったらこの子はどうなるの?たった一人の家族なんだから。」


ニックス「そうだね。すまない。私が弱音を吐いていたらミーネはもっと辛い想いをしてしまう。」


キャンディス「って言っても、仕方が無いんだよね。ごめんなさい。私、本当は・・・」


ニックス「いや、私が悪かった。ただ、私が万が一、万が一だ、アンの所へ旅立つ事になってしまったら、その時がもしも訪れてしまった場合は・・・」


キャンディス「えぇ、大丈夫よ。アラステアとも私たちでと言う事は話合ったから、安心して。」


ニックス「済まない。本当に・・・ぐっ・・・うぐっ・・・」



泣き崩れるのでは無いかと言う程、感情が表に出て来ていたがそれすら押し殺そうとするニックスを目の当たりにしたキャンディスは耐え切れず病室の外へ出て行き泣き崩れた。




アン・・・ニックスのパートナー、おおらかで優しく、誰に対しても包み込む様な性格。家庭的で周りの憧れでもあったが元々病弱体質な為、入退院を繰り返していたが、ニックスとはお似合いのカップルで結婚前から相性が良いだろう等と噂されていた。残念ながら数年前の入院の時、病を悪化させてしまい還らぬ人となった。


アラステア・・・キャンディスのパートナー。先にも挙がっている通り、理解力や判断力がしっかりとしており、人々からの人望も厚く、活発的な性格。キャンディスとは職場で知り合い結婚したがその後キャンディスは家事に専念した。




毎日キャンディスはミーネを連れて病院を訪れた。そして、医師からの余命宣告がされた通り3か月が経った頃、ニックスは苦し紛れではあったが、病院を退院する事にした。残りの時間を大切な家族と過ごす事を優先したのだ。




アラステア「ニックス、大丈夫ですか?じゃあ、一緒に帰りましょう。」


ニックス「あぁ、アラステア済まないね。それから、先生、看護師の皆さんもお世話になりました。色々とご不便をお掛けして申し訳無い。」


担当医師「ニックス、退院おめでとう。何かあったら直ぐに連絡をして下さいね。アラステアも宜しくお願いしますね。」


アラステア「はい、色々とありがとうございました。」



医師があえて「おめでとう」と言ったのには理由がある。本来退院させるのは危険極まりない判断であったのだが、あまりにもニックスの想いが強過ぎた為、ニックスの意志を汲み取り、「戻って来い」と言う発言は一切しなかった。普通に退院患者に対して発言する言動、気持ちを持つ為の誠意であった。




帰宅した。



キャンディス「お帰りなさい。あなた。ニックスは大丈夫だった?」


アラステア「あぁ、只今、この通り元気だよ。」


ニックス「只今、アラステアには迷惑を掛けたよ。本当にありがとう。」


ミーネ「みゃみゃみゃみゃぅ~。」


ニックス「ミーネ、只今、長い間留守にして済まなかったね。これからはずっと一緒にいられるから安心してくれ。」



頑張って元気そうに振る舞うニックスだったが、本当は笑顔ですらいられない程痛みと苦しさが体を蝕んでいた。



そして、ニックスの部屋へ荷物や片付けをした後・・・



アラステア「じゃあ、荷物も片付けも終わったので僕達は家に戻ります。何かあれば直ぐに連絡を下さい。ミーネもお願いだよ。」


ミーネ「みゃう!」


ニックス「あぁ、色々とありがとう。本当に助かったよ。」




実に3か月ぶりの家族と我が家、ニックスは穏やかな気もちになれた。



ミーネ「みゃ~う?みゃ~・・・」



いつもより少し不安気な声色で鳴くミーネ。



ニックス「あぁ、ミーネ、もう大丈夫だ。色々と済まなかったね。これからはずっと一緒にいられる。仕事も行かないから安心してくれていいよ。」



ミーネ「みゃぅん!!」



少し安堵に至ったミーネ、それを見たニックスも自ずと表情が緩んだ。




夕食時間になり、食事の準備等家事ももう出来なくなってしまったニックスに代わり、アラステア夫妻が家に来て食事を一緒に摂る事になった。



ニックス「いやぁ、久しぶりに家庭料理と言うものを食べさせてもらったよ。本当にありがとう。」


キャンディス「家の味だからニックスに合うかどうか分からないけど、後、アンの様な期待はしないでね。」



笑いながらそう言うと・・・



ニックス「うっ、うぐっ・・・ほっ、本当に美味しいよ・・・味もだけど、何より、久しぶりにこんなに大勢とこうやって食事が出来て、本当にっ、本当に良かった・・・ぐっ・・・」



