雨の行き先
雨が降っている。私はそれを窓越しにじっと眺めていた。
ざあざあざあざあ
ざあざあざあざあ
強い雨の音は周囲にいる生徒の声をかき消してしまう。雑多な音が集う教室を、このときばかりは雨が支配する。だから、屋内にいるときの雨は嫌いじゃない。
「………………ん」
丸があった。
いつの間にか、雨で乱される窓の向こうの空中に円があった。その円の内側はこことは違う、どこかの活気ある町並みが映されていた。天気は晴れで、そこを歩く人たちは爽やかな青空の下、当然傘を持たずに歩いている。
「…………………………」
どどどどどどどど
どどどどどどどど
ただでさえ強かった雨は更に強くなり、それが生み出す音は轟音と表現しても差し支えないくらいだ。雑談に興じていたクラスメイトたちもあまりの音に不安そうな顔をして何かを話しているが、雨の音が強すぎて何をしゃべっているのか全く聞こえない。
しかしやがて雨は弱まっていき、異常な大雨から強めの雨になり、普通の雨となり、小雨へと変化して、そしてついに止んだ。あとはもう、木々を濡らす雨水が遅れて地面に落ちるだけである。
そしてそれに反比例して、窓の外の円に映し出された"どこか"は急な大雨に見舞われ、人々は走り、ある者は鞄から折り畳み傘を取り出し、またある者は鞄や袋で頭をガードしながらどこかへと退避していく。
その後円は収縮していき、小さな点となり、雲の切れ間から差した陽光を浴びるとふっと消えていった。
「やべー雨だったな」
不動くんが話しかけてきた。
「帰りも降られたら嫌だな。折り畳みは持ってるけど、それじゃ太刀打ちできねえよあんなん」
「そうだね。私も普通の傘は持ってきてないから、さっきみたいなのこられたら濡れちゃうかも。
でも大丈夫だよ」
「なんで?」
「どこかに行っちゃったから」
「?」
雲の切れ間はどんどんと拡大していって、日の光が濡れた地面を乾かしていく。
きっとあの雨が気分を変えてまた戻ってこない限り、今日はずっと晴れだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます