霊感が欲しい(老婆)

 霊感が欲しい。

 

 目で見る世界ではなく、また違う感覚で視る世界を見てみたい。子供の頃、怖い話を聞いたときに"霊感"といったものの存在を知ったときから、ずっと霊感を得たいと思っていた。

 それは大人になるにつれ子供の頃の幻想となっていったが、老婆となり、次々と身近な人が彼岸へ旅立っていくに連れて再度湧き上がり、漠然とした憧れだった幼少期よりも強い思いとなった。

 そして私は調べた末に、"霊感"を獲得する術を知り、実行した。


 目を瞑って五分。自分で焚いた香の匂いがする。あと少ししたら香の匂いがなくなるから、それが成功の証だ。そうしたら私には"霊感"が備わっている。

 ドキドキしているうちに、香の匂いは風に撒かれたように急速に消えていった。

 目を開ける。昼間だが周囲は光のない真の闇、真っ黒だ。

 いや、違う。少しくたびれているが洒落たスーツを着て、はにかんでいる老人がいる。

『ああ、期待はずれだったかな。前々から言ってたように、見た目はあんまりかっこよくないんだ』

「いいえ、きっと世界で一番かっこいいわ」

 霊感を得たことで、生まれた頃より全盲の私は、ようやく先日旅立った生涯の伴侶の姿をとらえることができたのだ。

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