泣きながらニックスが言う。



アラステア「アンにはかなわないかもしれないけど、キャンディスはシェフの経験もあるから一流なんだよね。流石だよ!」


キャンディス「もう、それは何年も前の話だから忘れて。」



泣いているニックスを少しでも穏やかにしたいが為、思いつく話を振ってみせた。



アラステア「あっ、そうだ、明日は休みだから皆で何処か出掛けないか?ニックスが行ってみたい所へ行こうよ。」


キャンディス「それ、名案だわ。ニックスが行きたい所だったらミーネもきっと喜ぶだろうし。ねぇ、ニックスは何処に行きたい?」


ニックス「ははは、そうだね、私は・・・この街の丘の上にある絶景の場所があるのだが、そこへ行ってみたいな。」


アラステア「じゃあ、車出すから明日の朝皆で行ってみよう。この街に来てまだ知らない場所があったとは意外だったけどその丘も行った事が無いみたいだし楽しみだね。」




そうこう言いながらその日もお互いの家に戻り寝る事になった。




翌日・・・・・



キャンディス「よし、食事の準備もしたし、後は朝食を済ませて皆が準備して出発ね。」


アラステア「良い天気になって良かったね。ところでニックスが行きたがっているあの丘ってひょっとすると何かニックスにとっての想い出の場所だったりするのかな?」


キャンディス「色々と感慨深いのかもしれないわね。とりあえず起こしに行きましょう。朝食も済ませないといけないし。」




ニックスの家へ出向いた。



ニックス「やあ、お早う。今日は宜しくお願いするよ。」


アラステア「いえいえ、こちらの方も楽しみだったんですよ。絶景ってどんな感じなのかまだあの丘には行った事が無かったので。」


ミーネ「みゅ~、みゃう!」


キャンディス「あら、ミーネも楽しみみたいね。じゃあ、朝食済ませて早速出掛けましょう。」




楽しい会話をしながら朝食を済ませ、男性陣は準備をして車に乗る。



アラステア「ここからだと車で30分程掛かるから気分悪くなったら言って下さい。」



途中何度かニックスに体調の変化が訪れたが無事に丘の上の方迄辿り着けた。

持って来ていた車椅子にニックスを乗せて、アラステアが丘の頂上迄運ぶ。



アラステア「・・・・・・・・・・・・・」


キャンディス「・・・・・・・・・・・・・」


ニックス「久しぶりだが相変わらずの光景だ。」


ミーネ「みゃぅぅぅぅ~♪」



初めて見ると「言葉を失う」とはよく言ったものでアラステアもキャンディスも言葉を失った。



アラステア「これは凄い!!素晴らしい光景じゃないですか。地球上にこのような場所があったなんて・・・」


キャンディス「えぇ、本当にそうね。私もこれ程綺麗な風景を見たのは生まれて初めてよ。何て凄いのかしら・・・」


ニックス「皆、喜んでくれたみたいで何よりだ。ここは、アンが好きだった場所なんだ。生前よくここへ来ては1日ゆっくりと過ごしていたんだ。だからあそこを見て欲しい。」



ニックスの指差した方にはお墓があった。



アラステア「そう言う事でしたか。」



アラステアは察した。

そう、この場所はニックスとアンの思い出の地。アンが生前言い残していた言葉があり、この地で土になりたいと・・・

ニックスはその想いを汲み取りこの地に墓を建てた。

そして、墓の前に行くと・・・


ニックス「アン、元気にしていたかい?最近めっきりここへ来られなくなってしまった。前回ここに来たのは確か4か月程前だったね。あの後1月経ってそろそろここに来なきゃと思っていた頃、急に倒れてしまって、隣に住んでいるアラステアとキャンディスに助けてもらってね。新しい家族だったミーネにも色々と迷惑を掛けてしまったよ。だが、後少し、後少しで君に会えるよ。だからもう少しだけ待っていてくれないか?残りはアラステアとキャンディス、そして、ミーネにきちんとお礼をしてから君に会いに行きたいからね。」



アラステアは泣いていた。キャンディスもとっくに泣いていた。

そんな2人の様子を見ていたミーネは不思議そうな表情をしていた。



お昼になり、シートを広げて丘の上の花畑のような綺麗な場所で昼食を摂る事にした。



キャンディス「珍しく今日は豪勢に、これだ!」


アラステア「って、サンドウィッチじゃないか、何と言うか君らしいな。」



笑いながらジョーク染みたキャンディスの言葉にアラステアがツッコミを入れる。

その様子を見ながら自分がアンと一緒にこの場所で昼食を摂った記憶を重ね合わせる。

少し涙したニックスは直ぐに笑顔でこう言った。



ニックス「君たちを見ていると昔の自分たちを思い出すよ。本当にお互いに良いパートナーだと思うよ。」


アラステア「アンも明るい面もありましたよね。少ししか知らないですが、素敵なパートナーですよね。」


キャンディス「私も、アンには憧れる部分が結構あったから、今もそれを見習おうと頑張ってるの。」


ニックス「二人とも、本当に君たちがいてくれて良かった。私は最高の人生を送れた。本当に、本当にありがとう。」


アラステア「もう、ニックス、辛気臭い話は無しですよ。折角こんなに綺麗な場所、キャンディスの手料理、パートナーが見ているのに恥ずかしいじゃないですか!」


ニックス「あぁ、すまない、そうだったね。今日は良い天気にも恵まれて我々を歓迎してくれている気がするよ。」



皆で笑いながら昼食も終え、そろそろ帰宅する時間となった。



ニックス「アラステア、キャンディス、今日は私の我儘に付き合ってくれて本当にありがとう。それから、この後の話は真剣な話なのだが、もう、私は今日・明日に死んでも不思議では無いんだ。それで、これからの件なのだが、ミーネ預かって欲しいと言うのは二人とも把握してくれていると思うんだ。それとは別に、私には子供がいない、アンももうこの世にはいない。だから私の財産を引き継いでくれる人物がもうこの世にはいないのだよ。そこで、もし君たちが私の財産を継いでもらえるなら手続きを今の内にやっておこうと思ってね。」


