語義未詳

 語義未詳という単語がある。


 「そういう単語があるのは確かだがどういった意味の言葉かはわからない」という単語に使われるものだ。かつては使われていたけれど、意味が現代までは残らなかった言葉。

 その原因は様々ではあるだろう。

「お化けが食べちゃって、結果的に言葉の意味がなくなっちゃうこともあるよ」

 三島はそう言った。

「何? お化けって言葉も食べんの?」

「そういうお化けもいるよ。そのお化けに食べられちゃうと、みんなの記憶からも消えて、存在すらも誰からも忘れられちゃうの。最初からなかったことになっちゃうの。でも、ときどき食べ残して、文字だけは残ってたりするの」

「そいつ生き物も食うの?」

「食べないよ」

「そりゃ安心だ」

 まあ垣間見たお化けは実に様々だった。そういうなんだか哲学的なお化けもいるだろう。

「安心かな」

「三島や俺が食われる心配はないだろ?」

「まあそうだけど、記憶を食べられるってなんか嫌だな」

「あー、まあ脳みそいじられるようなものだしな」

「そうだよ」

 ふぅ、とため息をついて。

「不動くんだって昨日まであんなにはさいでたのにね」

 ……はさぐ?

「はしゃぐ?」

「はさぐ」

 ね、と体をつつかれた。

「記憶を食べられるって嫌でしょ?」

「……………」

 どんな言葉を返せばいいのかわからない。

 俺は昨日まで、何をしていた?

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