それはただ平凡な日常の一部
仕事を一通り終え昼休憩中に一服。これが一番の楽しみだった。
『やあ、元気かい』
『ああ、なんとかな』
煙を吐き出す。薄い色のそれはたちまち散っていき、ただにおいだけを残して姿を消した。
『今年の冬はあったかくていいな』
『だなあ。備蓄の減りも遅い。いいことだよ』
『ニンゲンの部屋は潜り込めたしな。快適だ』
手に持っていた包みを開け、女房が作ったパンを食べる。中に入っているジャムが甘くて舌がとろけそうで、頭の中が幸せでいっぱいになる。ボトルにいれていた茶を飲むと、口の中の甘味がさっと消えたあとえもいわれぬ清涼感が体を突き抜けていって、満足げな声が自然と出た。
手頃な葉っぱを敷いて、ごろんと横になる。見上げるは雲ひとつない青空。シンプルだが、この世の何者も勝てない雄大さを持つ空に自然と畏敬の念が湧き、自然と涙が出てきた。
『なにしてんだ』
『……いい』
空はいい。草花もいい。風もいい。ああ、なんて幸せなんだろう、と感動の涙を流しす。そしてその空という絶対的な存在の前で、ただその美しさを眺めることしかできなかった。
『変なやつ……』
誰がなんと言おうと、これが本当に気持ちいいのだ。
*****
「ケシの花が生えてたって」
「誰かが栽培してたの?」
「ううん、自然に生えたものじゃないかって。あ、千花、お醤油とって」
夕飯時、お母さんがそう言っていた。同じ町で、ケシの花が自然繁殖してたらしい。ケシの花は大麻の原料にもなる。
「はい。……ふーん……誰かがこっそり使ってたりして」
「こら」
不謹慎なこと言うもんじゃないの、と。
でも本当に誰かが使っているかもしれない。人間じゃなくてと、妖精さんとかが……。
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