アラステア「ちょっ、それはいくらなんでもダメですよ。僕たち、そう言う事が目当てでやって来た訳じゃないですから。」


キャンディス「そうよ。私たちは純粋に状況を見て、本当にお世話になっていたニックスだからこそ協力させてもらったのよ。正直見損なわれているみたいで・・・」


ニックス「すまない、ただ、私がいなくなったらどうする事も出来ないから、生きている今の間にやっておこうと思ってね。」


アラステア「家自体ならこのままミーネの家と言う形で残しておけば良いだろうし、掃除とかも僕たちが何とか出来ますし。」


ニックス「そうかい、家の件はじゃあ、その流れで良いかな?お任せするよ。後は私自身の財産なのだが・・・それは遺言に残すとしようか。後、私の葬儀等は最低限で構わないから申し訳無いけれどお願いさせてもらって良いかな?」


アラステア「分かりました。家の件は残しておいて、掃除等もします。葬儀に関してもそのような形で希望されるのであれば意志に沿ってやらせてもらいますね。」


ニックス「あぁ、色々と迷惑を最後迄掛けてしまう形になってしまって本当に申し訳無いね。」



その夜、ニックスはその話に基づき遺言をしたためた。



ニックス「ミーネ、短い間だったけれど色々と楽しかったね。それからすまない。悲しい想いばかりさせてしまって・・・もう直ぐ私はアンの所へ旅立たなければならない。君はアラステアとキャンディスの所の家族になるんだよ。何も悲しむ事も無い。苦しむ必要すら無い。君は新しい家族と一緒にこれからも楽しく、平和に暮らすんだ。だから泣かないでおくれ。」



ミーネ「みゃ、みゃうぅぅぅ~・・・・・」



何かを察していたのだろうか、ミーネの目からは涙が流れていた。



ニックス「ミーネ、すまないが、私の隣で寝てくれないかい?私が旅立つ迄毎日、毎晩一緒に隣で寝て欲しいんだ・・・」



ニックスが珍しく甘えるように涙しながらミーネにこのように言った。

それを理解していたのかミーネはニックスの枕元に座る様に寄り添った。


ニックス「うん、ありがとう。私の人生は本当に幸せだったな。アンが死んでしまった時は何て不幸なのだろうかとずっと苦しんでいたのだが、君が来てくれて、今日もアンに会いに行けた。隣のアラステア、キャンディスの様な素晴らしい二人にもお世話になった。そして、最後は君が隣に寄り添ってくれている。人間と猫なんて会話も出来なければ気持ちも繋がっていない。人間同士ですらそんな事不可能だ。だが、こうやって隣にいて欲しいと私が想った、言った。それに何故か君は応えてくれた。本当に不思議なものだね。私のこの60年足らずの人生、色々な事があったけれど、本当に今は穏やかな気持ちだよ。ミーネ、本当に私と出会ってくれてありがとう。今度は君が幸せになる番だよ。うん・・・」







ミーネはずっとベッドの上にいた。

いつもの様に起きて、朝ご飯を作ってくれて、仕事に出掛けて、帰って来てくれるそんなニックスの姿を待っていた。

ただひたすら待ち続けた・・・


遺言には驚きが隠せない程のニックスの財産が記されてあった。

アラステアとキャンディスはとても頂けないと思い、財産の少しをミーネの為に使い、残りを全額街へ寄付する事にした。

その寄付する一環として、丘の上にニックスのお墓をアンと一緒にして、丘を綺麗に今後も保てるようにしてもらい、街一番のお似合いカップルだと言う記念碑を建てる等の条件を付ける事にした。


その後もミーネは毎日、ニックスのベッドへ行きニックスの想いを感じ取っていた。

理解は出来ているような、出来ていないような・・・ただ、新しい家族の元へはきちんと戻って来るので、恐らく理解出来ているのだろうと・・・



キャンディス「ミーネ、今日のニックスはどうだった?元気にしてた?今度又丘の上に会いに行こうね。」


ミーネ「みゃぅぅぅん!」


アラステア「おっ、ミーネ又喜んでるな。つい3週間前に行ったばかりなのにな。」



こうやって、今日もニックスの家はミーネの家として以前の形を保っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ソマリのミーネと商人ニックス 小鳥遊凛音 @rion_takanashi9652

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