ドキドキさんの『才能をくれるマシン』!!!!だよ!!!!!!!

 ハァ~~~~イ!!!!!!! お久しぶりかな!? 初めましてかな!? ドキドキさんだよ!!!!!


 今回紹介する胸キュンなアイテムはぁ~~こぉちら!!!!

 『才能をくれるマシン』だよ!!!!! そう!!! このマッシーンは君が持っていない才能をくれるのさ! 絵の才能も! 勉強の才能も! 運動の才能も! 経営の才能も! なんでもだよ!!!!!

 でもぉ、そんなすっごいものくれるからさあ、注意点、あるんだよねぇ……。そう、このマッスィーンは、対価として"寿命"をちゅっちゅと吸っちゃうの!!! 怖いね!!!!!! 才能にもよるけど最低三年ぐらいは渡すことになるね~~~~~~。

 え? 「才能を得るために三年寿命を引き渡すも、実は残り寿命が一年で即死するオチが見える」だって? ノンノンノン!!!!! ドキドキさんはみんなに願いを叶えてもらいたいんだ! そうなる前に死んじゃうようなものは売ってないよ!!! 

 そう! なんとセーフティつき! 対価の寿命と残り寿命の差が三年以下の人にはこのマッスィーンは動きません!!!!! ただの箱!!!!!! ドキドキさんの細やかな気遣いを誉めて! 誉めて!!!


 フフフン。それで、君はこのマシンが欲しいかな?


*****


 夜中に奇妙なテレビショッピングを見た気がする。酒を飲んでいたので酔っぱらいが見た夢かと思っていたが、翌日朝にはそのテレビショッピングで見た『才能をくれるマシン』がなぜか自室のテーブルの上に乗っかっていた。

 なにかの悪戯としか思えないが、自然と俺は説明書を読み、その機械のような箱に向かって願いを呟いた。

「漫画を描く才能が欲しい」

 アシスタントになって何年だろうか。アシとしての技術は上がっていっても、肝心の漫画家としての経歴は花開かない。どこまでいっても没で没で没。一方アシスタントとしての仕事先はベテランの先生なだけあって安定していて、長い付き合いゆえにチーフとして信頼も得ていて、いっそアシスタントだけでも暮らしていけるくらいだ。

 それでも、なりたかったのは"漫画家"なのだ。だから、こんなくだらない夢想にも触れてしまう。

 機械のような箱は、なに一つ動くことはなかった。説明書だと、正式に稼働すると光輝くらしいが。

 ああ、そうだ。誰かの凝った悪戯に決まっている。こんなもの……動くわけがない。

 さて、そろそろ仕事先の時間だ。準備をしよう。

『……でここに逃げる人たちを。スーツ姿の若い人たちを、五人か六人くらい』

「はい」

 昨今の様々な事情により、今はオンラインで通話しながらの仕事になっている。先生もアシスタントも、みんな自宅での仕事だ。

『そういえばさ、みんな健康診断とかやってる?』

「? いえ……」

『世の中が落ち着いたら、お金出すからみんなで行ってきなよ。この業界、不摂生で倒れるやつ多いからさ』

「どうしたんですか急に」

『それがさあ、今井先生のとこのチーフアシさん、脳梗塞だっけ? あれで急に倒れちゃったらしくて』

「ええ……」

『幸い病院が近かったからなんとかなったけど、一応俺のところもみんな診てもらおうと思ってね。お金は俺が出すから遠慮とかしないで受けて』

 先生のはからいに、みんな喜ぶ。そこからたしかに腰がー、肩がー、というよくある話になった。

 自分は静かに、仕事をする。


 ━━━━そう! なんとセーフティつき! 対価の寿命と残り寿命の差が三年以下の人にはこのマッスィーンは動きません!!!!! ただの箱!!!!!! ドキドキさんの細やかな気遣いを誉めて! 誉めて!!!


 昨夜見たかもしれない、真夜中のテレビショッピングでの戯れ事は……忘れることにした。夢だ、そう、夢に決まっている……。

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