二次試験のあと
二次試験が終わった。
これで受験が全て終わったわけではない。なんならもう少しあとには滑り止めの私立の受験がある。とはいえ、本命の国立の二次が終わった時点で、気持ち的には受験という行事のほぼ全てが終了したようなものだった。
「はあ…………」
アレは大丈夫だったかとか、これは大丈夫だったかとか、いろいろ考えるが全てはもう終わったあとのことだ。あとは合格発表を待つのみである。
「よ~~お、三島ぁ~~」
不動くんがいつもの軽薄な笑顔で寄ってくる。学部は違ったが彼だって同じ大学を受けるのだから、同じように今日が二次試験だったのだ。
「調子どう?」
「いいかんじ~~」
Vサインだ。よほど調子が良かったのだろう。
……なので胸に向かって頭突きをした。
「うり坊かな?」
「いのししじゃないもん……」
「なに~? いまいち?」
「良いのか悪いのかもわかんない…………」
「がんばったがんばった。まあ誰だってそんなもんだって~」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
「俺もあと二、三日したら突如不安にかられて奇行に走ると思うからその時は慰めて」
ふっ、と不動くんの目が遠くなる。多分過去にやらかしたことがあるのだろう。そういえば、不動くんは国立一本滑り止めなしだったか。
「なあ」
さあ、と風が吹く。それは身を切るような寒風ではなく、春の訪れを感じさせるような暖かな風だった。今日の気温は高く、手袋なんかつけていない。褐色のごつごつした手が、私の小さな手を掴む。
「合格したら、いっしょにどっか楽しいとこ行こうな」
ニッと笑っている。
「……もっかい言って」
「え~」
ニマニマと笑いながら、耳元に口を寄せてきて、囁かれた。
「合格したらデートして♡」
「もう。すぐそういうこと言うんだから」
「ふへへ」
ヘラヘラと笑う男をそばにおきながら会場の門をくぐる。爽やかな風のなか、学生の顔は喜怒哀楽に溢れており、青春の一ページといって申し分ない。
私以外には。
『ああ~~~~~~~~~~いっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱい』
『ヒャン! ヒャン! ヒャン!』
『人~~~~~~~~!!!!!! 人~~~~~~!!!!!!!』
周囲にある木々の上にいるおしゃべりでうるさくて理性が低めのお化けがなにもかもをぶち壊している。おかげでさっきは不動くんが最初なにを言っているのか聞き取れなかった。試験の最中はいなかったから静かで本当に良かった。
霊感のせいで不便だったことは数多くあるが、特に情緒的な場面では邪魔としか言いようがない……。
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