おキちキ(ん正!!!!

 空の上にいた神様は、毎日を楽しく過ごすためにおもちゃをたくさん作りました。たくさんたくさん作りました。

 失敗したものや出来が気に入らないもの、作るときに出来た破片がたくさん溜まったので、神様はひとまずそれらを全て、空いているおもちゃ箱へ全部しまいました。

 しかしあるとき、神様はうっかりおもちゃ箱をひっくり返してしまい、中に入れていた"それら"はバラバラとなって地上に降り注ぎました。あっという間に雲の下へと落ちていき、もはや神様でもどこにいってしまったかわかりません。

 神様は、召し使いに全て探しだして回収するように命じました。


 そして今に至ります。


*****


 そんな壊れたおもちゃの一つに、"校正"がいた。

 元は知育用の玩具を想定して作られたものの中の一パーツであり、楽しく文字を学ぶ中で、間違いを優しく教える役目を持っていた。

 しかし"それ"は作り方を誤ったのか、正しいことを修正して、間違ったことを教えたがる性質を持った。

 視覚も聴覚も嗅覚も触覚も味覚も"校正"にかかれば全て嘘にかきかえられ、誰もが嘘と気づけない。

 そんな壊れたおもちゃは今日本に在った。墨の流体であるそれは、今も本能のままに、正しきを修正して誤りを伝えている。

「あ、通販届いた」

 校正が潜んでいる家の家主が通販で購入したもの。購入したときに見た説明文も何もかもが既に校正によって修正済みであり、家主は自分が頼んだものの本当の詳細を誤って認識している。

 段ボールが開かれ、校正はこの中にある説明書にも"校正"を施した。

 正しくを修正して誤りを伝える。そこに殺意も悪意もなにもなく、ただあるのは"そういう生き物"としての本能のみ。


『だめだよ~~~?』


 ぐらり、と家主が倒れた。すやすやと寝息をたてている。

 その後ろにいるのは、黒スーツを着て、首から上が心臓のぬいぐるみの男。

『ドキドキさんの商品、いじっちゃだめだよお』

 "修正"する。本能のままに。

『おや、失礼しました。部屋を間違えてしまいました。帰りましょう』《神様のおもちゃだからってドキドキさんには関係ないもんね》

 まるで二人が話しているかのように、二つの言葉が聞こえる。家主はまだ寝ているままで、校正に口はない。しゃべれるのはこの心臓頭だけなのに。

 "修正"が正常に作動していない。脅威。この場にいるという行動を"修正"する。帰宅させるように。

『早く帰りましょう。晩御飯はシチューです』《勝手に人のお口をいじらないんでほしいんですけど!!!!!!!》

 心臓頭の背中から、同じ体型をした心臓頭が生えて、独立し、そちらだけがドアから出ていった。

『………………………………………』《ムキー! ドキドキさんもう怒っちゃったもんね!!!!!!!》

 "修正"する。頭部を、胴体を、腕を、足を、存在を"修正"して最初からいなかったことにする。

『なんてことでしょう死んでしまいました』《この程度で死ぬドキドキさんじゃないもんね!!!!!!!!!!》

 肉体は消失した。けれど空間から、声がする。

 修正を、もっと修正をしなければ。

 修正を、修正を、修正を、修正を。

 修正を。


*****


 神様の召し使いである彼らは回収している"おもちゃ"のパーツの一つがそこにあるという情報を得て、とあるアパートへと突撃した。

『……先を越されてるじゃないか』

 銀髪の白スーツの男は嘆息する。

 室内には寝てる家主と、空の段ボールと、そして壁いっぱいに墨で書かれている『バーカ!!!!!!!!!!!!!!!』の一言。

『おもちゃは……完全に壊されてますなぁ。ここまでやられると逆に回収は容易ですが。動きませんからな。ほっほっほ』

 白い亀がのんびりと口を開く。白い猫はただ顔をしかめている。

『例の心臓頭の臭いがします』

『そうか』

『神の使いである我々にバカなどと……』

 猫は不機嫌そうな顔を露にしている。

『落ち着け』

 白スーツの男が宥める。

『奴だって、"おもちゃ"の一つだ。いずれ捕まえたときに文句の一つでも言ってやれ』

 ……承知しました、と猫は不服そうな声で了承した。


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