外れクジ

 生まれたときに外れくじを引いた人はいるのだ。


 私の霊感だってそうだ。あんなもの外れとしか言いようがない。

「私たちは外れクジを引いたんです。けどそれは運が悪かっただけで、他にもいろんな外れクジを引いた人はいます。

 外れクジはいろんな形をしていて、霊感以外にも、病気や障害を持って生まれた人、貧乏な家に生まれた人……それは一定の確率で起こることです」

 淡々と、目の前の人に語る。

「だから、霊感を特別な才能と思うことはやめたほうがいいです。"霊感少女"として芸能界デビューは、しないほうがいいと思います」

「…………………………………………」

 目の前の人は、複雑な感情で私を見る。ネットでたまたま知り合った子で、たまたま会える距離に住んでいた子。私と同じように霊感があるようで、愚痴や悩みを聞いていたけど、どんな流れなのか霊感がある美少女として芸能界デビューの話が出たらしい。たしかにかわいい子だ。

 どうやら私ほど人生を諦めていなかったようだ。私なんか、霊感に関してはとっくに諦めていて、どうやって将来的になるべく外に出ずに生きられるか考えているくらいなのに。

「霊感は……才能ですよ。ちゃんと生かして、たくさんの人を救うべきです。芸能界なら、自然とたくさんの困っている人の目にとまる。個人で霊能者をやるよりずっとたくさんの人を助けられます」

「霊能者なんて、どんなに善行をしてもインチキってネットで叩かれますよ」

「そんな人のことは気にしなくていいんです。ただ救うべき人を……助けられれば……それで……」

 言っていることは立派だが、まだ覚悟もちゃんと固まってないような口ぶりだ。まるで誰かに言われた言葉で納得したくて、自分に言い聞かせているようだ。

 自分はの霊感は特別な能力で、多くの人を助けられる才能なんだと。決して、外れクジなのではないのだと。

「それは間違いなく、茨の道ですよ」

「………………………っ」

「選択は自由です。でもおすすめはしないです」

「………………私は、やります。それでも、せっかく持って生まれたなら、外れクジじゃなくて、特技とか才能に昇華したいです」

「そうですか」

 警告はした。袂は分かたれた。ならばしょうがない。これ以上の説得は無意味であり、ただ結果を眺めるだけだ。


*****


 不動くんの部屋でだらだらとしていた。

 さっきまでゲームをしていたが、休憩時間だ。ネットニュースをなんとなく眺めてると、やっぱりあの子の記事がある。

 話題の美少女霊能者へインタビューという記事のコメント欄はやはり詐欺だのそういうキャラづけだので荒れている。

 彼女のSNSの返信欄も励ましのツイートの中に、ネットで気軽に罵倒するタイプの人たち湧いている。それに困惑したような彼女のツイートもある。

 ただ、それでもがんばって霊能者を続けている。

「な~に見てんの」

「あ」

 不動くんが私のスマホの画面を傾けた。

 相変わらず濃い肌色とジャラジャラとしたブレスレットでわかりにくいが、また手首に傷跡が増えている。また己の中の破壊衝動が高まって、それを無理矢理解消するために自傷したのだろう。

「あーうん、昨日なー」

「ふーん。がんばったねえらいえらい」

 頭を撫でてあげると嬉しそうだ。

 不動くんも間違いなく外れクジを引いた人だ。ただ私とは、外れクジの形が違うだけ。

「私たちはどっちも外れだね」

「はずれ?」

「どうしようもない嫌なものを持ってて、それを手放すことはできないし、持っているだけで人生が苦しくなるの。外れクジを引いたんだよ」

「ふーん。まあ、外れクジ……外れクジなんだろうなあ」

 特に否定は来なかった。

「でもさ、なら三島が俺が引いた外れクジひかなくて良かったぜ。女の子の体に傷が残るとかイヤだろうし」

 指先で手首の傷跡をなぞる。古い跡も、真新しい跡も重なっていて、もしブレスレットを外さなきゃいけないとき、化粧でごまかせるか微妙なラインだ。

「それにまあそっちは外れひいたけど、この美貌とか成績がいいとか、親が金持ちとかは間違いなく当たりだぜ!」

「前向きだねえ」

「前向きに考えないと自殺しちゃうもん」

「………………」

「俺は三島と結婚したいんだよ~親だって泣かせたくねえしさ~御山だって多分"僕がもっと話を聞いてやれば……"とか無駄に悩むぜ。そういうやつだもん」

 な?と指を絡ましてきた。私よりもずっと太いし長い指だ。

 恋愛。家族愛。友愛。愛されていて、かつ誰かを愛しているからこの人はまだ死んでいないのだ。その分、無理をしているから自傷に走る。

「誰だって最後は必ず死ぬからさあ、できれば思うように生きてから死ぬぜ俺は」

「思うように、ね……私にはそういうのないかな……」

 自分はなんで生きてるんだろう、という気持ちがわいてくる。強いて言うなら自殺は痛そうだからイヤとか、この年で自殺は親がなあ、とか、多分あの子とか不動くんよりはぼんやりした理由だ。

「人生の意味とか考えるとドツボにはまるぞ~?」

 心でも読んでたかのような言葉だ。

「実際ないけどね、私の人生の意味……惰性で生きてるだけで……」

 あの子のように茨の道でも多くの人々のために生きようとも、不動くんのように愛のために生きているわけでもない。意義も茨も自傷も何もない道を歩んでいる。

「これから見つかるかもしれないじゃん!」

「そうかなあ」

「そうそう」

「俺との結婚とかさあ」

「はいはい」

 意味を見つけても大変そうだがいつかそんな日がくるのだろうか。そう思いながら、不動くんの顔を見つめ返した。


 

 

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