霊感を強くする方法
霊感を強くする方法を教えてください、という内容のSNSこの書き込みをたまたま見つけた。
霊感が欲しいという書き込みは時々見るけど、霊感を強くしたいという書き込みはあまり見ない。その人のSNSを覗いてみると、十代の同じ年頃の女の子のようだ。オカルトが好きで、以前は霊感がなかったようだが、本に載っていた「霊感を得る方法」とやらを実践した結果、お化けや幽霊を視るようになったようだ。
『霊感を得たことで、怖いお化けがいる場所が分かるようになった。みんな信じてくれないだろうから霊感のことは黙っているけど、怖いお化けがいる場所に行こうとしたらさりげなく別の場所に誘導したりして助けたりした。
もっと強い霊感を持って、お祓いなんかもできるようになって、もっとたくさんの人を助けていきたい』
そういった内容の書き込みがあった。
(霊感が強くたってお祓いができるようになるわけじゃないんだけど……)
だったら私はとっくに"霊感少女"じゃなくて"霊能者"になっている。
しゃっ、と窓にかかったカーテンを開ける。今日の空は、緑色。
空は原色の緑色。どんなお化けの仕業なのかそれとも意思のない現象なのか、ともかく原色で空が染まる日は多い。まっ黄色の日もあるし紫の日もあるし、真っ赤な日もあるし茶色の日もある。ピンクの日だってある。全部原色で。絵や写真や映像、そして霊感のない人の話からするに空は基本的に水色で、夕方はオレンジで、夜は黒。それも時間帯によって濃淡が変化するから、原色なわけではないらしい。いいなあ、多分原色の空よりはキレイだと思う。
そしてそんな原色の空は緑一色というわけではなく、まるで雲の代わりと言わんばかりに中年男性の顔がいくつも規則的に浮かんでいる。白黒で、質が荒くて、まるで古い新聞紙に掲載された写真のようだ。厚みを感じられないそれは、生首が浮かんでるというよりは、写真が空に貼り付けられているようだ。その白黒の知らない中年男性の顔が空に「そういう模様です」とばかりに規則的に並んでいる。
かと思えば遠くの家々やビルの隙間からまるで初日の出のように同じ白黒中年男性の頭部が時間が経過するごとに空に上がっていっているのだ。
彼はしゃべらないのでなんでそんなことをしているのかわからない。そもそも意思を持つ存在なのかも怪しい。妖精さんたちも、あれが何か知らないようだ。そしてそんな中年男性が満ちる奇っ怪な光景の合間合間に脳みそ風船さんが飛んで、妖精さんたちは「あら、明日は雨ねえ」なんて話すのだ。
そんな光景を視るのも嫌で地のほうを視れば百足のようなお化けがずりずりと這っているし、逃げ遅れた妖精さんがそれに食べられて下半身が道路にぽとりと落ちた。そしてそれを何も知らない人間が踏み、飛び出た臓物におこぼれを貰うとばかりに小さなお化けが集ってくるのだ。
いつもの光景だ。
いつもの光景なのだ。
もう本当に嫌になっているのだ。
この光景は、霊感が弱い人には視えないことも多いらしく、語っても変な顔をされることがある。特に原色の空と空中中年男性は視える人は滅多にいない。どうやら私はよっぽど霊感が強いらしい。
「はあ………………」
カーテンを閉める。まだ部屋の壁を眺めていたほうがマシだ。染みが動いたり、雨の日に天井に波紋が広がったり、私にしか聞こえないカリカリカリカリという怪音にはさすがにもう慣れた。
でも生まれてからずっと視ているのに外の景色はどうしても慣れない。生理的な嫌悪がある。あれは本当は視てはいけないものだ、という確信があった。でも目を開かないと生きていけないから、結局私はあれを視て生きて、憂鬱になる。きっと盲目のほうが楽なのだろうが、自分の目を潰す気概はなかった。
「………………………………………………」
ともかく、霊感なんて強くなってもこれっぽっちもいいことはないのだ。
それを求めているこのSNSの子は、夢を見ている。特殊な能力で誰かを助けるという夢物語。書き込みをもっと読み込むと、正義感というよりは功名心や特殊な能力を持つ自分に酔っている感じがする。ますますおすすめしない。
けれど、そんな私の心に反して、既に複数のどこかの誰かが、"霊感を強くする方法"を教えていた。自分はこれで霊感を高め、いろいろあったけど今は陰ながら世の中の役に立ててますという体験談つきでだ。
そして『とりあえず全部試してみます!』という書き込みが最後だ。日付は昨日。つまり私が見つけた時点で全ては終わっているのだ。
リアルのことは知らない人なので、もうどうにもならない。どうしようもないのだと、せめて教えられた術が全部でたらめだったらいいなあと思いながら、何か面白いニュースとかないかな、と暇潰しの検索を再開した。
数週間後のことだ。あの書き込みのことを思い出して、また検索してみた。
過去の書き込みは全て削除され、唯一残っているのは『姉です。妹は体調不良のためSNSの更新ができなくなりました。以降書き込みはしません。妹と仲良くしてくださった方、ありがとうございました』という数日前の書き込みだった。
詳細はもはや分からず、ただ一つのアカウントが閉鎖された事実だけが残った。
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