受験日の電車
国立大学の受験があるからか、電車の混み具合は酷かった。全員乗れずに、いくらか次の電車に乗らなければならない人がでてきたほどだ。
(……ぎゅうぎゅう……)
私も受験生の一人として、電車で試験会場に向かう。混雑に耐えながら、ようやく電車に乗れた。時間はまだ余裕があるからこのまま何事もなければ問題なく会場につけるだろう。
(……痴漢とか、でないといいなあ)
センター試験といった重要な日に、学生を狙って痴漢を働く不貞の輩がいるという。人生がかかっている日なだけに、痴漢ごときに構っていられない……つまり、泣き寝入りするしかないのだ。そこを突いて、この日を狙う。なんと非道な輩だろうか。
軽い音がスマホから響く。なにかと思ったら不動くんからメッセージが来た。
『頑張ろうな~』
お互いにね、とメッセージを返信しているうちに、電車が駅に到着した。人波にさらわれるように電車から出て、ホームに立つ。
「痛ぇ!」
がらがら声がホームに響いた。なにかと思ってそちらを見ると、血が流れる手を押さえた男が駅員に食って掛かっていた。
なんだろう、どこかで見たことがあるような。
「誰かわかんねえけど、俺をこれで刺してきたやつがいたんだよ!!!」
手に持っていたのはまち針だ。あれで手の甲を刺されたようだ。
「多分あいつらの誰かだ! 捕まえてくれ!」
「ちょっと落ち着いてください」
あいつら……多数の受験生を指しながら男は叫んでいる。関わりたくないと、私も含めて受験生はみんな足早になった。
「よっ、三島おはよー」
「おはよう」
エレベーターを上って少し歩くと、不動くんがあいさつしてきた。まだ駅の中だというのに、コートだけではなく手袋をつけている完全防寒の姿だ。
「下、騒がしかったなー」
「そうだね」
「あいつ、前にも駅員に絡んでたことあるぜ」
「ああ……そういえば」
そうだ。駅で騒いでいたのを見たことあるのだ。たしか、そのときは、痴漢の疑いをかけられてどうこう……。
「………………」
「んん~………………んふふ。まあなんかわかんねえけど、今日みたいな日は泣き寝入りするしかねえよなあ」
ふふ、と不動くんはいつものように薄い笑みを浮かべた。
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