芸名
「芸名をつける前にググっといてくださいよ」
芸人として芸能界に入ったときにそのとき、事務所からそう言われた。
「公序良俗に反しないなら個人の自由ですけどね、グループ名やコンビ名なら一般名詞や地名、ご自分の芸名ならその辺の一般人とだだかぶりするようなものですとね、検索しても出てきませんからね。
このご時世にそれはちょっと不利かなと思うところはあるので、その辺考えた上で芸名をつけてください」
「で、朝からググってんのか」
「おう」
芸名候補をいくつかGoogleに投げ掛けるが、偶然なのか何かしらそれらと同じ名前の有名人がヒットする。借りたものを返しにきた、会社勤めの友人が半眼でそれを眺めた。
「もっと奇抜な名前にしろよ。骸骨丸がしゃどくろとか」
「例えにしてももうちょっとまともな名前思い浮かばなかったのかお前……」
とはいえ、検索すると既に使われている名前ばかりだし、がしゃどくろは嫌だがもっと奇をてらったほうがいいだろうかと思ったとき、候補の名前の一つの検索結果が少なかった。
「お、いいじゃんこれ。よくわからん会社の新入社員としかかぶってないぞ」
中小企業と思わしき会社のホームページに掲載されている、新入社員へのインタビューページに掲載されている名前。ただそれだけが検索結果として表示されている。
いっしょに掲載されているのは、少し人相が悪い男がインタビューに答えている様子の写真。
なんだろう。こいつ、どこかで見たことあるような……? もしや他社の新人芸人とか? 稼げない仕事ゆえに、社会人やりつつ芸人やっているやつなんてたくさんいる。
「……やっぱもっと変わった名前にしとくわ。ピン芸人だし、もっと記憶に残るようなやつに」
「がんばれよ、骸骨丸がしゃどくろ」
「しねえよバカ」
数年後、ピン芸人としてそこそこ売れ出したころ。
「名前さあ、あったじゃん。デビューしたときに、候補を検索してダブらないようにってチェックしたの」
「あったなあ」
「最後さあ、一般人くらいしか被ってなかったけど、心変わりして最初から考え直したよな」
「したなあ」
「……あいつだよな?」
「……こいつだな」
ニュースでは、ツンとした雰囲気のキャスターが原稿を読み上げている。
『指名手配されていた*****容疑者は偽名を使い民間企業で勤務し………』
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