選択と確率

 目が覚めたら見知らぬ白い部屋にいた。


「え……?」

 俺は、ついさっきまで自室で寝ていたはずなのに。部屋の中は白一色で、家具すらなく、扉が一つあるだけだった。

「気がついた?」

 いつの間にか部屋に女がいた。気の強そうな顔で、こちらを見下しているのが声色と表情に出ている。

「あなたには一つ選択してもらうわ。これを押すか、押さずにここを出ていくか」

 女の手には、何かのスイッチのようなものがある。

「これを押すと一回につき十万円手に入るわ。ただし、押した分だけ世界にいる誰かが死ぬの」

「は?」

「その"誰か"は外国のまったく知らない人かもしれないし、自国を担っている要人かもしれないし、あなたの大切な人かもしれないし、あなた自身かもしれない。

 でも押せば確実に十万円が手に入るの。あなた、お金困ってるんでしょう?」

 酷薄とした笑みを女が浮かべる。

 ……ああうん、夢、夢なんだろう。今日の夢は変な夢だなあ。夢なんだから押してみてどういう結末か見てみよう。

 実際金はない。ギャンブルですって給料日まであと五日で手持ちは千円。どうしようか悩んでたところなのだ。

「とりあえず一回」

 ポチっと、ボタンを一回押した。

「えっ」

 余裕の笑みを浮かべていた女が一瞬体を硬直させたのち、倒れた。あとは叩いてもつねっても動かないし、脈もない。そして天井からひらひらと一万円札が十枚、落ちてきた。

 たしかに世界の誰かが死ぬとは言ってたが。

「そういうオチ……?」

 言いながら十万円を回収して、扉から部屋を出た。


 目を覚ますといつもの自室のベッドの上。ああ変な夢だったと伸びをする。

 手にくしゃりという紙の感触があり、開いてみると一万円札十枚を握っていた。

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