とあるバズった絵

 とあるバズったイラストを見た。


 SNSで話題のソレは日常風景の中に化け物が潜んでいるというものだった。

 太陽の隣で笑顔のおじさんの生首が輝いていたり、住宅街の塀から腕が何本も伸びていたり、商店街の片隅で小さなよくわからない生き物がお店を開いていたり、そういう変なイラスト。

 その一つに、見覚えがあるイラストがあった。記憶を探ると、たしか叔父が描いた絵であったはずだ。叔父は絵も好きだがオカルトも好きで、よくこういう変な絵を描いては奥さんや子供に呆れられていた。

 しかし叔父は数年前に亡くなっている。だが構図も色使いも記憶の中のもの同じに見える。奥さんであるおばさんはSNSが苦手であまりやらないからわざわざ叔父の絵をアップしているわけではないだろう。もしやパクリか? と暇潰しに叔父の家を訪れることにした。

「えー、パパのパクリ〜?」

 叔父の娘、イトコは話を聞いて半信半疑といった感じだった。

「一応パパの絵はとっといてるけど、見たいって人もいないから誰にも見せてないよ。あんな変なのパクる人いるかなあ」

 そう言いつつも、イトコは家に招いてくれて、叔父のものだった書斎に案内してくれた。

「ここにねぇ、しまってるけど、どれ?」

 この絵だと、スマホを突きつける。住宅街を鼻からうなじまでの女が浮遊している絵だった。

「変なのぉ。あ、この絵、となりの坂道の上から見た絵だね。やだ〜」

 確かにいとこの言うとおり、この家の隣の坂道の上から見たら、絵と同じ構図になる。

「あったあった。わぁ、ほんとにそっくりだぁ」

 イトコといっしょに叔父の絵を確認すると、たしかに記憶の通り、似たような色使いで似たような構図だ。でも全体的に似ているだけで、細部の違いは数多くある。

「ねえ、パパの絵さ、多分未完成だよ」

 イトコが眉を顰めている。

「こことか、こことか、線だけだもん。そんな絵、誰かに見せたりするかな。

 あとさ、こっちの、ネットのほうの絵さ、パパが死んだあとに建ったコンビニが描かれてる」

 つまり、ネットのほうの絵は、叔父が誰かに見せている可能性が低い未完成品と同じ構図かつ同じものが描かれていて、そして確実に叔父の死後に描かれた絵ということになる。


 ワォーーーーーーン


 遠吠えがした。

「あー! ごめんね止めてくる。たまにこうなるの!」

 イトコといっしょに外に出ると、イトコの犬が吠えていた。いやイトコの犬だけではなく隣の犬も吠えている。塀の上にいた野良猫も、毛を逆立てて期限が悪そうだ。

 そしてみんな、空を見上げている。なにもない空を。そして、その視線の先は移動している。

 まるで私たちには見えない何かが、空中を移動しているかのようだった。

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