雨の日のおまじない

 雨の日のおまじない


 1.生花を用意する(造花では効果がない)

 2.雨の日に浅い水溜まりに生花を投げ入れる

 3.水溜まりから一歩下がって、お願い事を頭のなかに思い浮かべる(このとき水溜まりを覗き込んではいけない)

 4.生花が沈んで見えなくなったら、願い事が叶う


 *****


 雨の中不動くんと二人で歩いていると、近くの公園できゃあきゃあと女の子たちの声がした。中学生くらいの女の子が三人集まっていて、そのうち一人は生花を持っている。

「なんだありゃ」

「多分おまじない」

「?」

 そして生花を水溜まりに投げ入れて、一歩下がって様子を伺い、そして突然、ぽちゃん、と生花は水溜まりの中に沈んでいった。

「やったあ!」

 そう喜びながら、少女たちは去っていく。不動くんは不思議そうな顔で、さっき女の子たちが生花を投げ入れた水溜まりを足の先でかき回す。

「え、花消えてんだけど、なんで」

「雨の日のおまじない」

「なにそれ」

「雨の日に、水溜まりに生花を投げ入れて呪文を唱えるとお願い事が叶うっておまじない」

「へー。さっきの花、どこにいったの」

「雨の日のお化けのところ。

 普段はどうしてるかわからないけど、雨の日にできた浅い水溜まりは、雨の日のお化けの棲みかに繋がってるの。そして雨の日のお化けはその生花を食べるの」

「ははぁん、それでそのお化けは礼に願い事を叶えて」

「くれないよ」

 不動くんが怪訝な顔をする。そう、これは決してお願い事を叶える行為ではない。雨の日のお化けにそんな気持ちはない。

「雨の日のお化けは瑞々しい"いのち"を食べるの。人間でも動物でも植物でも妖精さんでもなんでも食べるの。お腹が空くとこっちの世界に手を伸ばしてきて、大きい"いのち"をさらって食べようとするから、雨の日のお化けがお腹を減らさないように"いのち"を捧げるの。昔は家畜を与えてたみたい。

 今は時代に合わせて、誰かが願い事が叶うおまじないって形で雨の日のお化けに生花を捧げる儀式として現代まで残したんだね」

「願い事が叶わねえじゃん。よく廃れないな」

「おまじないなんてそんなものだよ。それに実際、生花がなくなるなんて不思議なことが起きるからね。

 だからね、雨の日に水溜まりの上でじっとしてたりしないほうがいいよ」

 ざあざあと雨が降る。雨粒で水面がかき乱されて、何が映っているのかよくわからない。

「雨の日のお化けが気づいて、さらっていっちゃうかもしれないから」

 生花よりも大きく、瑞々しい"いのち"は、きっとお化けにとっては魅力的だろうから。

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