研究室
俺の大学の研究室では変なことが起きるらしい。
「ほんとだって、窓閉めてるのにブラインドがふわっと浮いて……お前らも見たよな!」
「見た見た」
同じゼミの連中が口々に研究室で起きた怪異について語ってる。
「夜中なのに廊下を誰か走ってる音がして、でも廊下に出てみると誰もいなくて……」
「誰も触ってないのに奥の本棚の本が落ちたりな。きっちり差し込んであったのに」
「お前らな」
俺はイライラを隠さない声色で舌打ちをする。
「俺は今日一人でここに泊まるんだよっ! なんで今言うんだよ今!!!」
「覚悟しておけと」
「知らんほうがいいやつだろうが!」
クソどもめ、と吐き捨てるとゼミ生たちに肩を叩かれた。本当に鬱陶しい。
人を玩具にするバカどもは帰宅して、研究室で一人機械やデータと格闘しながら期限間近のレポートの仕上げにかかる。一段落した頃にはいつの間にか夜中になってしまっていて、ようやく伸びをした。
静寂。
誰もいない研究室。棟全体は知らないが、少なくともこの階には自分しかないだろう。
「…………」
ブラインドは動く気配はない。本棚にも異常なし。走る音なんて聞こえてこない。
「アホらし」
夜食おにぎりとお茶を口にしながら、頭の中で朝までのスケジュールを整理した。
「なんも起きなかったぞバーカ」
「ええー、俺いっつもそんなことばっか起こるんだけど」
「嘘こくなよ宮島」
「嘘じゃないって」
先日一番脅してきたゼミ生の宮島に文句を言うが宮島は納得しないようだった。ふと近くにこの前煽ってこなかったゼミ生がいることに気づいたので、そいつに話をふることにした。
「なあ、赤山、お前一人でここに泊まることあるだろ。変なこととか起きたことある?」
「ないな」
赤山はパソコンから目を離さずに回答した。真面目なこいつらしい回答だ。
「お前がビビりなだけなんだよ他人巻き込むんじゃねぇよ宮島ぁ」
「ええー……? あ、俺時間だから行くわ」
宮島がバタバタと研究室を去っていく背中を見送る。まったくとため息をつくと、赤山が口を開いた。
「俺が一人で泊まったときは何も起こらない」
「だよなぁ」
「何か起こるときはいつも宮島が泊まっているときだ」
「…………は?」
赤山はパソコンから目を離さない。
「宮島が泊まっているときしか、起きない」
「なんで?」
「さあ……」
赤山は、キーを打つ手を止めずに語る。
「知らんが、俺はあいつといっしょにはここに泊まらんと決めている」
「………………………俺もそうしようかな」
そうか、と赤山の小さな声が耳に届く。明るくて静かな研究室に、ただ静かなキーを叩く音が響いた。
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