猫の真似

 昔のことだ。訳あって、猫の鳴き真似の練習をしていた。


「なあーん」

「おお、似てる似てる」

「目つむったら真似だってわかんないかもな」

 教室で披露したら友達からの評判は良かった。よしよし。

「不動、お前なんでもできるんだな。器用なやつ」

「いやー、練習してるんだよ」

「なんで」

 理由を話すとなるほど、とみんなは納得してくれた。

「猫飼ってる奴、録音とかあったらくれよ。バリエーション増やしたいけどうち犬しかいねえからさ」

「いいぜ」

「帰ったら録って送ってやるよ」

「よろしく~」


 さて、それから更に一ヶ月くらい経った頃。俺はとある場所で身を潜めていた。

(多分、ここだな)

 根拠がない確信を持って身を隠すのにちょうど良い草木に身を埋めていると、わずかに足音があった。

「…………なぁーん」

 ここしばらく猛練習した鳴き真似は、自分で言うのもなんだが実に真に迫ったものだった。本物の猫と寸分違いないそれが耳に届いたのか、足音は近づいてくる。足音が近づいて近づいて近づいて、本当にすぐ近くまで来て。

 草むらから、飛び出した。

「よお~、気が合うなぁ~」

「んなっ……!」

 すぐに関節を極めて、相手を地に伏す。わりと若い男で暴れられたが、体格と技量でこちらが優勢なのは変わらなかった。男の腕から、ポロリと持っていたナイフが落ちる。

「野良猫いじめてたの、お前か」

「…………!」

 質問ではなく、断定。最近野良猫がむやみに傷つけられていた事件が頻発していたのだ。一介の動物好きとしては黙っていられないし、多分こういう犯人なら一発や二発や三発殴っても怒られないだろう。

「いくら行動範囲が広い野良でも怪我したらあんま動けなくなるし、そうしたら被害に遭ったっぽい猫が見つかった場所追ってけばお前のだいたいの生活圏ぐらいわかるんだよ。

 んで、犯人の心理としては前とは少し場所変えてやるだろ? そしたらわかるわかるわかるよぉ~、お前の生活圏で、"こういうこと"するのにぴったりな場所と時間帯~。気違い同士気が合うなぁ~。いやあ三回ぐらいスカしたけど四回目で見つかって良かった良かった」 

「は、離せ!」

「やぁだね」

 べぇ、と舌を出す。

「お前は猫をいじめんの好きみたいだけど、俺は生意気なやついじめんの好きなんだよ」

 ニコッと笑う。腕に力を込める。ああ、俺が捕まらない程度にどうしてやろうか。

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