漫画を読む幽霊

 夜遅く、一人暮らしのアパートに帰ると、リビングの空中に、漫画が浮いていた。


「えっ」

 驚いて声をあげると、ぱさ、と漫画の単行本が床に落ちる。……疲れすぎて幻覚でも見たのか? と思いながら、床に落ちているチェンソーマンの1巻を棚に戻した。

 翌日、また帰ると今度はチェンソーマンの2巻が宙に浮いていて、俺が絶句しながら見つめているとまたぱさ、と床に落ちる。

 次の日は3巻。更に次の日は4巻。

 このあたりになるとなんかもう慣れてきて、多分漫画好きな幽霊がいるだなと思っていた。

 そしてしばらく経って、9巻がパサリと床に落ちる日が来た。そのあとは急にペンたてに差していたペンが浮かび上がり、近くにあったメモ帳にペン先が滑っていく。

『こんなひどいことある?』

 感想を書くな。あと早く10巻を読め。


 そして、チェンソーマンを読み終わった幽霊は、鬼滅や呪術廻戦やらワンピースやらどんどん他の漫画に手をつけていく。誰だか知らんが死んだあとでも楽しそうだなあとスルーしていたが、ある日またペンが動き、メモ帳の上に文字が記されていた。

『続きは?』

 今日落ちていたのはHUNTER×HUNTERの最新刊である。

「……ねえよ。出てねえよ。新刊なんて俺が読みたいわボケ」

 舌打ちすると、メモ帳の上にまたペン先が滑った。今度は文字ではなく、いわゆる『ぴえん』の絵文字が描かれた。

 ……本当に死んだあとも楽しそうな幽霊である。明日はなんの漫画を読むんだろう。押し入れからおすすめの漫画を出しておこうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る