お花

 お花。お花を咲かせたいの。


 土地が痩せていて、草木もないこの死んでいる土地に、旅行先で見たようなキレイな花畑を作りたいの。

 花畑がある土地に引っ越したらどうかって? だめよ。なんだかんだでここは故郷なんだもの。知らない土地で暮らすより、どうせなら、自分の生まれ故郷をキレイにしたいじゃない。

 お花の妖精に聞いてみよう。

『じゃあこのお花の種をあげる』

 もらった種を土に埋める。毎日お水をあげたけど芽は出ずに、ある日掘ってみたら腐っていた。

 じゃあ別の妖精に聞いてみよう。

『じゃあこの苗木をあげる』

 もらった苗木を土に埋める。毎日お水をあげたけど、徐々に弱っていきカラカラに枯れてしまった。

 じゃあ別の妖精に聞いてみよう。

『無理じゃない?』

 どうして?

『だってあなたは死神でしょう? 命があるものなんて扱えないんじゃない?』

 ……そう。私は死神だ。この世の命をあの世に持っていくための存在だ。

『あなたはこの世で迷っている幽霊が悪いものになる前にあの世に連れていく立派な存在よ。それゆえに、命と縁遠い。残念だけど、諦めなさい。ああ、泣かないで。お休みの日に私の村にお花畑を見に来るといいわ』

 お花の妖精には迷惑をかけてしまった。恥ずかしい。

 私は翌日、はぁ、とため息をつきながら死した幽霊たちをあの世に連れていくために整列させる。そうしているうちに、幼い女の子の幽霊がトコトコとこちらに寄ってきた。

『どうしたの?』

『……ここをお花でいっぱいにしたかったけど、無理だったの』

『どうして?』

『私は死神だから、命を育てることはできないの。みんな腐ったり枯れちゃったりするの』

 ふぅん、と一言のあとに、女の子は背負っていたリュックから紙をとりだして、折り出した。

『あげる』

 それは折り紙で作ったチューリップ。

『おりがみなら、かれないよ』

『あ、ありがとう……』

『じゃあねー』

 そう笑って、女の子は幽霊の列の中に戻っていった。


『やあ、調子はどう?』

『なかなか難しいわ。でも、前より上手くなってると思わない?』

『ええ! とっても素敵だわ!』

 キャンパスに筆を滑らす。描くのは、すぐ目の前にあるお花の妖精の村にある花畑。

『気が早いけど、これが終わったら次は何にしようかな』

『もうすぐ夏だし、ひまわり畑にしましょうよ! 西のほうに、とっても素敵な場所があるの』

 絵は枯れない。彫刻は腐らない。もちろん折り紙だって、死にはしない。

『ああ、時間がもっとほしい! もっともっと描いて作って……』

 いつか故郷を、花でいっぱいにしてやるのだ。

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