標本
テレビで生き物が大好きな芸能人の自宅が紹介されていた。
『すごい数ですね!』
リポーターが驚いている。それも当然、と思えるくらい広い広い部屋の中にいくつもの剥製があった。熊のような大きなものから仔猫まで、種類も大きさも様々だ。
『この猫は昔飼ってたんですがね、産まれたときから心臓が悪くて、結局大人になる前に虹の橋を渡ってしまいましてね。思えばそれがきっかけですかねえ、剥製やら標本やらにはまったのは』
『生きているときと同じ姿で留めたい、ということでしょうか』
『まあそんなとこです』
次の部屋へと移動する。次の部屋は昆虫の標本をたくさん飾っている部屋だ。
『この青い蝶! きれいですねー!』
『でしょう? モルフォ蝶っていって……』
芸能人が話す最中、私は見つけた。
「……」
『次の部屋はねえ、みんなちょっと驚くんですよ』
言って、次の部屋への扉を開けた。
『何もない……ですね? 椅子とテーブルだけです』
リポーターの言う通り、今までは所狭しと剥製やら標本やらがあった。廊下にすら何かしらあったのに、その部屋にあるのは椅子とテーブルとカーテンだけ。
『物に囲まれる生活って好きなんですがね、たまになんもない部屋で過ごしたくなるんです。そういうときはこの部屋に来て』
しゃっ、とカーテンを開けた。
『この絶景を見ながらね、ゆっくりコーヒーを飲むんですよ』
『海が美しいですね! 水面がキラキラしていて!』
『いい場所でしょう。ここ』
そう言っているが、霊感がある私にはわかる。それはカモフラージュだ。
きっとこの芸能人は霊感があるのだ。
だってその部屋には、妖精さんの標本が、たくさんたくさん磔になっているから。
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