卒業アルバム
最近付き合い始めた彼女の部屋に行った。
「お茶いれてくるから待っててね」
「おう」
「本棚のとこの本とかテキトーに見て待ってて」
そう言って、彼女は部屋を出て階段を降りていった。
「ふーん……どうするかね」
当然だが、本棚に並んでるのは俺が普段読まないような女性向けの本ばかりだ。少女漫画とか、男の俺が読んでも面白いんだろうかと思いつつ選んでいると、本棚と壁の隙間に、何かがあることに気づいた。
「これ……卒業アルバムじゃん」
やや埃にまみれた、一枚一枚のページが厚いそれは間違いなく彼女の高校の卒業アルバムだ。彼女とは大学で出会ったから、俺は高校のときの彼女を知らない。
「どんなんだったんだろうな……」
ページを開く。中には体育祭、普段の授業、音楽祭などの写真が並んでいるが、
「………………」
彼女の顔は、全てマジックで塗りつぶされていた。
「……容姿にコンプレックスがあった系?」
今の彼女はそこそこかわいいほうだと思う。これは闇を見てしまったか、と閉じようとしたとき、手が滑って本を落とし、持ち上げたときに開かれたページに目が入った。
それは、寄せ書きのページ、ありがちな友達のメッセージや、あるいは真っ白というわけでもない。
『みんなが不幸になりますように。そのためのおまじないをここに書く』
という一文の横に、日本語のような形をしてるが、日本語として読めない謎の文字がびっしりと書かれていた。
「……………っ!」
足音がする。彼女が戻ってきた。慌ててアルバムを元に戻す。
「ごめんごめん。お茶請け探すのに時間かかってさ」
「いやいや」
「そういやさ、せっかく家に来たんだから見てみたいものあったんだけど」
「ん?」
「卒業アルバムとかないの? 制服姿どんなのだろうな」
好奇心。好奇心だ。彼女はどんな反応を示すか?
「ないよ。小中のは捨てちゃったし、高校のはどっかいったんだよね」
「ふうん」
「それに……あんまり縁起いいものじゃないだろうし」
「縁起?」
「卒業式のあとクラスのみんなで卒業旅行したの。私は風邪引いたから欠席だけどね。
そこで、みんな事故で死んじゃった」
お茶をすすりながらそう言う彼女の表情を伺い知ることは、出来なかった。
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