やってしまった

「どうしよう」


 小学生のとき、友達のショウが泣きながら俺の家に駆け込んできた。

「日陰くん、どうしよ……」

「何があったんだよ」

「勇くんが……」

 要約すると、いっしょに遊んでいた友達の勇くんが高いところから落ちて動かなくなったらしい。それでどうしていいかわからなくてとりあえず近所の俺の家まできたらしい。

 先に救急車を呼べ。

「とりあえず連れてけ。そこまで」

 現場まで行ったが、勇くんとやらはどこにもいなかった。二人で探したが、本当にどこにもいない。

「……気絶してただけで、起きて家に帰ったんじゃねえの?」

 ふとそう思って、ショウに勇くんとやらの家に電話をさせた。

『勇? 家に帰ってきてるけど』

 勇くんのお母さんは電話越しにそう言っている。急いで家に行けば、たしかに勇くんは元気そうだった。

 話をよくよく聞けば、遊び場に行こうとして家を出て、気づいたら一人で地面に倒れていたらしい。なぜそんなことをしていたのかも、そもそもなぜ遊び場にいるのかも思い出せず、とりあえず家に帰ったという。

「頭打って記憶なくなってるんじゃねえの……?」

 髪をかきわけて頭をよくよく見れば、後頭部にでかいたんこぶがあった。勇くんのお母さんは慌てて救急車を呼び、勇くんは病院に連れていかれた。幸い大したことはなく、ショックで前後の記憶が消えているだけだという。

 高校生となった今では笑い話だ。

「このハゲ、焦らせやがってよー」

「ハゲっていうなバーカ」

 ショウと勇くんは今でも友達なようで、たまに話しているのを見る。ハゲというのは、頭を打った場所に小さい傷が出きて、そこから髪が生えてこないことだ。

 遠い昔の小さな出来事。二人の中ではそれで終わっていると思う。

 ……でも終わった出来事ではないかもしれないと俺は思う。

 あの事故のあと、なんとなく気になってまたあの現場へと行ってみたのだ。

 そして見つけた。ゴミで隠された、何かを引きずったような血の痕跡と、その先にはズタズタになった服。

 それはあの日勇くんが着ていたものとそっくりだった。

 そして更に奥に行くと、乾いた血と、白い破片がいくつもあった。その白いのは、昔参列した葬式で見た、骨壺の中にあったものとよく似ていた。

「…………………………」


 ざあざあ

 ざあざあ


 周囲の木々が、風で鳴る。夕方なこともあって、俺はさっさと現場をあとにした。

 後日、そこにまた行ってみると、もう血の痕すら残っていなかった。

 あの勇くんが本当にショウの友達の勇くんなのかは……三島に聞けばわかるだろうか。

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