我が部族の悲願

 緑のネックレスの妖精さんに話しかけられた。


『よおヒトのお嬢さん! ここらにはしばらく近寄らない方がいい! 危ないぞ!』

「どうして?」

『戦争だ! わが部族と長い間敵対していた部族ととうとう武力で決着をつけることにした! 長い間のにらみ合いの末にな……』

「何か恨みでもあるの?」

『あるさ! あいつらは千年前に我が部族の子供を殺したという! 犯人を引き渡せと言っても否定するから、それ以来険悪となって今に至る! 小競り合いは今までもあったが、とうとう爆発したのさ!』

「そう……辛いことだね」

『なあに、大変だろうが勝てばいいのさ勝てば!』


*****


 赤のネックレスの妖精さんに話しかけられた。


『よおヒトのお嬢さん! ここらにはしばらく近寄らない方がいい! 危ないぞ!』

「どうして?」

『戦争だ! わが部族と長い間敵対していた部族ととうとう武力で決着をつけることにした! 長い間のにらみ合いの末にな……』

「何か恨みでもあるの?」

『あるさ! あいつらは千年前に我が部族の子供を殺した……と告発してきたが、どう見ても事故死のそれだった! あっちは犯人を引き渡せと言って聞かないし、哀れにも冤罪をかけられた同士を守るために話し合うも決裂、それ以来険悪となって今に至る! 小競り合いは今までもあったが、とうとう爆発したのさ!』

「そう……辛いことだね」

『なあに、大変だろうが勝てばいいのさ勝てば!』


*****


 翌日は、大雨の日だった。

 翌々日は、晴れの日だった。

 外に出ると前日の雨風であちこちに葉っぱや木の枝、そしてどこからか飛んできたおもちゃや園芸用品が転がっている。

 そして、道の隅っこには大量の緑のネックレスと赤のネックレスの妖精さんの死体。雨で食いっぱぐれたお化けがお腹を空かせながら妖精さんの死体を担いでねぐらに持っていっている。

 千年前。何世代前なんだろう。ただわかるのは、とっくの昔に亡くなってる仲間のために、顔もよく知らない仲間のために、多くの妖精さんが亡くなったということだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る