気がかり
目が覚めたときは、夕暮れの教室だった。
「えっ……」
たしかに最後の授業が終わったころうとうとして、自分の机で眠ったのだ。でもほんの五分くらいのつもりだったし、友達にも起こすようにお願いしたのに。
手の中に紙の感触があった。開いてみれば、「揺すっても声かけても起きないから先に帰るね」という友達からのメモが握らされていた。
「どんだけぐっすり寝てたの自分……」
「起きた?」
「うわあ!?」
後ろから急に声をかけられて、驚きで体が跳ねる。声の正体はクラスメイトの不動くん。私との関係は友達の友達と言ったところだ。共通の友人がその場にいるときは話すこともあるが、親しいというほどでもない、というレベルの間柄。
「忘れ物とりにきたんだけどさ~、まだ寝ててびっくりした。もうすぐ暗くなるぞ」
「いやー疲れてるのかな……最近バイトけっこう入れてたからさ」
片手に財布を手に持ちながら、不動くんは反対の手でスマホを突き出してきた。たしかにそろそろ夜が迫ってくる時間帯だ。
「うわ~ほんとに寝すぎ! 早く帰らなきゃ」
「なあ」
「?」
「……まあ、困ってることとかあれば言えよ。相当お疲れっぽいし? 相談くらいには乗るから」
「? ありがとう……」
そんな風に言われるなんて、どれだけぐっすり寝入ってたんだろうか。それともよほど疲れた顔をしているんだろうか。どっちにしろ恥ずかしいことだ。
「じゃあね!」
「おお、じゃあな~」
そうして私は急いで帰る。早く帰って、ご飯を食べて、バイト先に行かなきゃ。
*****
帰っていくクラスメイトの背中を見送る。大丈夫かなあと心配になった。
だって今さっききてまだ彼女が寝ていたとき、寝言を言っていたのだ。
「死んじゃえ……みんな死んじゃえばいいのに……」
ずっとそう、言っていた。
「相談あったら乗るからなーまじで……」
もう誰もいない教室ではただのひとりごとを呟く。
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