不審者がいる
ここかぁ、と目の前の暗いビルを見上げる。
転職活動の最中、面接が一件決まった。事前に場所の確認をしておこうと普段降りない駅で降りて、こうやって明かりが少ない道をスマホ片手にふらふら歩いていた。
そして、駅から五分ほど歩いたところで見つけたのが目の前の、小さいが比較的新しい雑居ビル。ちゃんと看板に面接を受ける会社の名前が出ていることも確認する。
(今は七時……けどどの階も暗いから残業はせずに帰ってるってことだな。よしよし。
思ったより駅から近いな……。今の職場よりもアパートから近いし、これで駅の近くにスーパーがあれば文句ないけど、どうなんだろう。ここ今まで降りたことないんだよな)
まあ受かったらの話なんだが、と心中で自分にツッコミをいれる。
「ちょっと」
急に鋭い光が向かってきた。懐中電灯を持った中年の男だ。
「ここのビルの管理してる者なんだけどね、なんか用があるの」
「あー、すいません。今度ここのビルに入ってる会社の面接受けるんで、下見です」
「下見」
じろじろと管理人は俺を見回している。
「ならいいけどね、あんま突っ立ってるもんじゃないよ。例の不審者かと思ったよ」
「不審者? そんなん出るんですか」
「そうだよ。こう、大人の男でさ、手足はだらんてさせて、頭と体を全部ドアに押し付けるんだよ。んで、しばらくしたら頭ガンガンドアにぶつけるの。で、少ししたら逃げてくんだよ」
「頭おかしいんじゃないですかその人」
「そりゃおかしいんだからそんなことするのさ」
はぁー、と大きなため息をつく。
「薄気味悪いし取っ捕まえてやろうとしてパトロールしてるんだよ。あいつ神出鬼没だけどだいたい夜に現れるからね」
「へー、じゃあここに出てきてもおかしくないんじゃないですか」
「まあ噂をすれば影っていうしねえ」
がたっ
窓が揺れた。
自然と、俺も管理人もそちらを見る。
ごんっ
先程まで見上げていたビル。その隅の方にある、通用口なのであろう小さなドア。その上部のガラスの向こう、つまりビルの中には大人の男が虚ろな瞳でこちらを向いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます