片隅のお化け

 家に、昔からいるお化けがいる。


 私には霊感なんかないのに、そのお化けだけはなんとなくわかる。

 初めて会ったのは保育所に通っていたときのこと。廊下の奥から這い寄ってきたので必死になって逃げた。丸くて小さい手足が生えていて大きな口があるそれの話をお父さんやお母さんは真面目に受け取ってくれないので、見たことはないのだろう。

 あれがいつからいるのかはわからない。私は捨て子で、四歳のときに子供ができなかった今の両親に引き取られたからそれ以前にこの家で何かあったのかわからないのだ。

 七歳のときにも追いかけられた。

 十歳のときにも追いかけられた。

 十一歳のときにも追いかけられた。

 高校生になった今も、追いかけられはいないが暗闇からじっと見つめられている。気味は悪いが我慢した。

「えっ、赤ちゃん?」

 妊娠の確率が低い母が、妊娠したのだ。喜んだが、はっとする。赤ちゃんが、あのお化けに追いかけられたら……。

 意を決して、借りてきた竹刀を持ってお化けに向き合う。

『ん?』

「ちょ、ちょっと! ここから出ていきなさい!」

『いやだよ。屋根があるところに住みたいんだ』

「私のことを追いかけ回すようなやつといっしょとかいやよ!」

『もうそんなことしないよ~~』

「なんで?」

『だって君は飲み込んでも飲み込んでも、すぐに目の前に現れて逃げていく。お腹のなかにはお肉があるのに、目の前にも君がいる。何回もそんなことがあるとなんだか気味が悪いや。怖くて食べたくない』

 そう言うと、お化けはゲェ、と何かを吐き出した。昔私がよく身に付けていたおもちゃのアクセサリーや、髪止めや、洋服が、口から吐き出されていく。

 中には、宝物として大切に自室に保管してあるはずのものや、昔旅行先の排水溝に落として失くしたものもある。

『ほらね。ちゃんと飲み込んだのに……。

 君、なんなの?』

「…………………………………………………」


 私は、ただの高校生。

 ただ捨て子であり、その由来は不明である。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る