カツアゲ
昭和のいつだったか、カツアゲをする不良が横行していた。
「おい、金出せよ金」
「ええ……ちょっと勘弁してください」
「いいわけねえだろ」
いかにも柄の悪い男が一人、気の弱そうな学生を路地裏に連れ込んで行く。
「お金、これしか持ってなくて……」
「他にもあるだろ」
「ありませんよ」
「ジャンプしろジャンプ」
仮に小銭を隠し持っていたら、跳べば小銭が擦りあって金属音が鳴る。不良はそれを狙った。
「しょうがないですね……」
渋々と、学生はぴょんと跳んだ。金属音どころか、服からぼろぼろとなにかが落ちる。
それは乾いた人の指のようなものだ。断面から色とりどりの芽が出て、花を咲かせている。
「……………」
「……………」
沈黙のあと、一言。
「あー……"同類"の方でしたか。これは失礼しました。おいしそうなおやつですね』
『おや、あなたもお仲間でしたか。いけませんよ。人を乗っ取るのなら目立つような真似は』
『乗っ取った先が元々こういうのでしてねえ。他の体に乗っ取りするか、更正したということで地味な者になるか迷ってしまして。これは体は頑丈でいいんですよ』
ピロピロピロ
ピロピロピロ
二人の目から、口から、鼻から、耳から、愉快な音とともにカラフルな芽が出てくる。この芽が本体だ。本体が弱いため、人や動物や他の怪異に寄生し、精神を乗っ取る怪異。
『せっかくのお仲間なのです。どうですか一杯』
『お、いいですねぇ』
下に散らばった"おやつ"を片付け芽をしまって、二人はにこやかな笑顔で路地を出る。
最初連れていかれていたところを目撃して警察に通報しようかどうか迷っていた通行人は、二人が実に和やかな雰囲気で出てきたので困惑したが、まあ仲良さそうだしいいか……と通報は取り止めた。
さまざまな事情で人の世界に潜む魔はいる。そんな魔の穏やかな日常の一時である。
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