毒毒猛毒

 あの人間には恨みがある。


 なにをされたのかと言えば、家を破壊された。いや、たいていの人間には自分たちのような存在は認識できないし、なんならその人間の家の庭に勝手に住みかを作っていて、何も知らない、認識できないし人間がたまたま踏み潰したという経緯なので、誰が悪いのかといえば自分だ。

 それはそれとしてやはり住みかを壊されて恨めしいので復讐はしようと思う。

『くっくっく……』

 毒を手にいれた。食べると熱が出て、嘔吐、下痢、血尿といった多彩な症状に見舞われる毒の植物である。場合によっては死ぬようだ。

 夕飯の支度をしている台所に忍び込んで、人間が目を離す瞬間を待つ。自分は人間には見えないが、この毒植物は人間世界の植物なため、人間にも普通に見える。なので目撃されたら「うわあ! 植物がひとりでに動いている!」となるのだ。そうしたら警戒されて作戦は失敗である。

「あ、コショウ切れてる」

 人間が屈んで戸棚のなかをあさりだした。チャンスだ。俺は手に持っていたそれを、人間が作っている最中である炒め物が入っているフライパンに投下した。あらかじめ刻んでおいたので、見た目に違和感はない。

「あったあった」

 人間は顔をあげて予備のコショウをふりかけて、調理を再開した。

 くっくっくっ、こうなってはもう食べるまで毒が盛られたことはわからないだろう。


*****


 夕飯ができた。玉ねぎと豚肉の簡単な炒め物だ。ほかほかご飯と味噌汁も作った。

 パソコンを立ち上げて、動画を見ながら食事をする。出張で両親ともに帰ってこないからこそできる無作法だ。

「……んー?」

 炒め物の味に違和感を覚えた。

「……ニンニクなんて、入れたっけ?」

 まあ美味しいからいいか、と食事を再開した。

 

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