家出
いつの頃からか、街に占い師が現れるようになった。アーケード街の片隅の、長年空いていた小さな貸店舗に店を出したのだ
口コミから人気が上がっていって今では行列ができるほどだ。とても美しい占い師のお姉さんが、とてもよく当たる占いをしてくれるという。
でも、誰も彼女の素性を知らない。どこに住んでいるのかも、何歳なのかも知らないし、占い師として名乗っている名は明らかに仕事用の名前なので、本当の名前は誰も知らない。
不思議な女性だが、そのあたりを突くといつも誤魔化されてしまう。
今日は彼との初デートのためのアドバイスをもらうために店の行列に並んだ。ああ、今日はどんな結果で、どんなに素敵なアドバイスを貰えるだろう。
*****
占い師の仕事を終えてアパートに帰る。SNSでエゴサーチをしていると、やはり私の評判は上々だ。
当然だろう。だって私は異世界から家出してきたエルフなのだから。
趣味でやっていた占いが、ここで生きていくのに活用することになるとは思わなかった。
ピリリ ピリリ
通信魔法の通知音だ。母からのメッセージだった。
【260歳にもなって家出なんてなんてことなの。
魔法がない世界なんて不便でしかたがないでしょう。意地を張ってないで早く帰ってきなさい】
まあ、いつも通りのメッセージだ。
『不便ねえ……』
エアコンは涼しい風を与えてくれる。魔法なんか使わなくたってここの生活は機械を使えば快適なのだ。ここでの生活では、あっちと違って全てを魔法で済ませてたりはしないから、年がら年中魔法を使って魔法の使いすぎでダウンしたりすることはない。
『ふんだ、いいじゃない自分で稼いでるんだから……』
冷蔵庫から取り出したビールの缶を開ける。最近はこのプシュッという音が快感になってきた。
『はあ……うま……』
レンジであたためたソーセージといっしょにビールをいただくときのなんと幸せなことか。
勢いで出てきたのだが……しばらく帰ることはなさそうな気がする。
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