死体観察家
本当に本当に趣味が悪いのは承知しているが、死体の観察を趣味としている。
同じ趣味の仲間とともに、自殺者がよく来ると噂の場所に行き、死体を眺めるのだ。たいてい山の中で、首吊り死体か、遭難者かのどちらかだ。あくまて眺めるのが趣味なので、彼あるいは彼女の死体や持ち物をどうこうしようというわけではない。
骨があった。死にたてがあった。木乃伊があった。水に落ちて膨れ上がっているものがあった。死体慣れしている自分や仲間でもえづいてしまったほど腐敗と虫で凄惨なことになっている死体があった。
なんで観察しているかとなると説明が難しい。ただ、眺めていると、目の前の死体に釘付けになり、あの頭が世間のしがらみから逃れてクリアになるのが好きだった。
ある日女の死体を見つけた。山の奥には不釣り合いのワンピースで、切り株の上に座り眠るように死んでいる。髪に乱れはなく、服にも、履いているハイヒールにも土は一欠片もついておらず、殺されてここに運ばれてきたのかと思ったが、見る限り外傷はどこにもない。
きれいな家の中のきれいな椅子の上で座っているときに突然死して、そのまま山の中にワープしてきたような、そんな不可思議な死体。
下山の時間が迫り、自然と来月来るときにまたここに来ようという話になった。
そしてその約束の来月がやってきて、また女の死体の元へと赴いた。
女の遺体はまだそこにあった。腐りもせず、虫も集らずに、そのままで。精巧な人形かと考えたが、触れた感覚も体温も間違いなく人間の死体のものだったし、腐らない死体というありえない存在を前にしても、自分を含め仲間全員が「これは死体だ」と認識していた。
魅了されていたと思う。
ずっとずっと彼女を見ていた。彼女を囲んで食事をした。幸せだった。
それ以来、月に一度の観察会は必ずそこに行くことになった。彼女を囲んで雑談に興じたり、食事をしたりするときの多幸感は何度でも味わいたくなる。
毎月。毎月毎月毎月毎月毎月そこに行って、幸せになって。
「……あれ?」
ある月に、"彼女"は忽然と消えていた。
*****
『おや、お久しぶりだね』
『お久しぶり~』
とある妖精は、久しぶりに別の部族の顔見知りの妖精に出会った。
『最近どう?』
『全然だめよ!』
肩をすくめている。何にでも化けられる彼女にしては珍しく失敗したようだ。
『いつも通りに"理想の異性"に化けて、目を引いても、あいつらなーーーんにもしないんだもの! 失敗なんてプライドが許さなかったから粘ったけど無理無理! 時間の無駄! ああ、精を吸い付くしてやろうと思ったのに!』
『大変ねえ、淫魔も』
『ああもう本当に、あの男どもときたら何を考えていたのかしら!』
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