戦争のときの幽霊

 某所に、戦争のときの幽霊が出るらしい。


 そこに行くと、空襲のときに死んだ浮かばれぬ霊が現れるのだという。

「またうさんくさいことを」

「本当だって」

 友達に連れてこられて随分とさびれた場所に連れてこられた。平地だが、田んぼは荒れていて人の手が入っている様子もなく、ぽつんぽつんとある人家も斜めに傾いている。

「この日この時間帯に空襲があったらしくて、その時間になるとな」

「ふぅん、出てくるのはなんだよ避難した住人か? 兵隊か?」

「すぐわかるさ」

 低い音がした。それは何かがやってくる音。しかしそれは決して靴でも銃の音でもなく、もっともっと途切れない何かだった。

 そして、爆発音。

「え?」

「上を見ろよ」

 言われるままに上を見ると、それは空を遮るように先端をこちらに向けて落下する飛行機。窓の向こうには古めかしい軍服を着た金髪の男が驚愕の顔でこちらを見ていた。

「うわあ!?」

 思わず避けようとして跳び跳ねるが、それは嘘のようにスッと消え、周囲には静寂が返ってくる。

「ほらな」

 友人は得意気な顔だ。

「この日この時間になるとなんらかのトラブルで飛行機が墜落した敵兵が……」

「そういうことは先に言え!!!」

 言わない方が面白いだろ? と友人は悪びれもなく笑う。

 風に乗るようにスイと羽虫が過ぎ去っていく。数十年前の幻の気配は、もうどこにも残っていなかった。

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