命の円盤
『命を奪いたくないの』
最近知り合った妖精さんはそう言っていた。
『お肉は美味しくて好きなの……でも、それでも、食べるために命を奪うのは、嫌なの……』
「人間はお肉を食べないと栄養のバランスが狂って具合が悪くなるけど、妖精さんはどうなの?」
『私たちも同じなの……。みんなは、気持ちはわかるけどちゃんと食べなさいって言うの』
ふぅ、と妖精さんはため息をついた。
『なにかいい手段はないかしら?』
*****
数日後、また妖精さんに会うと妖精さんは肌が真緑になっていた。
「どうしたの?」
『ふふ、いいことがあったのよ! 来て!!』
妖精さんについていくと、草むらの中に大きな円盤があり、妖精さんはそこにごろんと寝転んだ。
『ここに古い魔法がかかっててね! ここで寝転ぶと日の光に当たるだけで栄養がとれるの! これなら誰も傷つけないし、私も健康なの!』
妖精さんは、本当に楽しそうだ。
『みんなはじっとしてるだけだし美味しくもないから嫌だって言うけど、私はこれでいいわ! 村長さんが教えてくれたの! なんでこんなものがあるのか分からないけれど、きっと昔も私と同じようなことを考えた人がいるのね! 私もちゃんと魔法の勉強をしようかしら』
妖精さんと別れると、偶然村長さんの妖精さんと出会った。
「こんにちは」
『こんにちは。あの子と仲良くしてくれてありがとう。優しいけれど少し変わった子だからね、ヒトとはいえ友達が増えるのは良いことだ』
「村長さん、一つ聞きたいことがあるの」
『なんだい?』
「あの円盤は、酷いものだよね? あの子が使って大丈夫なの?」
『……どうしてそう思うのかな』
「妖精さんの体にピッタリなサイズの拘束具みたいなのがついてたから」
あの円盤の上にはベルトのようなものがついていた。きちんと装着したら、四肢を固定出来るだろう。
『そうだよ。あの子は知らないし古い時代のものだから年寄りしか知らないが、あれは罪を犯した者を拘束して、長い間苦しめるための道具だ。光で栄養は摂取できるから飢えや喉の渇きで死ぬことはなく、動けないままあそこに放置され……まあ、とっくの昔に使われなくなったがね……』
「じゃあ、栄養を摂るためだけなら危険はないんだ」
『ああ』
「そう、ならいいの」
『……あの上で何人も死んだ。本当なら知らなくても子供に触れさせるべきものじゃないし、あの子の主張も……よくわからん』
「そう」
『だが……理解できなくとも気持ちを汲み取るってのは大事なことなんだろうと思う。秘密にしてくれないかね』
「わかった」
ありがとう、と村長さんは礼を言った。
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