猫を飼う家

 猫だ。家では猫を飼っている。


 聞けばおじいちゃんもおばあちゃんも猫を飼っていて、ひいおじいちゃんもひいおばあちゃんも飼っていたそうだ。古い資料を紐解けば、江戸時代のご先祖様も猫を飼っていたようだ。

 猫とともにある家、それが家だ。

 物心ついたときから住んでいたマンションは当然ペット可の物件で、猫専用の部屋があった。一軒家の借家に引っ越したときも、当然猫専用の部屋を作った。

 白黒のぶち猫で、少し愛想が悪いがおもちゃを差し出すとたくさん遊ぶ子だ。カリカリよりもスープ系のごはんを好む子だ。昼頃にはよく定位置で昼寝をしている子だ。

 何歳なのかはわからない。私が生まれたときには既にいたからだ。

 お父さんが生まれたときにも既にいた。おじいちゃんが生まれたときにも既にいた。家に残っている古い資料には、同じような白黒のぶち猫が寛いでいる絵が描かれている。

 この家に猫の墓はない。だって猫が死んだことなんて一度もないからだ。このぶち猫は、ずっとこの家にいる。

 私が生まれるときより前に、お父さんが生まれるときより前に、おじいちゃんが生まれるときより前に、ご先祖様が生まれるときより前にいるこの猫は。

 この猫は……なんなのだろうか。疑問に思うこともあるが、すぐにその疑問はかき消えて、「かわいいからいいか」という考えにかき変わる。

 みんな猫のために生きている。趣味の将棋が大好きなおじいちゃんも、犬派のおばあちゃんも、仕事が命のお父さんも、しょっちゅうご近所さんと立ち話しているお母さんも、ギャンブルが大好きなお兄ちゃんも、みんな猫のために生きている。

 猫のためのお金ならみんな出す。だらだらと生きていて借金さえしているお兄ちゃんだって、猫のためのお金が必要になったときは仕事をして稼いでくる。

 ああ、本当にこの猫はなんなのだろうか。そもそも本当に猫なのだろうか………………もしかしたら……………………………………………


 …………………でも、かわいいから、いいか。

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