ヒトという食糧

 ヒトはこの世に溢れています。


『みんな食ってしまえばいいのにな』

『なあ』

 ヒトよりもはるかに大きなカエルのお化けは言いました。なんせヒトときたら、こちらの姿が見えなくて個体数が多く、体はずっと弱いのです。なんで未だに絶滅していないのかわからないくらいです。

『不味いのかな』

『そうかもしれん』

 それ以外、理由が思いつきませんでした。

『どれためしに一つ』

 カエルのお化けその大きな大きな舌を伸ばして、たまたま近くを歩いていたヒトを捕らえました。あっという間に口に運んで咀嚼します。

『味はまぁまぁだが、骨が多いな』

『ほう』

『つくねと思えばイケるか? ……いややっぱり骨がなあ、ちょっとなあ』

 なるほどだからみんな食べないんだなあと二頭で納得していると、近くをまたヒトが通りました。今度はとても太っています。

『あいつならイケそうだ』

 もう片方のカエルのお化けが舌を伸ばして、太ったヒトをぺろりと食べてしまいました。

『む、やわらかくてこれならイケる』

『じゃあ太ったやつを見つけたら食ってしまおう』

『そうしよう』

 二頭はそう決めました。ご飯のメニューの選択肢が一つ、増えました。

 二頭が亡くなったのはそのすぐあとでした。


『なんで死んだんだ?』

『お医者さん、こいつらどうしたんだ?』

『ふむふむ』

 村の外れで外傷もなく死んでいる二頭が発見され、村のカエルのお化けたちは野次馬をし始めました。医者のカエルが腹を割くと、未消化の肉がたくさん出てきました。

『あー……』

『なんだこいつら、変なもんでも食べたんですかね、先生』

『ヒトを食いましたなこいつら』

『ヒト』

 カエルたちはざわざわします。あんな弱っちそうなやつらを食べて死ぬのでしょうか。

『そういやなんで俺たちヒトを食べないんだろうな』

『なーんか食べる気にならないよなこいつら』

『こいつら毒とかあるんですかね?』

『ヒト自体は毒はないんですがねえ』

 ふぅ、とカエル医者は息を吐きます。

『ヒトはニンニクやらネギやらを平気で食べるんです』

『げぇー!』

 野次馬カエルたちは声を上げます。

『毒じゃないですか!!!』

『ヒトにとっては毒じゃないんでしょう。多分こいつら、ニンニクやらネギやら食ったあとのヒトですな。それにヒトは骨が多くて、それでほれ内臓も傷ついて……死ななくても腹が痛くなったでしょうな。食べたときに折った骨が内臓を突き破って死んだ例もあります』

 野次馬カエルたちは、カエル医者の博識さに感心します。

『ヒトを食べるときは絶食させて、ちゃあんと調理しないとこうなりますな。みなさんも気をつけてください』

『そこまでして食う価値はあるんです、先生?』

『いやあ……そこまで美味くは……。まあ数が多いので飢饉のときとかはいいかもしれませんな』

 カエル医者は、溶けかけた肉片をつまんで言いました。

『だからヒトは弱いのに数が多いのです。もしかしたら、ヒトが毒に強いのは、我らみたいな存在から身を守るためかもしれませんな……』

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