雪が降る

 雪が降っていた。


(寒い……)

 ぶるりと震える。コートや帽子や手袋やマスクでがんじがらめになった体の隙間を縫って寒さが入り込んできた。

(最近降ってなかったのに……)

 仙台駅の周辺は東北の中でも随一の暮らしやすさを誇るが、それでもやっぱり降るときは降る。豪雪地帯の日本海側よりは遥かに過ごしやすいが、たまに駅付近でも積もるときがあるのだ。

「ぱぱー、ゆきー」

「そうだなー。寒いから早く帰ろうな」

 手を繋いでいた幼い我が子が、天を指す。

「ぱぱー、へんなゆきー」

「変な雪?」

「あそこ」

 娘が指さすさきに、雪……のようなものがチラチラと空に舞っていた。ファミリー向けの大きなマンション、その屋上から天に向かっていくつもの淡くて小さな光が昇っている。それはまさに雪が降る様を逆再生したような。

「……なんだあれ」

「へんなゆきー」

 きゃっきゃ、と娘は笑っている。疑問に思いながら、娘の手を引いて家に帰った。


 後日新聞のお悔やみ欄で、あの日あの時あのマンションで百歳を越える老人が大往生していたことを知った。

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